スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



平成28年度 スキルアップ研修会(福岡会場)
−酪農教育ファームにおける安全、衛生対策の確認−
平成28年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(福岡会場)が行われました。
いとしま動物クリニック院長 酒井由紀夫氏

 スキルアップ研修会の福岡会場では、福岡県糸島市いとしま動物クリニックで主に乳牛の診療をメインに行う酒井由紀夫先生に、酪農教育ファームにおける安全衛生の対策について講義をしていただきました。
 先生は以前青年海外協力隊でシリアに赴き、2年間ほど活動されていた経歴もお持ちです。
 その頃住んでいたアレッポでは、牛乳を原因とするブルセラ病という感染症で沢山の人が亡くなったこともあり、乳製品といえば、牛乳ではなくヨーグルトやチーズの乳製品を食べる文化だそう。その他にも、現地の酪農や牧場の様子なども交えて教えていただきました。

−以下内容抜粋−

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◆けが、傷の応急処置は、「消毒よりも、流水で流す、乾燥させない」
酒井:
 以前は、傷口はすぐに消毒をして乾かすと治りが早いと言われていましたが、最近では、傷口を消毒するよりも流水できれいに流し、乾かさずに、傷口が乾燥しないよう湿らせた状態にしておく方が、治りが早いといわれています。絆創膏も、保湿作用があり体内で壊れた細胞を促進させる構造のものが販売されており、同じようなものを牛でも使用しますが治りが良いです。傷は乾燥させず、水できれいに洗うということを頭に置いて下さい。
◆牛の感染症の状況
酒井:
 口蹄疫は特に宮崎県の方は辛い記憶もあるかと思いますが、絶対に牧場に入れてはいけない病気です。予防法は、皆さんもご存じかと思いますが、消毒液の「ビルコン」。これが口蹄疫のウイルスに効果があります。加えて車両の出入り口に消石灰を撒くのが一番良い方法です。
 最近ではBVD(牛ウイルス性下痢・粘膜病)が問題になっています。この感染症は胎盤感染しやすく、流産を引き起こしたりするのですが、PI牛というBVD-MDウイルスに感染して大量のウイルスを周りに撒き散らす牛がいると、周りの牛に感染を広げます。PI牛は症状もなく元気に見えるので、感染していても見分けが付きません。現在、家畜には精力的に検査されており、まず牛舎にPI牛がいないか検査する事が大切で、生乳(バルク)でも検査可能です。家畜保健所に頼んで検査してもらいます。
 私の管内もそうですが、最近サルモネラ症が出ています。以前は一軒出ても、そこで終わりだったのですが、他の牧場でも発生するなど広がりを見せています。北海道や他の地域の獣医師からも聞くので、全国的に流行しているようです。サルモネラ症というと、一般的に鶏の卵からの感染が有名ですが、酪農では導入牛が原因で感染することが問題になっているので、十分気を付けてください。他に、ヨーネ病もなかなか無くなりません。オーストラリアでは、ヨーネ病が出たために、日本への乳牛の輸入が禁止されています。これは結核菌の一部ですが、症状が分かりづらく一般的には「慢性下痢」と思われています。しかし、下痢をしていなくても感染している場合があります。現在日本では法律により5年に一度全頭検査をしていますが、下痢が続くようなら獣医師に相談して下さい。
◆酪農の環境が人間のアレルギーに効果的?“Tレグ細胞”
 
 講義の最後には、北米のある民族にアレルギーが極端に少ない理由を研究した医師や、その暮らしを取材したあるテレビ番組の映像を紹介いただき、私達が悩まされることの多いアレルギーと酪農の関係性に関する知見を広めました。

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 北米で農耕や牧畜によって自給自足の生活を営む「アーミッシュ」には、アレルギーが極端に少なく、その理由は「Tレグ細胞」が体内に多いためと考えられている。「Tレグ」は、免疫による攻撃(=アレルギー)を抑え込む役割を持っており、アーミッシュは幼少期から家畜と触れ合い、細菌を吸い込んでいる為、「Tレグ」を多く持つようになったと言われている。逆に、現代の日本のように衛生的で細菌が少ない環境で育つと、このTレグ細胞が増えずにアレルギーが増加したとも考えられる。この“Tレグ”と呼ばれる免疫細胞が、アレルギーを根本的に治す治療の鍵として注目されており、“Tレグ”をコントロールすれば、免疫力を下げることなく、アレルギーを押さえ込めることが明らかになってきた。
(NHKアーカイブス、http://cgi2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009050338_00000より抜粋)
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酒井:
 住む環境が、人間の健康に良い影響を与える場合があることが分かります。牧場、酪農、畜産の現場は外から見れば、汚い、臭いというイメージで見られる場合もありますが、実は人間の体、免疫にとって大事な環境を作っているのです。
もう一つ、牛乳に関する知見をご紹介します。信州大学の能勢教授が、スポーツやウォーキング後30分の間に乳製品などのタンパク質を多く含む食品を摂取すると、傷んだ筋肉が再生される作用があることを発表していました。牛乳には未来があります。皆さんも大切に牛を育てて下さっていると思います。これからも続けていって欲しいと思います。
(有)いとしま動物クリニック 中央家畜診療所
院長 酒井 由紀夫氏氏


長崎県出身。大学卒業後、国内・海外ともに牛の臨床に従事する。現在は乳牛の周産期疾患の低減、蹄病治療を精力的に行っている。
蹄病治療では、診療車で削蹄用枠場を牽引して農家を回る。
昭和62年3月 酪農学園大学獣医学科卒業
  同年4月 福岡県酪農業協同組合連合会入会
平成2年4月〜平成4年10月 
  青年海外協力隊、シリアアラブ共和国酪農公団牧場で臨床業務従事
平成4年11月〜平成11年3月
  福岡県糸島地方酪農業協同組合家畜診療所勤務
平成11年4月〜 (有)いとしま動物クリニック開業 現在に至る
平成23年〜平成26年
  (公社)福岡県獣医師会副会長・産業動物部会長を務める。
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