「教科の学び、広がる・深まる実践指導研修会(札幌会場)」を開催しました。
LAST UPDATE 2012/01/30
「教科と関連付けた効果的な体験活動-どう取り組む?」〜北の大地の誇れる産業「酪農」を活用して〜
 1月14日、北海道札幌市で、先生方を対象に「教科の学び、広がる・深まる実践指導研修会」を開催しました。
 この研修会は、先生方が日常で悩む「効果的な体験活動」の組み立てについて、酪農教育ファームで行われている活動や酪農家が語る言葉から、「酪農家の仕事」「牛を育てる酪農業」について紐解き、「食」や「いのち」「働くこと」などを教科と関連付け、学校での実践に役立ててもらうことを目的としています。
研修会概要
日 時:平成24年1月14日(土)
場 所:北海道札幌市中央区北4条西1丁目 
    共済ビル(ガーデンシティ札幌4F)
主 催:食といのちの学び支援全国協議会
共 催:社団法人 中央酪農会議
後 援:日本酪農教育ファーム研究会
協 力:日本教育新聞社
参加者:小中学校教職員など約20名

プログラム
■ 挨拶・説明(羽豆成二氏)
■ 講演(田山修三氏・廣瀬文彦氏)
■ グループワーク
■ 解説
挨拶
 お忙しいところ、たくさんの先生方にお集まりいただきありがとうございます。
 「酪農教育ファーム」という言葉、キーワードを初めて聞くという方もいらっしゃると思います。このような研修会も初めて参加される方もいるかと思いますが、まだ、この「酪農教育ファーム」は全国的に浸透していないのが現状です。
 本日、講師としてお話いただく廣瀬さんは発足の頃から「酪農教育ファーム」に携わり、力を入れていただいた方で、日本を、北海道を代表する酪農家の1人です。
 日本ではまだまだ活動が浅いのですが、年々活動が盛んになっております。昨年、一昨年は口蹄疫や東日本大震災などの影響で体験者が減っていますが、それ以前は年間80万人の方が牧場に行って学びを深めています。100万人はもうすぐというところに近づいているかと思います。特にここ北海道は日本有数の酪農地帯です。先生方のいる地域、北海道という地域を生かして、この地域の教材として酪農をもっともっと教育の場に使っていただきたいと思っております。


講演:田山修三氏
 まず、酪農教育ファーム認証牧場について、みなさんご存知でしょうか。「酪農体験学習のご案内」という資料を見ていただくと、中に認証牧場一覧とあります。この認証牧場というのは、酪農教育ファーム活動をやりたいという酪農家が事務局に申請をし、規程の書類を送ってもらい、認証審査委員会というところで審査を行います。そして審査が通ったら認証研修会を受けてもらいます。研修の内容は、酪農教育ファームとはどういう活動なのか、牧場の安全・衛生対策についての講義、酪農教育ファーム活動はどのように行われているのかなどを専門の先生に講義していただきます。その研修を修了してから、酪農教育ファーム認証牧場となります。
 そして、その活動を行っている酪農家の方々をファシリテーターと呼んでいます。酪農体験を通して「食」や「いのち」の大切さを子供たち自らが気付いてもらえるように酪農家の方にサポートしてもらうということです。
また、このファシリテーターというのは、3年に1回研修を受けていただく制度となっています。本日講義をしていただく廣瀬さんもファシリテーターです。
 普通の牧場にお願いした場合、もしかしたら断られてしまうかもしれませんが、この認証牧場とは、酪農体験を行う準備ができている牧場ということです。学校で申込みされる場合はこちらの認証牧場を選んでいただくのが良いのではないかと思います。


