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−安全衛生−(札幌会場)
講演「酪農教育ファーム活動における安全・衛生・防疫対策」
今内 覚氏
北海道大学大学院 獣医学研究院 教授


 普段は大学で牛や犬のがんなどに効く薬を作っています。新しい薬で動物も救える時代がくるといいなと思い研究をしています。
 衛生と安全については知っていることも多いと思いますが、改めて確認をしてもらえたらと思います。
酪農教育ファームにおける安全・衛生の確認
1.見学者・体験希望者などの受け入れ前の準備
2.農場での安全について
3.農場での衛生について
4.動物福祉について
1.見学者・体験希望者などの受け入れ前の準備
 コロナ禍に比べると消毒に関する意識が緩くなってきていると感じます。今はインフルエンザも流行っているので、他の感染症も併せて、消毒は今一度確認してください。
 また、蹴ったり頭突きしたりするような、少し注意が必要な牛は、見学者が触れないように隔離するなどしてください。
 私が学生の頃に実習へ行った農家さんのところでの話ですが、トラクターの鍵がつけっぱなしだったことがありました。見学者が記念に乗ってみたら、たまたま鍵がついていて動かしてしまう様なことがあるかもしれませんので、気をつけてください。薬品類の保管場所の鍵についても同様に注意をしてください。
 普段農場に行ったことのない方が来場していろいろ見学しますので、受入れる前に準備の再確認をしてください。
2. 農場での安全について
 いつも農場を歩いている皆さんは大丈夫だと思いますが、見学者は初めて牧場に来ます。ゼロ視点で事前に見学ルートを歩いて、「危険エリア」と「見学可能なエリア」を確認し、区分してください。入ってはいけないエリアには「立ち入り禁止」と書いた看板などの標識を立てておくと、見学者も入ってはいけないと判断できます。また注意が必要なエリアについては、なぜ注意が必要なのかを丁寧に説明するとトラブルもないと思います。
 最近はアレルギー体質の子どもへの配慮が大切です。昔は食べ物の好き嫌いで片付けられていたことが、実は食物アレルギーだったという事が分かってきて、今は無理やり食べさせることはありません。最近は見学者の中にもアレルギーを持っている方も多くみられます。食物だけではなく、動物の毛やフケ、牧場だと寝藁など初めて触れるアレルゲンで症状が出る場合もあります。アレルギーの有無については事前のアンケートなどで確認し、アレルギー体質の方がいる場合は気を付けてあげるようにしてください。また、普段触れることのない牛の毛や寝藁、おがくずなどのアレルゲンに触れることがあるという事も周知できると良いと思います。
3.農場での衛生について
 牧場での感染症の発生には2つのパターンがあります。
 見学者や業者の方、もしくはトラックなどの車両が牧場に出入りする(人やモノ)ことから病気が入るパターンと、牛が病気を持っていた、また農場の環境、従業員の健康状態が良くなく来場者に病気を移ってしまうパターンです。

 感染症の基本対策は「入れない」「拡げない」「持ち出さない」の三大原則が大事です。
1)入れない!
 出入り口の消石灰・靴底消毒・ブーツカバー・着替え・手洗い、消毒、マスク
2)拡げない!
 見学者の動線の確保・踏み込み消毒槽・健康観察・ワクチン・ネズミ・害虫駆除
3)持ち出さない!
 牛舎を渡り歩かない・踏み込み消毒槽・着替え・汚れのつきにくい服装・手洗い・消毒

 牧場に入れないこととして靴底の消毒とありますが、一番は良いのは専用の長靴を用意することです。難しい場合はブーツカバーを使用すると良いと思います。また、ウイルスは必ずしも靴底だけに付着しているわけではなく衣類に付着している可能性も否定できませんので、つなぎなどに着替えてもらうと良いと思います。あとは基本ですが、手洗いと消毒です。
 拡げないに関しては、見学者の動線をきちんと確保し、あちこち行かせないようにする。衛生上のルールを守ってもらうように説明をするようにしてください。
外部から牛に移ってしまう病気
 見学者などから牛に移ってしまう病気について、1番は口蹄疫です。他には、ロタウイルスやヨーネ病、あとは乳房炎の原因となるものも外部から来る人から持ち込まれる場合があります。
 宮崎県での口蹄疫の話は皆さんご存じだと思いますが、29万7808頭の牛、豚などの命が失われ、被害は畜産のみにとどまらず、観光や商業等の方面に拡がり、宮崎県だけで、2,350億円の損害がでました。農場への感染ルートは未だにわかっていません。ただウイルスの遺伝子解析の結果、2010年に香港、ロシア、韓国で分離されたウイルスと 98%以上の相同性(※同一の祖先に由来し、同じ構造・機能を持つ)を示したことから、アジア地域で流行していた口蹄疫ウイルスが何らかのルートで日本に侵入したと考えられています。
 口蹄疫は牛の舌に潰瘍ができたり、水泡ができたり、大量のよだれが見られます。ただ、他の病気でも同じような症状は見られますので、症状を見かけたら自分で悩まず、農済等に連絡をしてください。
 水泡の中に大量のウイルスが含まれていて、それが破れて周囲に移して拡がっていきます。特に豚は増幅動物と言って、ウイルスを体内で何倍も増やしてしまいます。宮崎で拡がった背景には周囲に豚農場が多くあったことも1つの要因だったかもしれません。

