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令和6年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(札幌)安全衛生
令和6年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(札幌)を開催しました。
講演「酪農教育ファーム活動における安全・衛生・防疫対策」
堀北 哲也氏
日本大学生物資源科学部 教授


 酪農教育ファーム活動は、「酪農を通して、食や仕事、いのちの学びを支援する」ことを目的としています。
 本来は関係者以外立ち入り禁止の牧場(エリア)に人を招き入れているということを、どうクリアしながら子どもたちに(消費者)体験してもらえばよいかを確認していこうと思います。
安全対策
危険エリアの事前確認
 実際に想定した見学ルートを事前に歩いてチェックし、「危険エリア」と「見学可能エリア」を明確に表示・区分してください。ポイントは「自由行動ができる場所」、「スタッフと一緒でなければ行けない場所」、「立入禁止の場所」を分け、注意が必要なエリアについてはきちんと説明をすることです。
 危険区域の事前確認は子どもやお年寄り目線で行ってください。具体的な準備として、立ち入り禁止区域のアナウンスをすることです。立て看板やロープ、フェンスなどで物理的にエリアを遮断したり、誰がスタッフかが一目でわかるように識別が容易な服装にしたりするなどです。
 立て看板で大事なことは、分かりやすさです。小さい子どもでも読めるように難しい漢字にはフリガナをふること。分かりやすくても目に入らなければ意味がないので、見えやすい場所に設置することに気をつけましょう。
 また気をつけていても、予想外の事故などが起こる可能性はあるので、保険には必ず加入してください。
衛生対策
 酪農教育ファーム活動は「酪農を通して、食や仕事、いのちの学びを支援する」ことを目的としていますが、体験をしてもらうために、本来「関係者以外立ち入り禁止」である牧場に人を入れることになります。そのため衛生・防疫対策がとても大事になります。
 衛生対策としては、訪れた人によって牛が感染するか、訪れた人が牛(牧場に来たことによって)によって感染するか、2つの側面があります。
牛に感染して問題となる伝染病(家畜伝染病)
 牛の感染症対策の三原則は、病原菌を牛舎に「入れない」、「拡げない」、そして牛舎から「持ち出さない」です。
 家畜の伝染性疾病の予防やまん延を防止するため、家畜伝染病予防法という法律があり、その中に飼養衛生管理基準という基準があります。飼養衛生管理基準には飼い主が守るべきたくさんの管理方法があります。自分たちの牛を守るために必要なことです。受け入れ活動と関係なく、家畜の所有者が日頃から適切な飼養衛生管理を実施することが重要です。

衛生管理区域
 病原体の侵入およびまん延の防止を重点的に行う区域として「衛生管理区域」を設定し、衛生管理区域とそれ以外の区域の場所が明確に分かるようにしてください。また、衛生管理区域の設定は出入口の数が必要最小限とし、家畜、資材、死体等の持込みまたは持出し場所が可能な限り境界に位置するように設定することが必要です。

具体的な防疫対策(抜粋)
■ 参加者名簿を作る
■ 動物と接触する区域、接触しない区域を明確に区別
■ 入場者に協力を依頼
■ 口頭、場内放送、パンフレット、Webで防疫措置を周知
■ 肉製品を含む食品の持ち込み禁止

 参加者の名簿は伝染病が発生した時に、「いつ、誰」が牧場に訪れたかをさかのぼることができますので、必ず提出してもらいましょう。また、その時には一週間以内の海外渡航歴や牛舎を渡り歩いていないかも確認してください。
 酪農教育ファーム活動のような交流活動に影響の大きい点として、衛生管理区域専用の長靴、衣類の準備と使用が義務付けられたことです。ただし、これには代替措置があり、「観光牧場等における病原体の持ち込みおよび持ち出しを防止するための規則」を作成し、家畜防疫員の確認を得たうえで、入場者に防疫対策の周知協力を求めることで、この措置に代えることができますので、そういった部分をきちんと抑えて活動していただければと思います。

