家畜から人への感染症や家畜伝染病が発生した場合、その牧場の金銭的な損害や信頼の低下が想定されます。さらには他の牧場、ひいては風評被害も含めて業界全体に大きな被害をもたらす可能性もあります。
　被害が大きくなってからでは遅いので、少しでもおかしいと思ったらすぐに家畜保健衛生所に連絡をしてください。

１．安全に実施するための準備　　
２．乳牛の衛生管理　　
３．牧場、畜舎の清掃・消毒、環境美化
４．来場者への指導

■異常牛あるいは要注意牛は隔離をする
■危険エリアと見学可能エリアの区分を明確にする
■畜舎周辺の整理整頓、踏み込み消毒槽を設置する
■手洗い場の準備や石鹸・消毒液等の確認を行う

手洗い施設の条件
■石鹸（できれば液状や泡状のもの）を常備する
■ペーパータオルを用意する
　（さらに、手を拭いたペーパータオルで蛇口を閉めると汚れない）
■冬場に温水が出るとよりよい
■給水栓が自動あるいは足で操作できるものだとよりよい

　手洗い場やトイレは、来場者の人数に合わせた数を準備する必要があります。手洗い場は牛舎の出口付近に設置し、体験後すぐに手洗いができるようにしましょう。小さな子どもや車いすの方等も使いやすいように低めの洗い場があるとなおよいと思います。
　石鹸はできれば液状・泡状のものが良いです。細菌を洗い流すのは泡の力なので、石鹸をきちんと泡立たせる事が大切です。また、子どもたちがきちんと手を洗っているかどうかを、ファシリテーター自身が目で見て確認しなければいけません。

１.病原体
　患者、あるいは自分で感染していると知らずに菌を保菌・排菌している健康保菌者、そして彼らの吐しゃ物・便・血液など。
２．感染経路
　経口、飛沫、経皮、接触など感染の経路。
３．宿主
　感染を受ける側の生き物のこと。人間、動物であれば牛や豚等。

　病原体、感染経路、宿主の３つがそろった時に感染症が起こります。
つまりどれかひとつが外れれば感染症は起こりません。

　来場者に対し、動物から感染する病気があることを説明する必要があります。多くの場合、動物に由来する感染症は、キスなどの過剰な触れあいを避け、手洗いを効果的に行うことで予防できます。
　手洗いは子どもたちが知っているような歌を替え歌にするなどして注意を引き付けながら行うと効果的かと思います。
　ファシリテーターが責任者として現場で指導をしていただければ、よりよい酪農体験ができると思います。

■入れない
■拡げない
■持ち出さない

　牛に感染して問題となる伝染病には、口蹄疫、ヨーネ病、サルモネラ症、黄色ブドウ球菌による乳房炎等があります。特に口蹄疫、ヨーネ病は経済的損失が大きく感染力も強い感染症です。
　口蹄疫は世界的に発生しており、日本で発生した際は、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパと同じくワクチンを使わずに清浄化しましたが、近隣の韓国や中国などまだ清浄化されていない国も多くあります。

　動物から人に感染して問題となる感染症にはカンピロバクター、サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌症等があります。これらはすべて牛が介在しています。特にＯ-１５７は死者が出ますので要注意です。
　多くの食中毒では１００万個以上の菌が体内に入らないと感染しませんが、Ｏ-１５７は１００個程度でも感染するという特徴があります。潜伏期間は３日から１４日と長く、酸に強いため胃酸に負けずに腸まで届いてしまい、ベロ毒素という毒素を出して下痢を起こします。
　平成２８年には日本で１０人の方が亡くなっています。妊婦や免疫機能低下者、乳幼児、高齢者は特に注意をして下さい。

　搾った生乳をその場で参加者に飲ませてはいけません。手作り体験の原料乳は市販の牛乳を用いて下さい。手洗いの徹底を優先させ、不特定多数への販売はもちろん譲渡する場合でも許可がいる場合があるので、事前に保健所に相談して下さい。

Ｑ.１
　手作りバター体験の際にバターミルクを飲ませる場合があるが、衛生面等で問題はないか。
木島
　原料に市販の牛乳乳製品を使っているのであれば問題はありません。問題は取り扱う過程が衛生的かどうかだと思います。きちんと手を洗って衛生的に行っているのであれば問題ないと思います。

Ｑ.２
　海外の方から牧場見学のオファーが来たらどうすればよいですか。
木島
　以前、オーストラリアの牧場へ行ったことがあるのですが、オーストラリアでは、牛は国家の大切な宝物であり、防疫面も非常に厳しく管理されていました。防疫対策をしっかりしないと牧場の中には入れません。日本においても、正直海外の方を入れたくないというはあると思います。
　どうしても受け入れなければいけないという事であれば、かなりハードルを高めてください。海外渡航者は、帰国後２週間は牧場に入れてはいけません。問題が起きてからでは遅いので、オファーがあったときまず家畜保健衛生所などに相談すると良いと思います。

　平成５年には愛知県からオーストラリア・ヴィクトリア州に派遣され、乳業工場や牧場の現況、家畜衛生等様々な課題について研修を実施。
　愛知県職員を退職後、現在は愛知県学校給食牛乳協会、愛知県牛乳普及協会など５団体の事務局長として、学校給食での牛乳の供給推進や普及啓発をはじめとする様々な牛乳消費拡大対策、並びに牛乳生産・処理に係る衛生指導等に取り組んでいる。
　名古屋学芸大学にて、公衆衛生全般に係る非常勤講師も務める。