講演:廣瀬文彦氏
 酪農教育ファームを始めたきっかけですが、私は家が酪農をやっていて、4人兄弟で自分が長男ということもあり、これは定めだなと思って跡を継いでやっていたのですが、だんだんこの職業に目覚めていくようになりました。
 30年近く前の話ですが、東京の男の子から電話があり、「コーヒー牛乳って牛にコーヒー飲ませたら出てくるの?」と言うのです。最初いたずら電話かと思いましたが、その子に「君が赤ちゃんの頃、お母さんのおっぱい飲んで育ったよね?」と聞くと「覚えてない」というのです。困ったなと思いましが、「妹がお母さんのおっぱい飲んでいるのは見たことある」と言うので、「じゃあお母さんがコーヒー飲んだらコーヒー牛乳が出てくると思う?」と聞くと「出ないと思う」とはっきり言うのです。「じゃあ牛もそうだと思う?」と聞くと「分からない」というのです。
 これは、牛乳が何なのか?ということが子供たちはよく分かっていない、ということに私が気付いた瞬間です。
 その頃にミルキングパーラーという搾乳をする施設を建てて、2階から見学できるように通路を造りました。早速小学3年生の次男が見てましたが、そのうち担任の先生が授業で受入れをしてくれないかとお願いが来たのです。ちょうど3〜4年生は社会科の授業で地域の産業、農業について学んでいるらしく、たまたま社会科の副読本で「酪農」という言葉がなかったそうで、酪農家についての説明が全くないので、どうか受入れをしてもらえないかというお話でした。しかし、何を話せばいいのか悩みました。先生は、酪農家の1日の仕事、酪農家の苦労、楽しいことなどいくつか話してもらえればということで、酪農教育ファームの活動を開始しました。

子供たちに牛についての説明をする場合
 まず、この白黒の牛、何ていう種類か分かる?と聞きます。すると「ホルスタイン」と答えてくれる子がいますので、よく知っているね!と誉めてあげると子供たちはとても喜びますね。そして、牛は「4」という数字が好きなんだけど、何か分かるかな?と質問します。胃、足、乳頭は全て「4」ですね。そしてもう一つ、これは子供がとてもユニークだなと思いましたが、うしの「し=4」だそうです。
 なぜこの質問をするかというと、胃袋の説明のためです。これは結果から言うと、牛乳はお母さん牛からの贈り物なんだよ、ということを説明したいからです。なぜ胃が4つあるのかというと、人間が食べられない草を消化するために4つ必要なんだよという話をします。

