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2019年度 スキルアップ研修会(札幌会場)ー酪農教育ファームにおける安全・衛生対策の確認ー(抜粋)
酪農教育ファームにおける安全・衛生の基準
村田 亮
酪農学園大学 獣医学群講師
 


酪農教育ファームにおける安全・衛生の確認
 みなさんはすでに認証されていて、安全・衛生対策もしっかり学ばれているかと思いますが、少しずつ更新された情報もありますのでその辺りも含め、再確認をして頂ければと思います。
安全について
1.危険区域の事前確認
 事前に見学ルートを歩いてチェックし、「危険エリア」と「見学可能エリア」を明確に表示・区分するようにしてください。
 普段生活している中では危ないと思わなくても、きちんとした手順に基づいて見てみると危険な部分がある場合があります。普段から使っていて便利だからという理由で置いてあるものも、外部の方が来た時に問題が生じる場合があるので気を付けましょう。

2.アレルギー体質の子どもへの配慮
 事前に必ずアレルギーの有無について確認しておいてください。牛と直接関係のないアレルギーであっても一応聴き取っておくことで、その子どもがアレルギー体質だという把握ができます。自分にアレルギーがあると自覚をしている子どもは良いですが、今まで平気だった子どもがこれまで接したことがないアレルゲン(寝藁、牛舎の粉塵、牛のフケなど)に触れアレルギーを引き起こす場合もあります。アレルギーが起きうる環境だということを通達することも含めて事前に聞き取りをすると良いと思います。

3.熱中症の予防
 まず体調を整えてくること(睡眠不足などないように)、通気性の良い服装と帽子を着用して来ることを事前に通達しましょう。
 また、こまめな水分補給を心がけてください。衛生管理上、牛舎内で水分補給はしてはいけませんが、体験後の手洗い後に、出入口等で水分補給できる環境を作れると良いと思います。

4.怪我についての留意点
 最近は、安易に傷口に消毒液を塗ったり、飲み薬を飲ませたりしてはいけないということが浸透してきました。さらに傷口は湿度を保ったままというのが最近の鉄則ですので、ガーゼではなく、湿度が保てる傷パッドのようなものを用意すると良いと思います。
衛生について
感染症の基本対策
■入れない(出入り口における靴底消毒など)
■拡げない(導線の確保、牛舎間の踏み込み消毒槽の設置など)
■持ち出さない(牛舎を渡り歩かないことなど)

牛に感染して問題になる伝染病
■口蹄疫
■BVD、RSなどウイルス性呼吸器病
■ロタ、コロナなどウイルス性下痢症
■サルモネラ症
■黄色ブドウ球菌
 口蹄疫の発生状況を見ると、日本を除いたほとんどの国が非清浄国であり2008年以降にも発生しています。
 近年、アジアからの観光客が大変多くなっています。北海道に旅行にきて、突然牧場を訪れ、見学や乳搾りをしたいといってくることもあるようです。事前に予約をしてもらい、訪れる日や服装、同じ日に他の農場を出入りしないか等の確認ができる場合はよいかと思いますが、飛び入りで見学したいというのは、基本的にはお断りした方がよいと思います。
 外国からの観光客をどのように受け入れるかについても、農場で基本方針を決める必要があると思います。
感染症について
1.感染源(微生物そのもの、微生物を持つ動物など)
2.伝播経路(感染源と感受性宿主をつなぐもの)
3.感受性宿主(微生物が体内に入ると病気を起こしてしまう動物、人間など)

 感染症が起こるまでには3つの要因があり、このどれか1つでも欠けると感染症は起こりません。口蹄疫においては、この3つの要因のそれぞれが厄介です。
 まず感染源は、口蹄疫ウイルスそのものや既に口蹄疫に感染している動物です。口蹄疫のウイルスは極めて少量で感染が成立します。
 次に伝播経路ですが、極めて少量で感染する上に、風に乗って飛ばされる厄介な病原菌ですので、車のタイヤについたり、塵となって運ばれたりしてしまいます。
 最後に感受性宿主です。口蹄疫は偶蹄類という蹄が偶数の動物しか感染しません。発熱やよだれがあり、蹄や口の粘膜面に水疱を形成する病気です。治らない病気ではありませんが、乳量が落ちるなど非常に生産性が落ちます。日本全体の農家に与える影響が大きいという事で、基本的に「治療する病気」としては考えられていません。
 みなさんの農場の中で3つの内のどれかを1つを必ず無くす事を目標に、日々の衛生対策を行っていただきたいと思います。
この中だと、伝播経路の遮断が一番アプローチしやすいと思います。
海外からの観光客に限らず、同じ日に複数の農場を往来する人の入場を禁止しましょう。併せて牛舎環境周辺に消石灰を散布しましょう。
 口蹄疫ウイルスの消毒には、4%炭酸ナトリウム液(別名4%炭酸ソーダ液)や消石灰が効果的です。口蹄疫やノロウイルスにはアルコールは効きませんので注意してください。ウイルスは種類によって効果がない消毒剤があります。口蹄疫やノロウイルスには次亜塩素酸が効果的です。また消毒剤の温度にも注意してください

手洗い施設
■来場者が動物エリアから退出する時に、必ず手洗いが実行できるような場所に設置。
■入場者数に十分対応できるだけの数を設置。十分な水量を確保。
■手洗いは流水で行い、貯留水は使用しない。
■小児やハンディキャップを有する来訪者でも使用しやすいよう設計。
■石鹸(できれば液状石鹸)を常備。
■ペーパータオルを常備することが望ましい。
■消毒薬は、必ず手洗い・除水の後に使用。
 伝染病の多くは手洗いや消毒の徹底で防げると思いますので、しっかり手洗い・消毒をしましょう。
質疑応答
Q.1
 次亜塩素酸を薄めて消毒の代わりにするとのことですが、どの位薄めたら良いですか?
村田
 例えば台所用漂白剤を使う場合、容器の裏面に人体に使う場合に消毒の希釈倍率が記載されていると思います。においが気にならない位に薄めても効果があります。スプレーボトルなどに移し替えて使ってもらうと良いと思います。
 また、人用に使用できる次亜塩素酸ベースの消毒剤も売っていますので、心配であればそちらを使用していただければと思います。
Q.2
 北海道の冬場の消毒について、雪の上から消石灰を撒いても効果はあるのでしょうか。
村田
 消石灰は水と触れるとphが変化し、消毒効果を発揮します。あまりの雪で消石灰がどんどん薄まってしまうと問題ですが、粉の状態が水と混ざりだんだん薄まることを想定して、雪の上からでもこまめに撒くようにし、雪と同時に踏んで消毒液として使用するのはよいと思います。
Q.3
 バスなどで来場される団体は、駐車場で車を降りるタイミングで消毒をした方が良いのでしょうか。もちろん牧場に入る前に消毒もしています。
村田
 車から降りる際に必ずここを踏まないと降りられないというところに消毒マットなどを置いておくと安心だと思います。一回目の消毒としてぜひ取り入れられたら良いと思います。

酪農学園大学 獣医学群講師 村田 亮氏

生産動物も伴侶動物も、人間が生きていくためには欠かせない大切な存在である。そんな身近な動物たちが感染し、病気の原因要因となる細菌について、予防や治療に役立つ基礎的な情報を収集。
畜産物やペット(=家族)が安心で安全に暮らし、快適に生活を送れることを目指して、細菌病の研究を進める。
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