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−安全衛生−(10月14日)
令和4年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(福岡会場/10月14日)
酪農教育ファーム活動における安全・衛生対策の確認
木島 秀雄
愛知県学校給食牛乳協会 事務局長


 酪農教育ファーム認証牧場は一般的な酪農家(牧場)と比べて人の出入りが多く、人を介在して家畜が伝染病に感染するリスクが非常に高くなります。また、牧場へ来た人(特に子どもたち)が動物に由来する感染症にかかるリスクもあります。
 感染症には牛や動物だけが発症するもの、人間だけが発症するもの、そして動物と人間の双方が感染して問題となるものがあります。
 家畜から人への感染症や家畜伝染病が発生した場合、牧場の金銭的な損害や信頼の低下が想定されます。さらには他の牧場、ひいては風評被害も含めて業界全体に大きな被害をもたらす可能性もありますので注意が必要です。
安全・衛生管理
 酪農教育ファーム活動を行う上での安全・衛生管理対策について
安全な酪農体験のための対応ポイント
1.安全に実施するための準備等に係る安全管理  
2.乳牛の衛生・健康の管理  
3.牧場、畜舎の清掃・消毒、環境美化等の環境管理
4.来場者への指導等の安全行動管理
安全に実施するための準備
■異常牛と要注意牛は隔離しておく
■危険エリアと見学可能エリアの区分を明確に
■畜舎周囲の整理整頓・清掃・消毒
■牛舎出入口に踏込消毒槽の設置
■手洗い場の準備や石鹸・消毒液等の確認
■薬品類(消毒剤・殺虫剤等)管理の徹底
■重機・作業用車両の安全管理の徹底
■保険の加入
■食品の手作り体験実施の場合は保健所に事前相談を

 来場時の服装などは学校の先生を通じて、子どもたち伝えてもらうとスムーズです。また体験内容の記録を録っておく必要があります。

手洗い施設の条件
■来場者が動物エリアから退出する時に、必ず手洗いが実行できるような
 場所に設置
■来場者に十分対応できるだけの数を設置し、十分な流水量を確保
■手洗いは流水で行い、貯留水は使用しない
■小児やハンディキャップを有する来訪者でも使いやすいような設計に配慮
■石鹸(できれば液状や泡状のもの)を常備
■ペーパータオルを用意
■冬場に温水が出るとより良い
■給水栓が自動あるいは足で操作できるものだとより良い
■アルコール消毒薬の利用も有効だが、必ず手の水分を拭き取ってから使用
牧場で飼われている動物について
 「動物の愛護及び管理に関する法律」では、動物の飼い主は、責任をもって飼いましょうといったものです。しかし、皆さんが管理している乳牛は、終生飼うことは難しいです。では法律の中で出てくる動物と皆さんが飼っている乳牛はどこが違うのか。
 例えば、豚の場合は7か月前後が一番肉質が良く、それより早くても、遅くても価格が下がってしまいます。そのような産業動物は、肉として屠畜に回すことが法律で認められています。また、「動物の愛護及び管理に関する法律」では野生動物は外れていて、別途取り決めがあります。
 この法律では、人が占有する動物が対象になりますが、産業(経済)動物はこの対象から外れ、アニマルウェルフェアの概念の元、「快適性に配慮した家畜の飼養管理」として定義されています。

5つの自由(国際的に認知されたアニマルウェルフェアの概念)
(1)飢餓と渇きからの自由
  →新鮮な餌と水の供給
(2)苦痛、傷害又は疾病からの自由
  →疾病等の予防及び的確な診断と迅速な措置
(3)恐怖及び苦悩からの自由
  →心理的苦悩を避ける状況及び取扱いの確保
(4)物理的、熱の不快さからの自由
  →適切な飼育環境(温度、湿度等)の提供
(5)正常な行動ができる自由
  →動物が実行したいと思った自然な行動がとれる機会
感染症 発生のメカニズム
1.病原体
 患者、あるいは自分で感染していると知らずに菌を保菌・排菌している健康保菌者、汚染便や血液など
2.感染経路
 経口、飛沫、経皮、接触など感染の経路
3.宿主
 感染を受ける側の生き物のこと。人間、動物であれば牛や豚等

 感染症が起こるには、病原体、感染経路、宿主の3つが必要です。人の感染症でも家畜の感染症でも、このメカニズムは変わりません。つまり、どれかひとつ外れれば感染症は成立しません。

来訪者への衛生管理上の注意・事前指導
(1)汚れの付着しやすいような服装は止めさせる
(2)感染リスクの高いものに直接触れない
(3)作業の後は必ず手洗い
(4)安全で衛生的な導線を確保する

来場者への啓発
 来場者に対し、動物から感染する病気があることを説明する必要があります。多くの場合、動物に由来する感染症は、キスなどの過剰な触れあいを避け、手洗いを効果的に行うことで予防できます。
 手洗いで重要なのはしっかり石けんを泡立てることです。泡を十分に作らないと菌は洗い落とせません。作った泡で指の間、手首等をきれいに洗い、菌を流しましょう。
感染症を予防する上での基本対策
■入れない
■拡げない
■持ち出さない


 牛に感染して問題となる伝染病には、口蹄疫、ヨーネ病、サルモネラ症、黄色ブドウ球菌による乳房炎等もあります。特に口蹄疫は感染力が強く、経済的損失も一番大きいです。
 日本は清浄国になっていますが、周りには非清浄国が多く危険な位置にいることを頭にいれておいてください。
 口蹄疫予防のための消毒には4%炭酸ナトリウム液や消石灰が有効ですので車両の消毒などに活用ください。

 動物から人に感染して問題となる感染症にはカンピロバクター、サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌症等があります。これらはすべて牛が介在しています。特にO-157は死者が出ますので要注意です。
 O-157は胃酸に強く、少量の菌が体内に入っただけで感染してしまうことが特徴です。潜伏期間が長く、症状としては下痢、ひどい場合は出血します。妊婦や免疫機能低下者、乳幼児、高齢者は特に注意をしてください。
質疑応答
Q.アニマルウェルフェアについて、例えば牛が自由に動けるように牛舎を変えるためには準備も資金もいる為、すぐには難しいのですが。

A.アニマルウェルフェアは法律ではありません。動物に対して快適性に配慮しようということです。まずは、そういうことがあると認識することが大事です。設備を今すぐ変えるのは難しいと思いますので、牛たちが快適に過ごせるの様に、牛舎の掃除を行き届かせる、飲み水をきれいする等、できることからやっていけば良いと思います。

愛知県学校給食牛乳協会 事務局長 木島 秀雄氏

岐阜大学農学部獣医学科卒業。
愛知県職員に獣医師として採用され、30数年にわたり衛生関係部局にて食品衛生・環境衛生・公衆衛生・動物愛護法関係等の分野に係る業務に従事する。
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