※田山氏・廣瀬氏の詳しい講演内容はこちらよりダウンロードできます。


グループワーク
研修会に参加いただいた方を5グループに分け、「もし修学旅行に酪農体験を組み込むとしたら、どのような形にしたいか」を3つの想定で話し合っていただきました。
1.小学6年生または中学生 
2.修学旅行のコースに入れる(3〜6時間位) 
3.事前学習と実際体験させたいこと、事後学習の内容
Aグループ
 中学校と小学校を分けて考えました。
 まず小学校から、牛って何だろう?という点から「牛はミルクを出す」「お肉になる」「どのくらいの大きさかな」など色々なものを出してみてから、牧場に行って見ようという流れにしようかと思います。
 体験して欲しいものは、乳搾り体験などで温かさや息づかいなどを感じてもらえたらと思います。
 体験後は新聞を作ってもらいます。そして最終的に「いのち」は大切なんだ、「食べること」は大切なんだということを知ってほしいです。
 中学生では2年生の修学旅行で農業体験に行っていますが、それをすべて酪農に変えたいと思います。あと3年生の修学旅行でも入れられるかと思います。職業体験として酪農はどういう大変さがあるか、現在TPPの問題があるのでその辺りから深く考えさせたいと思います。また、社会科、理科、家庭科の各教科と関連付けたいです。
 体験は半日。牛舎の清掃や乳搾りなどをやらせたいと思います。
 事後学習は新聞でまとめ、コンクール的な形にしても良いかと思います。絵手紙も美術と関連付けられるのでやってみたいと思います。
Bグループ
 テーマとして「食」と「職」をかけて、牛乳から入ろうかと思います。職業から「いのち」「食」のことへ繋がることが出来たらと思います。小学6年生の修学旅行を設定していますが、給食で牛乳は毎日飲んでいるので、「この牛乳はどこから来るんだろう?」「誰が作っているんだろう?」という点から始めて、広く浅くだいたいの疑問を調べることを事前学習にしたいと思います。
 そして、現地での体験学習に、乳搾りやエサやり、エサを食べる姿を見せるなど、牛と実際触れ合うことをさせたいです。また、酪農家さんがどのように牛と接しているのか、経済動物についてなどを話していただければと思います。
 事後学習では、子どもたちが撮った写真を模造紙などに貼り、分かったことや酪農家さんから聞いた話など、感想も含めまとめたいと思います。
Cグループ
 テーマはお母さん牛の贈り物ということで、牛乳は身近なものだけどどこから来ているのかという点から入りたいと考えています。中学3年生の修学旅行で、廣瀬牧場さんに伺うことを設定しています。
 事前の学習では1時間目は牛乳の流通、牛乳の栄養面、2時間目は牛乳のイメージ交流、最初は負のイメージが多いと思いますが、それを調べたいと思います。
 実際の体験は3時間くらいを想定しています。廣瀬さんのお話でお乳を出すための餌のお話、またお母さん牛の血液が牛乳になっているなど命を観点にお話していただけたらと思っています。体験については餌の観察、牛の様子、手触り、搾乳体験などです。
 事後学習は2時間ほどで、1時間ははがき新聞といって、はがきサイズで3段組になっているのですが、文字と絵を入れてまとめていくというもの。また、お礼状については、かっちりしたものではなく、子供たちが体験して感じたままの気持ちを伝えられたらいいなと思い、はがき新聞を送るということも考えています。あとの1時間は再度イメージ交流で、牛乳のイメージがどのように変わったかを知りたいと思います。
Dグループ
 テーマは「食育」でいこうと思います。小学6年生を設定としていますので、事前学習では春くらいから朝の時間を利用して、新聞などに載る「食」に関する記事を集めて、少しずつ取り入れていきたいと思います。家庭科では自分の食生活を調べたりするので、どんなものを食べてるか、好き嫌いな食べ物など、調べたものをグラフやデータにしてまとめることも考えています。その中で、牛乳へと視点を移して、牛乳は必要なのか?給食で毎日飲むものなのか?などの問題意識を持つように促して体験へと繋げたいと思います。
 体験では、乳搾りや牛舎の掃除など牛と実際触れることで、牛乳ができる過程を学び、牛乳の大切さ、生産者の苦労などを知ってもらいたいと思います。
 事後学習では、子供たちはパソコンが使えるので、プレゼンを作って、参観日などで発表するのも良いのではと思っています。牛乳以外にも自分が嫌いなものについても同じようにルーツを調べ、出来れば嫌いなものが減ってくれたらと思っています。
Eグループ
 テーマは「いのち」や「食べ物」「フードリサイクル」とも絡めながらできればと考えています。事前学習では、牛乳の残量が増えているということ、何のために飲んでいるのかという栄養価の面を調べたいと思います。
 やりたいことは、体験活動と見学とお話を伺うことです。搾乳など温かい牛に触ること、酪農家さんのお話ではこんな苦労をしながら育てている、それが牛乳になっていることを知ってもらうためにも、選択性で、牛舎の清掃、餌やり、敷きわら運びをやらせたいと考えています。また、ただの草だと思っている牧草の見学や、牛の一生について、牛を観察することが大事だという話などを3時間くらいでできればと思っています。
 事後学習では新聞と絵手紙を考えています。新聞ではいのちについて、食べ物について学んだことをまとめ、絵手紙では酪農家さんへ送るためのお礼状として考えています。


まとめ
 調べるということはとても大事で、調べていくうちに調べたい!と、この「たい」を生むことがとても大事だと思います。総合学習でも「こういうこと調べてみたい」「こういうことやってみたい」これは意欲・関心ですね。それをもとに現場の体験に繋げることが大事かと思います。また、調べていく段階で、「こうかもしれない」の「かも」、「こうしたらいい」の「たら」、これもすごく大事です。
 このように、調べる、興味が湧く、こんな風に調べてみたい、こうかもしれない、これは問題解決そのものです。みなさんこの流れになっていたのでとてもよかったと思います。
 今回参加していただいた先生方にお願いしたいのは、体験してくださいということではなく、酪農について知らない人が本当に多いので、酪農教育ファームという活動があるということを周りの方々に広めていただきたいと思っています。

アンケートの結果はこちらから