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−安全衛生−(福岡会場)
講演「酪農教育ファーム活動における安全・衛生・防疫対策」
堀北 哲也氏
日本大学生物資源科学部 教授


 私は大阪で生まれ、東京農工大学を卒業した後に、千葉農済へ入り、29年間牛と豚の診療をしました。仕事をしながら大学へ通って資格を取り、今は日本大学産業動物臨床学研究室で生徒たちに教えています。
 本日はスキルアップ研修会ということで、知っていることもあると思いますが、今一度確認する気持ちで聞いてもらえればと思います。

安全な酪農体験のためのポイント
1.安全管理(来場者)
2.衛生管理(来場者と牛)
3.環境管理(牧場)
4.行動管理(来場者)
1.安全管理(来場者)
 受け入れ前に、注意が必要な牛は来場者と接触しないように隔離する、あるいは注意をしてもらうように喚起してください。薬品や農薬がある場合は、来場者が触らないように管理してください。重機や農作業用車両の鍵の保管も同様です。
 事前に見学ルートを歩いてみて危険なエリアをチェックし、危険なエリアと見学可能エリアは明確に表示して区分けをしましょう。注意が必要なエリアについてはきちんと説明して「立ち入り禁止」の看板などを入口や見えるところに表示してください。
 アレルギーの有無についても事前に確認が必要です。ただ牛舎に入って、ワラや牛のフケなどに触れ、初めてアレルギーに気付くこともあるので、咳込んだりしている来場者がいたら気をつけてあげてください。
 怪我をしたら、とにかく流水でながしてください。よく流して、傷口が乾かないように傷パットなどで覆ってください。最近は湿潤療法と言って湿っている方が早く治ります。あとはワセリンやくっつかないガーゼなども事前準備していくとよいと思います。また、傷が開いている、傷口に砂や泥が残って洗い流せない、血が止まらないなどあれば病院へ行くように話してださい。
2. 衛生管理(来場者・乳牛)
 衛生管理には、来る人に対しての衛生管理と牛に対しての衛生管理の2面があります。
 準備することとしては、農場出入口に消石灰を巻く、牛舎の入口に踏み込み消毒槽を置く。手作り体験をされている場合は保健所に届ける必要がありますので確認してください。
 あと何より大事なのは手洗いです。流水で手が洗える場所の準備と石鹸の準備です。ただ流水で洗うだけよりも石鹸を使った方が落ちが全然違うので準備をしてもらえばと思います。来場人数と蛇口数にもよりますが、石鹸を泡立てて順番待ちをしてもらっっても良いので、石鹸の数は多めに用意した方が良いと思います。
家畜の伝染性疾病の発生を予防するために
 家畜所有者が日頃から適切に牛を飼って衛生管理をしなければならないことが「家畜伝染病予防法」で決められています。家畜伝染病には鳥インフルエンザや口蹄疫、BSE、豚なら豚熱など様々です。
 2001年にBSE、次に口蹄疫が発生し、次々と今に続くような疾病が発生しており、ここ数年、家畜伝染病が大事になっています。
 2020年に飼養衛生管理基準の改正がされました。交流活動に影響の大きい点としては、衛生管理区域を決め、そこに入る時には専用の長靴と衣類を準備、使用が義務付けられたことです。2010年の宮崎口蹄疫の時には、1軒1着のつなぎということで私たちは着替えながら診療をしましたが、それが義務づけられました。そうは言っても人の出入りが多い酪農教育ファームや観光牧場では難しいということで、「観光牧場等における病原体の持ち込みおよび持ち出しを防止するための規則」というのを各牧場で作成し、家畜防疫員の確認をしてもらい、入場者に防疫対策の周知・協力を求めることで、専用の長靴等を準備しなくても良いという代替え案も用意されています。
3.環境管理(牧場)
飼養衛生管理基準
1.家畜防疫に関する基本的事項:管理責任
2.衛生管理区域への病原体の侵入防止:持ち込まない
3.衛生管理区域内の病原体による汚染拡大防止:拡げない
4.衛生管理区域外への病原体の侵入防止:持ち出さない

