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−安全衛生−(大阪会場)
令和5年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(大阪会場)
講演「酪農教育ファーム活動における安全・衛生・防疫対策」
岡本 隆行氏
奈良県農業共済組合 家畜診療所獣医師 ※


 私は今の診療所に勤めて30年ほどになり、普段は種付けや病気を治すことを中心にやっています。子どもたちが牧場に見学に来ている時には獣医師として、命の大切さや牛のこと牛乳の美味しさなどを伝えています。また最近は畜産の現場に進む人が少ないのでこの仕事の面白みも伝えています。
 酪農教育ファームは一般的な牧場と比べて人の出入りが多いです。そのため牛にとっての家畜伝染病を人が運んでしまう機会も多く、反対に牛から人に病気が感染する機会も多い現場だと思います。感染などのことも知った上で、貴重な体験の場を提供していただければと思います。
安全な酪農体験のための対応ポイント
1.安全に実施するための準備等に係る安全管理  
2.乳牛の衛生・健康の管理  
3.牧場、畜舎の清掃・消毒、環境美化等の環境管理
4.来場者への指導等の安全行動管理

 まず、見学者を受け入れるための安全準備は意識して行ってください。受け入れ前には牛舎の清掃、また牛にも性格があるので、少し危ないと思う牛は隔離して触れることがないようにしてください。

確認ポイント!
1.危険区域の事前確認
2.配慮を要する子どもの確認
3.熱中症対策
4.ケガについての留意点

 見学可能エリアと立ち入り禁止の「危険エリア」を明確に区分してください。小さな子どもでも理解できるように、わかりやすく掲示しておくことが大事です。
 最近はアレルギーを持っている子どもも非常に多いです。食べ物のアレルギーはもちろんですが、牛アレルギーの子どももいるので、アレルギーの有無は、あらかじめ引率の先生や保護者の方々にも確認しておいてください。
酪農教育ファーム活動における衛生・防疫対策
 根本的な考え方は「牛を感染症から守る」と「人を感染症から守る」の2つです。
 牛に感染して問題となる伝染病には、人は大丈夫でも牛には影響が大きいことがあります。

牛に感染して問題となる伝染病
 特に影響が大きいのが口蹄疫です。口蹄疫は死ぬ病気ではありませんが、感染力が非常に強く、あっという間に広がります。もし国内で口蹄疫が発生したら口蹄疫の清浄国を維持する目的で、その牧場にいる牛は健康な牛も含めて全頭殺処分しなければなりません。
 現在、日本は口蹄疫ウイルスがない清浄国を保っている状態ですが、国外に目を向けると近隣の中国や韓国でも発生しています。人には感染しませんが、人の口の粘膜の中に付いて移動するとも言われているので、海外から来られた方には注意をしてください。

飼養衛生管理基準
 伝染病の発生を予防、病気が持ち込まれたりしないように、農水省は飼養衛生管理基準という法律をつくりました。牛を飼っている全ての牧場が守らなければいけないものです。2022年に改訂され基準がいろいろ厳しくなっています。

4つのカテゴリーに分類
1.管理責任
2.病原体を持ち込まない
3.牛舎内でも広げない
4.牛舎から外に持ち出さない

衛生管理区域の設定
 牧場の中でも第三者が入って良いエリアと入ってはいけないエリアを作ること、衛生管理区域内での愛玩動物飼育も禁止という項目も追加されています。
 農場の衛生管理区域は、牛などがいない住居や駐車場以外の牛に触れる場所です。立ち入らないように看板などを設置して区分けしてください。体験では衛生管理区域の中に入って良いですが、衛生管理区域の中にも立ち入って良い場所と立ち入り禁止の場所を明確に区別してください。こちらも同じく看板などできちんと表示するようにしましょう。

牛から人に感染して問題となる病気
 認証牧場や観光牧場で問題になるのが、牛から人に感染する病気です。焼き肉屋さんでよく目にするのが腸管出血性大腸菌O157の食中毒や、この間、流しそうめん屋さんで大量に下痢が発生したカンピロバクター。また、子牛の下痢の原因になっているクリプトストリジウムなどがあります。ふれあい体験での集団感染が多いのは、クリプトスリジウムやO157です。
 牛はO157に抵抗力があるのでほぼ平気ですが、特に小さな子どもや小学生が感染すると、症状がひどくなって、死亡することもある危険性の高い感染症です。
 もう一つ感染する機会が多いのがクリプトスポリジウムです。下痢の子牛のフンの中に原虫の卵が一緒に排出され、これを人が口から摂取することで感染が成立します。人でも牛でも治療方法がないので1週間ひたすら下痢を我慢することしかありません。私たちは、ずっと牛に接しているので抵抗力ができていますが、牧場実習に来た学生さんが感染することが多いです。
 意識してフンを口に入れることはないと思いますが、飛び散ったフンが指について、そのまま何かを食べるときに一緒に口にしてしまうと感染が成立します。
感染リスクを低減させるためには
 感染をを防ぐには何が大事かというと手洗いの励行です。
 単に水をかければ良いということではなく、意識して洗うことが重要です。流水で洗うだけでも菌は減少しますが、クリプトスリジウムの卵は数十個レベルで感染します。流水で流した程度ではまだ菌は存在しているという意識をしてください。
 手洗い場には正しい手の洗い方などを掲示すること、石鹸で手を洗ってくださいとアナウンスすることは重要だと思います。また小さな子どもでもきちんと手が洗えるように踏み台を用意することも必要になってきます。

 感染を防ぐためには消毒も必要になります。牛の消毒や牛舎に病気を持ち込まないための消毒、周辺に病気を持ち出さないための消毒もあります。
 現場では消石灰を使うことが多いと思いますが、消石灰は有機物に弱いので長靴の消毒の際にはまず汚れを落とし綺麗にしてから、消毒液につけることが重要です。
 飼養衛生管理基準の中には、衛生管理専用の長靴、衣類の準備と使用することが義務付けられています。ただし、観光牧場においては「観光牧場における持ち込みおよび持ち出しを防止するための規則」を各牧場で作成し、入場者に防疫対策の周知、協力などを求めることで、専用の長靴や衣類を準備しなくてもよいことが記載されてますので、確認をしてください。

認証牧場で虐待?
 牧場にはいろいろな方が来場されると思いますが、中には動物愛護に敏感な方もいます。普段私たちの中では牧場の日常と思っていることも「かわいそう」というように捉えられてしまうこともあります。例えばウォーターカップの水が汚いとか、足元にフンがかかっているとか、ずっと繋がっていてかわいそうなどです。本来牛は野山で生活し、野山の水を飲んだりしている動物です。繋いでいることも法的に問題はありませんが、説明の仕方などは考えた方が良いと思います。EUなどは少しでも拘束する時間を短くするなど、快適な環境作りといった方向に動いている事実もありますので、動物愛護は別としても綺麗なウォーターカップにするとかフンの処理を綺麗にするなど、牛にとっていい環境にしてあげることは双方にとって良いことだと思います。
 過敏な愛護の方もいることを頭に置きながら、例えばSNSなどでそういった書き込みなどを見つけた時にはすぐに反応せず、まずはまわりに相談をしてください。


奈良県農業共済組合 家畜診療所 獣医師 ※ 岡本 隆行氏(※公演当時)

毎日、牛の治療や人工授精、受精卵移植に明け暮れています。牛の病気と直接向き合う仕事をしているので、病気を治す方法も模索しています。
牧場に来た幼稚園児や小学生と遭遇したら牧場教室を開催。獣医を目指す高校生や獣医の学生さんにも牧場の現場を紹介しています。
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