踏み込み消毒について
 消毒剤の多くは有機物がついていると消毒力が減少しますので、踏み込み消毒漕へ入る時は事前に靴の汚れを落としてから入るようにしましょう。また、消毒剤の濃度を守り、できればこまめに取り換えてください。
 消毒剤の中には、2つ同時に使用すると、効力を相殺してしまうものもあるので気をつけましょう。

最近の家畜衛生について
高病原性鳥インフルエンザ
 アメリカで、乳牛への高病原性鳥インフルエンザの感染が確認され、テキサス州ではこの乳牛に直接接触した農場従業員(人)への感染も確認されました。牛に感染した場合、乳房炎のような症状がでます。人に感染した場合は大した症状はなく回復しますが、他の病気同様の防疫対策をして、農場内で1羽でも野鳥が死んでいたら、家畜保健所へ届け出るようにしてください。

ランピースキン病
 ランピースキン病はlumpy(でこぼこした)skin(肌)になる病気です。日本では初めて感染が確認されました。ウイルス性の感染症で人には感染しません。汚染飼料、水や器具、または蚊やハエ、ダニなどを介して感染します。さらに感染した牛の唾液や乳汁などの分泌物からも感染します。
 症状は発熱、乳量の減少、でこぼこした肌、鼻や目の出血などです。海外では主に感染地域の牛の移動制限、症状のある牛のとう汰、及びワクチン接種が行われています。死亡率は高くなく、自然治癒しますが、発生及び感染拡大を防止することが重要ですので、気になる症状があれば、最寄りの家畜保健所などへ相談してください。防疫対策には飼養衛生基準の遵守が重要です。
牛からヒトに感染して問題となる病気(人獣共通感染症)
 牛からヒトに感染して問題となる病気には、クリプトスポリジウム、腸管出血性大腸菌、カンピロバクターやサルモネラ症などいろいろあります。
 こういった感染症の感染リスクを低減させるためには、とにかく手洗いの励行です。うがいも行うとなお良いです。
 手洗いのコツとしては、よく泡立てて、最低20秒間は洗うことです。洗浄後は流水で洗い流して、清潔なタオルやできればペーパータオルでふき取ってください。流水と石けんで15秒間手洗いすると手の細菌数は4分の1から12分の1に減少に、さらに30秒間手洗いすると手の細菌数は63分の1から630分の1に減少するという報告があります。
生乳の取扱い
手作り体験での注意点
■ 搾った生乳をその場で参加者に飲ませない
■ 手作り体験の原料は市販の牛乳を用いる
■ 屋内・日陰で作業する
■ 手指の洗浄・消毒を徹底する
■ 容器は加熱(殺菌)可能なものを用いる
■ 作った乳製品は絶対に持ち帰らせない
  (不特定多数への譲渡には許可が必要(食品衛生法・乳等省令))
 手作り体験教室は、その場で食べることを想定しています。新型コロナウイルス感染拡大防止対策なども含めて、食べたもので食中毒を起こさないような注意が必要です。事前に保健所や家畜保健所などに相談をするようにしましょう。
環境美化
 私たちは、毎日牛舎にいて牛を見ていて当たり前のことでも、初めて来る人は牛舎や牛の少しの汚れに目が行ってしまいます。
 また、人は背景を見ます。どんなにかわいい子牛がいても後ろの壁や、周りが汚いとそちらに目が行ってしまいます。農家にとっては当たり前のことや、理由があってやっていることが見学者にとっては当たり前ではないことがあります。そこで誤解が生じます。
 自分たちの牛舎を見る時にはゼロ視点で見回ってみて、一般消費者の目線に立った畜舎環境の整備をして欲しいと思います。


日本大学生物資源科学部 教授 堀北 哲也氏

1960年 大阪生まれ
1986年 東京農工大学修士課程修了
  〃  千葉県農業共済組合連合会(ちばNOSAI連)
2005年 岐阜大学大学院連合獣医学研究科にて博士号(獣医学)
2015年 千葉県農業共済組合連合会(ちばNOSAI連)退職
  〃  日本大学生物資源科学部獣医学科教授
    (獣医産業動物臨床学研究室)
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