感染症成立の3つの要因
 感染症の成立には、「感染源」「伝播経路」「宿主」の3つの要因が関わっており、このどれか1つを断てば感染症は成立しません。まず、病原体がなければ病気にはなりません。病気になった人が遠くにいてもそこから経路がなければ届きませんし、移りうる動物(人)もいなければ、病気は起きません。
 農場に入れない対策としては伝播経路の遮断が大事です。他の農場との接触の遮断、複数の農場との往来に気を付ける。消石灰を散布、関係者以外の立ち入り禁止、あとは流行国からの帰国者を迎える場合は要注意です。牧場で海外の方を雇われている場合は、帰国後のモニタリングが必要だと思います。
 現在の口蹄疫の発生状況について、日本は清浄国ですが、周りには発生国があります。コロナ禍が明け、海外からの観光客が戻りつつあります。人の流れや観光客が多くなるとどうしても口蹄疫やその他の病気のリスクが上がりますので、注意していただければと思います。海外の方を迎える場合は、農水省から外国語で記載された伝染病発生予防のリーフレットがでていますので、活用していただければと思います。
 口蹄疫のほかにヨーネ病にも注意が必要です。牛が罹ると水も吸収できず、栄養も吸収できないので結果ガリガリになって衰弱死するものです。患畜認定された場合は、どんなに大切な牛であっても2週間以内に殺処分しなければなりません。ヨーネ病は日本中どこでも発生していて、家畜法定伝染病ランクは口蹄疫と同じカテゴリーになります。この病気も消毒で予防が可能なので、徹底的に農場に入れないように畜舎に入る前の消毒等を徹底していただければと思います。
 有効な消毒のポイントとして、アルコール消毒はコロナのときは大活躍でしたが、口蹄疫には有効ではありません。口蹄疫には、酸やアルカリが非常に効果的です。4%の炭酸ナトリウム液や、消石灰などです。ただ消毒効果は温度の影響を受けるので、注意してください。
 踏み込み消毒層は汚れに弱いので、有機物を除去してから入る、定期的に新しいものに変えていくと良いです。北海道では冬の寒さで水が凍ってしまうので、ウォッシャー液を加えるなど凍結防止の工夫を行うと良いと思います。消石灰は、塩素系や酸性と相性が悪く、効果が落ちてしまうので、組み合わせにも気を付けてください。
農場から来場者に移ってしまう病気
 農場から見学者などに移ってしまう人畜共通感染症としては、カンピロバクター、クリプトスポリジウム、サルモネラ大腸菌症、大体は糞便から移ります。
 実際の事例としては、東京都の小学校で児童がバター作りなどを行ってクリプトスポリジウムに感染、千葉県の小学校では酪農啓発施設、青森県の牧場でのふれあい体験で腸管出血性大腸菌O-157 に感染などがあります。感染症のリスクはどこにでもありますが、牧場での発生もあることを念頭においてください。
 基本的には、手洗いをきちんとしていただければ病原体は排除できます。手洗い啓発のチラシなどを使ってきちんと洗ってもらえるように注意喚起していただけたらと思います。アルコール消毒も同様です。
4.動物福祉について
 ニュースで牛を蹴る動画を見た方もいると思いますが、今はこういった動画はすぐにSNS上にあげられ拡散します。この動画は悪意をもって流れたのか分かりませんが、農場では普通のこと、理由があって行っていることが、一般の方から見たら「かわいそう」と思われてしまうことがあります。農場の環境や牛の扱いなど一般の方が見ているという事を念頭に置いて対応してもらえたらと思います。
質疑応答
Q.農場での衛生管理について、感染症の発生には野生動物の接触のケースもあると思います。北海道はエゾシカが増えていて心配です。
A.宮崎で口蹄疫が発生した時も、シカに移ってしまったらコントロール出来ないのではないかと言われていました。幸いそのようになりませんでしたが、北海道にもし口蹄疫が入ったとして、エゾシカが罹った場合には大変なことになるので、本当に注意が必要です。野生動物への対策はなかなか難しいと思いますが、柵を立てて入ってこないようにするなどの対策は大事だと思います。

Q.ヨーネ病の集団発生の事例は?
A.全国で発生していて、頭数としては700頭くらい報告されていて、北海道が一番多く発生しています。発生すると、2週間以内に殺処分しなければなりませんので、消毒の徹底など気を付けなければなりません。

北海道大学大学院獣医学研究院
病原制御学分野感染症学教室 教授/先端創薬分野 分野長 教授
獣医師、獣医学博士
今内 覚氏


専門は感染免疫学、臨床免疫学、腫瘍免疫学
令和5年度より酪農教育ファーム研修会の講師を務める。

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