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平成28年度 スキルアップ研修会(大阪・名古屋・札幌会場)
−酪農教育ファームにおける安全・衛生対策の確認−
大阪・名古屋・札幌会場にて講師の木島先生に安全・衛生対策の確認について講義して頂きました。
愛知県学校給食牛乳協会 愛知県牛乳普及協会 事務局長 木島 秀雄氏

 酪農教育ファーム活動をしている牧場は、一般的な牧場に比べ、家畜と人との接触の機会が多い。そのため、人を介在して牛が伝染病に感染するリスク、また人が動物由来感染症に感染するリスクが共に高い。人畜共通感染症であるO-157は、牛の糞便等に含まれており、人が牧場での酪農体験や牛の搾乳体験をした際、何らかの拍子に手に伝わり、そこから口に入って感染する場合がある。
 万一、家畜から人への感染症が発生した場合、発生元の牧場における金銭的損害と信頼の低下だけではなく、他の酪農家、ひいては酪農業界全体に大きな損害をもたらす。酪農家の皆さんの毎日の努力、注意でこういった事態は防ぐ事ができる。
自分1人位は、という考えはいけない。1人1人の努力、注意が大切。
Q 「清潔」と「衛生」の違い、分かりますか?
参加者:
「衛生的」は普段から殺菌等を徹底し維持されている状態。「清潔」は手を洗う等、その場でできる対策ではないかと思う。
木島:
「衛生的」とは、科学的根拠に基づき、健康を守ったり病気を予防したりするのに適している状態を指す。例えば消毒、熱湯でタオルを煮沸消毒する、使い捨てのペーパータオルを使用する等の配慮がされた状態は「衛生的」。
「清潔」とは、見た目でよごれがなくきれいな状態のこと。きちんと整理整頓されている、通路にゴミが無い状態を見てとれる、牧場であれば、排泄物がきちんと片づけられ、通路が確保されている状態である。そこに「踏み込み消毒槽」による靴底消毒を行うことなどの科学的根拠がなければ、「清潔」であっても「衛生的」であるとはいえない。
受け入れ時の来場者情報を記録しておくと、これからの活動に役立つ
 来場者が牧場に来た時は、受け入れる酪農家が案内役。分かりやすい言葉で説明してあげる事が大切。専門的な言葉を使うと、子ども達をはじめ一般の消費者はなかなか理解が出来ない。また、受け入れをした際は、毎回記録するのも重要。○○小学校、○年生、男性男○名、女性女○名、。どんな話をしたか、どんな話に興味をもっていたか、逆に興味を示さなかったか等を記録しておくと、これからの活動に役立つ。
手洗い場施設に必要な条件
1、必ず実行できる場所
  →来場者が動物エリアに出入りする際、必ず通る場所に手洗い場を設置する。
2、入場者数に見合った数
  →手洗い場の数は20人までで2個、50人までで4個、100名までで8個が目安。
3、手流水・石鹸を使用
  →貯留水は使わず流水で、石鹸を使って手洗いをさせること。固形石鹸より液状石鹸が望ましい。手を拭く際は、使い捨てのペーパータオル等を使用する。
4、だれでも使用しやすい設計
  →背の低い子どもや、ハンディキャップを持つ体験者でも使いやすいように配慮する。
 細菌は、手洗いをしっかりと行えばほとんど落ちる。手を拭くのも、タオルを共有するより、ペーパータオルで拭いた方がよい。そのペーパータオルで蛇口を閉めるとさらに衛生的。手洗い後に消毒液を使う場合は、手の水分を十分に拭き取ってから行うこと。アルコール消毒液は、70%以上の濃度で効果が出るが、手が濡れていると薄まって効果が半減し、除菌の意味が無くなってしまう。
観光牧場ではない普通の牧場で完璧な手洗い場を設置するのは難しいと思うが、様々な工夫で衛生的に清潔に手が洗える場所をぜひ作って欲しい。
また、家畜伝染病予防のためには、衛生管理区域の設定と、牧場に出入りする人や物品の消毒が必要不可欠。出入口に消石灰を撒いたり、体験者のブーツカバーの着用や踏込み消毒漕による靴底消毒を行ったりすること。なお、踏込み消毒槽に使う薬剤について、使用量や方法などが明記されているので、その通り行う事。効果を出すためには、正しく使用することが大切。
入れない・拡げない・持ち出さない
 人から牛に感染して問題となる病気には、口蹄疫、乳房炎、ヨーネ病などがある。逆に牛から人に感染して問題となる病気には、食中毒の原因菌であるカンピロバクターや、クリプトスポリジウム、サルモネラ菌、結核、0-157などがある。0-157に代表される腸管出血性大腸菌は特に注意が必要で、対策には手洗いが最も効果的である。
 現在、牛はO-157の保菌者であるということが定説となっている。O-157の特徴は、感染してから発症するまでの潜伏期間が長いこと。胃酸に強い菌なので、菌が体に入って胃を通り過ぎ、小腸にまで行ってそこでき増殖する。その際に腸を刺激して、下痢の症状が出る。

