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2019年度 スキルアップ研修会(東京会場)ー酪農教育ファームにおける安全・衛生対策の確認ー(抜粋)
酪農教育ファームにおける安全・衛生の基準
天野 はな
千葉県農業共済組合連合会
西部家畜診療所 技術主査補
 


酪農教育ファーム活動では、なぜ『飼養衛生管理基準』を重んじるのか
 衛生管理区域とは、病原体の侵入防止のために衛生的な管理が必要となる区域を指します。
 飼養衛生管理基準では、衛生管理区域を設定するとともに、当該区域への必要のない者の立ち入りを制限するように定められています。しかし、酪農教育ファーム活動を行うにあたっては、当然牧場内に訪問者を受け入れ、衛生管理区域を開放しなければいけない場合がほとんどでしょう。
 飼養衛生管理基準は、家畜伝染予防法という法律の中の農林水産省令に位置付けられています。これに従わない場合の罰則規定もありますのでご注意ください。
 酪農教育ファーム活動の目的は『酪農を通して食やしごと、いのちの学びを支援する』ことです。この活動は、家畜を飼っている現場の人にしかできない、本当に重要で貴重な社会貢献であり、世間に理解を深めてもらうことで、私たちの業界の存続につなげる役割もあります。社会的に認められた活動とするには、法律で定められた基準をよく理解して行うことが重要です。
家畜防疫に関する最新情報の把握
■家畜保健所から提供される情報を必ず確認し、指導に従うこと
■講習会への参加、農林水産省のホームページの閲覧など、家畜防疫に関する情報を積極的に把握すること
■家畜保健所が行う検査を受けること

 高い意識を持って、自分から情報を取りに行くように心がけてください。

口蹄疫について
 口蹄疫の写真ならもう何度も見たという方もいると思いますが、日ごろから再確認し、意識を高めておくことが大事です。そうすることで、牛が普段と違うことに気づくことができます。飼養衛生基準に定められる「家畜の健康観察」にも当たります。

豚コレラついて
 現在、法定伝染病である豚コレラが日本で26年ぶりに発生しています。また、アフリカ豚コレラが隣の韓国まで来ています。
 特にアフリカ豚コレラは致死率100%でワクチンはありません。近隣の清浄国は台湾と日本だけになっています。

衛生管理区域への病原体の持ち込み防止
■出入口は必要最小限に
■必要のない者を立ち入らせない
■接触の機会を最小限にする
■車両消毒
■手・靴の消毒
■その日のうちに他の牧場へ行った人・使った物
■海外に渡航した人
感染症の基本対策
「入れない、拡げない、持ち出さない」
入れない:病原体を牧場に入れない
拡げない:牛から牛への他の個体へ拡げない、牛から人へ拡げない
持ち出さない:牧場の外へ持ち出さない

 酪農教育ファーム活動を行う中で感染症を防ぐために一番効果的なのは、手洗いの励行です。これは一般の牧場でも、観光牧場でも、学校や研究機関でも、どこでも同じだと言えます。手洗いの方法が描かれている図等が手洗い場に貼ってありますでしょうか。
 また、手洗い場の環境はいかがでしょうか。個人的な見解ですが、手洗い場が明るいと牧場の病気も減ります。暗い水回りだとバケツなどの搾乳器具、哺乳器具の汚れが見えません。ご自身の牧場の確認をお願いします。
牛と人の共通感染症対策
 牛と人との共通感染症はたくさんありますが、牛から人への代表的な病気である病原性大腸菌O-157についてお話しします。
 O-157のキャリアは牛であることが定説化しつつあり、健康な牛の15%前後の糞から検出されます。
 O-157の1番の予防法は手洗いの徹底です。アルコールでも殺菌できますが、汚れが残っていては意味がありませんので、まずは手洗いが大切です。

病原性大腸菌O-157の特徴
■健康な牛が保菌している(0.5〜15%)
■牛の糞で汚染された何らか(水、食肉、無殺菌牛乳)が、口から入って感染する(経口感染)
■3〜10日間の潜伏期間
■乳幼児・高齢者で出血性下痢になることも
■急性腎不全から溶血性尿毒症症候群にまで至ると死亡することも
安全対策
1.立ち入り禁止区域
2.アレルギー体質の方への配慮
3.熱中症対策
4.ケガをした時の留意点
5.保険加入

アレルギーの方への配慮
 牧場には、動物の毛、ダニ、花粉、粉じん、乾草などアレルゲンが多く存在しています。アレルギー症状が出た場合は、安静にして、衣服をゆるめ、5分たっても治まらない、ひきつけを繰り返すときは救急車を呼んでください。発熱を伴う場合は、ほかの病気の可能性があるので、症状が治まっても医師の診察を受けるようにしてください。

熱中症対策
■説明は木陰などの涼しい場所で
■屋外ならば帽子
■牛と触れ合うタイミングをはかりながらこまめに水分補給
■子ども、高齢者には特に注意
  皆さんは毎日牧場で作業をされていて、暑さには慣れていると思いますが、一般の方はそうではありませんので、体験のスケジュールにはゆとりを持つと良いと思います。
出前授業での搾乳体験
■体験者の情報が確認できる場合のみ
 (不特定多数の参加イベントには牛を連れていかない)
■衛生上の動線確認(手洗い、足ふみ消毒)
■体験前後の手洗い・靴底消毒
■O-157の保菌検査の実施
酪農教育ファーム活動における『安全・衛生・防疫対策』で最も重要なこと
 それは事前の打ち合わせです。訪問者が来る前に、引率者、行政などの関係機関、牧場内のスタッフや家族と注意点を共有しておくこと。訪問者の導線を想定し、目の届く動きができること。当日は訪問者によく説明してから始めることです。これらを怠ると、衛生対策・防疫対策は水の泡になってしまいます。
質疑応答
Q.1
 海外からの観光客は基本的に牧場見学をお断りしたほうがよいでしょうか。
天野
 そうなります。飼養衛生管理基準には、過去1週間以内に海外から入国または帰国した人は農場へ立ち入らせないよう定められています。
Q.2
 飼養衛生管理基準に、過去1週間以内に海外から入国・帰国した人は農場への立ち入りは禁止、更に過去4か月以内に海外で使用した衣服および靴を持ちこまないこととありますが、人については1週間なのに対して、衣類は過去4か月となっているのはなぜでしょうか。
天野
 私は専門家ではないのでおそらくという答えになりますが、4か月もあれば衣類を洗濯しているのではないかということだと思います。
 迷ったらまずは行政にご相談されると良いと思います。

千葉県農業共済組合連合会 西部家畜診療所 技術主査補 天野 はな氏

東京都出身。産業動物臨床の学生実習中に食糧生産現場の仕事の尊さに感銘をうける。同時に畜産現場での女性獣医の活躍を知り、大動物臨床を目指す。
令和元年度より酪農教育ファーム研修会の講師を務める。
趣味はスキューバダイビング。SSI認定マスターダイバー。
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