 家畜防疫に関する基本的事項では、病気に関する最新情報を必ず把握をすること、飼養衛生管理に関わるマニュアルを作成すること。そして衛生管理区域の設定です。母屋の横に牛舎がある場合もありますが、牛舎エリアと母屋エリアを明確に分けてください。もし病気が出た時に追えるように来場者の記録を必ずとり、保管してください。また愛玩動物の畜舎での飼育も禁止です。
 衛生管理区域への病原体の侵入防止については、病原体はおそらく人か物か、野生動物で運ばれています。風の場合もありますが、主に人や物、車、野生動物だと思いますので、主要衛生管理区域に入ってこないように防鳥ネットを設置、出入口は最小限にし、境界線を明確にすることと、車を消毒することが必要です。
 牛舎内に入ってしまった病原体を牛舎内で広げないようにするために、衛生管理区域の衛生状態を確認、いろいろな道具は消毒したり綺麗に洗うなど、整理整頓し、排せつ物の処理、排せつ物で餌が汚染されないようにする。また健康観察などに努めてください。
感染症発生のメカニズム
 感染症発生のメカニズムとしては、病原体と感染経路と宿主(人・動物)の三つが揃わないと、感染症は成立しません。どれか一つが欠けても成立しないのです。牛舎中に細菌が一切いない環境にすることは出来ませんが、例えば感染経路を断つと感染症が成立しないよいうにできます。
 口蹄疫には、酸性の消毒液やアルカリ性の消毒液が効果的です。口蹄疫やノロウイルスはアルコールが効かないので消石灰などを使います。消毒液は温度管理や濃度にも注意が必要です。踏み込み消毒槽の消毒液を作る際には濃度を守るようにしてください。
 また紫外線は消毒液の効果を減らすので、紫外線が当たらないように蓋をするなど工夫をしてください。消毒液は有機物に弱いので、入る時には長靴の裏の泥や糞を落としてから入るようにしてください。

牛からヒトに感染して問題となる病気
・クリプトスポリジウム
・腸管出血性大腸菌
・カンピロバクター
・サルモネラ症   など
 実際にふれあい体験等で感染しています。O−157はよく聞くと思いますが、クリプトスポリジウムも問題です。これは原虫で、目に見えない小さい卵状のものが牛の糞便の中に入っていて、何かの拍子に触れ、手洗いを中途半端に行っていると、食事の時に口に入って下痢をおこします。良い薬がないので、脱水をケアしながらひたすら耐えるしかありません。
 一番の予防対策はとにかく手洗いの励行です。15秒間洗うだけで4分の1、30秒間洗うと63分の1に菌が減ります。ただ流水で洗うだけではなく石鹸で良く洗い流すことが大事です。
4.行動管理(来場者)
「認証牧場で虐待?」問い合わせ事例が発生
 最近、畜産でも動物愛護や管理に関することがフォーカスされています。皆さんもそうだと思いますが、私は、畜産と動物愛護は両立すると思っています。
 牛や豚が気持ちよく暮らせることは、乳も多く出してくれるし、たくさん餌をあげて、どんどん太ってくれるので、牛や豚を安楽に幸せに飼うことと畜産生産性は同じ方向を向いていると思います。最後は殺して食べるけど、それまでは本当に福祉のことを気にしながら、飼っていることをぜひ来場者にも見てほしいと思っています。
 私たちにとっては当たり前のことや、理由があってやっていることが見学者にとっては当たり前ではないことがあります。そこで誤解が生じます。自分たちの牛舎を見る時にはゼロ視点で見回ってみて、一般の人が見たら「どう思うのか」という箇所を改善していくと良いかもしれません。

 来場者が牧場の写真を撮ることも良いと思いますが、最近はネットで悪意をもって拡散することが簡単にできるので、撮影する時は一声かけてもらうようにすると良いと思います。
来場者に必ず説明すること
■動物との過剰な触れあい(頬ずり、キス)を避けること
■手洗いを励行し、効果的な手洗い法
■飲食物の持ち込みは禁止
■小児に指しゃぶりをさせないこと
■必ず幼児には監督者が伴うこと
■おしゃぶり、ぬいぐるみ,おもちゃ等の持ち込みは禁止
■喫煙、化粧直しをしないこと
 牛から感染する病気があること、でもそれは約束を守れば絶対予防できることを来場者に説明をしてください。
 また、糞便に自ら触れようと思う人はいないと思いますが、「牛が立ったら糞をする」など知らない人は多くいます。ふいに糞便が掛かってそこから感染する場合もあるかもしれません。そういうことを来場者に周知させることもファシリテーターの役割だと思います。
 安全衛生・防疫に注意して楽しく学びのある酪農教育ファームを実践してもらえればいいなと思います。
日本大学生物資源科学部 教授 堀北 哲也氏

1960年 大阪生まれ
1986年 東京農工大学修士課程修了
  〃  千葉県農業共済組合連合会(ちばNOSAI連)
2005年 岐阜大学大学院連合獣医学研究科にて博士号(獣医学)
2015年 千葉県農業共済組合連合会(ちばNOSAI連)退職
  〃  日本大学生物資源科学部獣医学科教授
    (獣医産業動物臨床学研究室)
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