 牛乳や、動物の毛などにアレルギーを持つ子どもが体験に来る場合もあると思う。参加者のアレルギーについて、引率者に事前に確認しておく事。また、夏は猛暑で熱中症も多くなっているので、熱中症の対策についても、知識を持って欲しい。

 口蹄疫については、正常国である日本とアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアの他の国では発症している。日本にも近い韓国、北朝鮮、中国、ロシアは常在国。日本では以前宮崎県で発生したが、全国の酪農家、国、そして獣医師の努力によって駆逐する事ができ、現在では正常国となった。
質疑応答
参加者:
イベントや学校での酪農体験会などに、子牛を学校に連れていくことがある。子牛のO-157保菌検査を保健所に出すのだが、完璧なものなのか。そのときは陰性だとしても、本番までに出ないと言えるのか、お聞きしたい。

木島:
1回検査をしても体験までに他の牛と一緒にしておくと、当然感染するリスクはある。検査をしてからイベント本番まで、他の牛から隔離しておくことが大事。検査後分けて飼育するのであれば1回の検査でも問題はないと思う。

参加者:
体験させる時に、長靴や、靴のカバーはもちろんだが、手袋も必要か?

木島:
体験者の手をできるだけ「汚さない」ことが大切。汚さないことで、牛、人間の感染症のリスクは大きく減る。もちろん手は汚れたら洗えば良いのだが、いったん汚れたものを落とし切るには、完璧な手洗いが必要。
体験前に手洗いをしてから手袋をさせる。体験後、手袋をはずして手袋は捨て、最後にまた手を洗う、というふうにすると、手が「汚れる」可能性が格段に減る。手袋は必須ではないが、もし用意できるなら、安価なもので良いので準備するとよいと思う。
愛知県学校給食牛乳協会 愛知県牛乳普及協会 
事務局長 木島 秀雄氏


 岐阜大学農学部獣医学科卒業。愛知県職員に獣医師として採用、30数年にわたり衛生関係部局にて食品衛生・環境衛生・公衆衛生・動物愛護法関係等の分野の業務に従事。
平成5年には県からオーストラリア・ヴィクトリア州に派遣され、乳業工場や牧場の現況、家畜衛生等様々な課題について研修を実施。
現在は愛知県学校給食牛乳協会、愛知県牛乳普及協会など5団体の事務局長として、学校給食での牛乳の供給推進や普及啓発をはじめとする牛乳消費拡大対策、牛乳生産・処理に係る衛生指導等に取り組む。同時に名古屋学芸大学にて、公衆衛生全般に係る非常勤講師も務める。平成25年より東海酪農業協同組合連合会主催のスキルアップ研修会で「牧場の安全・衛生」についての講師を務める。東海酪農業協同組合連合会とは、愛知県牛乳普及協会として協働し、牛乳消費拡大に向けた様々な普及啓発活動などに取り組んでいる。
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