スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



ーワークショップ(抜粋)ー(10月5日)
令和3年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(3回目/10月5日)
上田 融氏
NPO法人いぶり自然学校 代表理事


 私は小学校の教員をしていた時にネイチャーセンターの立ち上げに関わったり、その後NPOの活動に参画し自然活動をしたりしていました。
 教員をしていた時から「自然学校」をキーワードに活動を続けているので「教育」との関わりが多いです。最近では森の幼稚園活動や里山小規模畜養等もはじめています。
 皆さんのように乳牛は飼っていませんが、馬や羊等を数頭飼って活動をしています。
ファシリテーターとは?
 最初に「酪農教育ファームファシリテーター」のおさらいです。「酪農教育ファームファシリテーター」とは何でしょうか。
 例えば「酪農教育ファーム指導者」という言葉があったとして「酪農教育ファームファシリテーター」とは一体何が違うでしょうか。似たような意味の言葉には「コーチ」や「インストラクター」などがあります。
 「コーチ」や「インストラクター」は何となく意味が分かると思います。何か技術を持っていてそれを教えてくれる人、技術を提供してくれる人。「指導者」も似たような位置にあると思います。目標に近づくためカリキュラムを組んでくれる人。
 では、「ファシリテーター」とは何でしょう。日本語で言うと「促進、促す、そそのかす」という言い方になります。少しかみ砕くと「〇〇しないではいられない」ということです。
 つまり子どもたちが「牛乳が飲みたくて仕方がない」、「明日から酪農家になる!」と、自発的に思ってしまうことが、促すという言葉の意味です。
 子どもたちに「明日から牛乳を飲め!」と命令するのではなく、子どもたちが自ら「牛乳を飲みたくて仕方なくなる」という自発的な行動を起こさせることが、ファシリテーションです。
 そして、「酪農教育ファームファシリテーター」の皆さんはそれをやることができると認証された人だと思います。
効果的な学習法「体験学習法」
 子どもたちが「〇〇しないではいられない」となる効果的な教育方法があります。それは「体験学習法」です。ただ一方的に話を聞くだけではなく、直接牧場へ行って色々な体験をすることでアクションを起こしたくなることが体験学習法です。
 「体験学習法」は、同じ「体験」という文字が入った言葉「体験主義」とは違います。ただ体験するだけではファシリテートはされません。「体験学習法」は体験を学びに変えるという点が違います。
 「体験学習法」には4つのサイクルがあります。まず「体験(Do)」する。その後体験を「振り返る(Look)」、そして体験でなぜそうなったか「分析(Think)」し、次にこうしたらうまくいく等、考えを「一般化(Grow)」する。この4つの要素のサイクルを回すことにより体験が学びに繋がります。
コロナ禍での酪農教育ファーム活動
 酪農教育ファームファシリテーターとしての役割や、体験学習法が良いということをおさらいしました。
 しかし現在、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、ありとあらゆる活動が自粛され、なかなか体験ができない状況です。
 では、体験ができるようになるまで待ちますか。私はこんな状況でもできる体験があるのではないかと思っています。それは「議論」、「話し合う」体験です。
 議論をさせる、話し合わせることはファシリテーターの重要な技術です。体験学習法における「分析」や「一般化」の部分は、議論させる技術がないと成り立ちません。
 今日はその「議論」や「話し合う」体験をみなさんにしてもらおうと思います。
話し合いの体験をしてみよう
 これから、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使って、参加者同士で3〜4人のグループに分かれ、3回のグループワークを行います。

1回目:アイスブレイク
 アイスブレイクとして、自己紹介をしてもらいます。早めに自己紹介が終わってしまったら雑談をしていて構いません。

【アイスブレイクを終えての感想】
・話しすぎた
・緊張した
・共通の話題があり話は途切れなかった
・離れた地域の人と話が出来た
2回目:議論の体験
 あるストーリーを読み、それについて話し合いをしてもらいます。
 まず個人で、ストーリーの登場人物を好感の持てる順に順位付けします。その後、グループに分かれて話し合い、グループでの順位を決めてください。
 グループでの順位付けにあたり、いくつかルールがあります。多数決やじゃんけん、くじで決める、年長者や偉そうな人の意見に従うのはナシとします。また、妥協や論破もナシです。全員が納得する順位を決めること。つまり全員が合意する必要があります。


【話し合ってみてどんなところが難しかったですか?また納得した瞬間はどこでしたか?】
・同じストーリーから受ける、各自の感じ取り方の違いを理解するのに少し時間がかかった
・男性、女性の見方の違い
・視点の違いがあった、理由を聞いて納得した
・好感度が低い方から決めていった
・深く考えず、さらっと考えたら纏まった
・外国人と設定した
・行動で順位を考えた

 皆さんに感想や意見を出してもらいましたが、そこから話し合い、議論のコツが導き出されました。これは私が決めたわけではありません。皆さんの中から出てきたものです。これから体験学習法をするにあたって使っていい技術であり、伝えていい考え方です。

1.主観と客観
2.とにかく情報を得る。正しい情報を整理していくこと
3.判断の「軸」を決める(設定する)
3回目:議論の結果の振り返り
 今日はファシリテーションの特に「分析」、「一般化」という話し合う部分にフォーカスして、皆さんに体験してもらいました。今後、皆さんの牧場に子どもたちが来た時にこの経験を活かしてもらえればと思います。
 最後はこのテーマで話し合ってみましょう。

【今度子どもたちにこのテーマで話し合わせたい】
・家畜とペットの違い
・酪農に未来はあるか?
・判別種子
・いのちとは、食べる事とは
・フードロス
・あなたの街に牧場は必要ですか?
・いのちの大切さ
・酪農ってマニュアルはどこまで必要?
体験活動が再開できるその日まで
 皆さんの役割は、酪農教育ファームファシリテーターとして、子どもたちに「○○しないではいられない」状況を引き起こすことです。
 そのために、ただ体験するだけではなく、やったことを振り返って話し合い次に生かす、という行動を変えるような活動を提供することが必要です。それが、子どもたちの「気づきから責任ある行動へ」に繋がっていきます。「明日からこうする」というような、生き方が変わるきっかけとなる学びを、皆さんの体験活動を通して引き出してもらえればと思います。
 その学びを引き出す技術の一つとして、オンラインで話し合うという体験をみなさんにしてもらいました。緊急事態宣言が解除され、皆さんの牧場に再び子どもたちが訪れるようになったとき、話し合いや議論の体験から、その子どもたちの「気づきから責任ある行動へ」が導き出されることを期待しています。



NPO法人いぶり自然学校 代表理事 上田 融氏

昭和48年生まれ。
小学校教諭1種、幼稚園教諭1種、CONE トレーナー、社会教育主事等の資格を持つ。
平成24年度から、酪農教育ファーム研修会の講師を務める。


(C) Japan Dairy Council All rights reserved.