スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



平成27年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(仙台会場)
−ディスカッション−(抜粋)
平成27年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(仙台会場)が行われました。
事例から学ぶ、出前授業のあり方
 アイスブレイクとして、まず参加者全員で誕生日順に並び、輪を作りました。2人1組のペアとなり、お互いに自己紹介をして、相手を皆の前で紹介する「他己紹介」をしました。参加者のことを少し知ることができ、空気も和んだところで、出前授業についてのディスカッションを始めました。
●ディスカッションの目的
出前授業のあり方について、意見交換、経験交流で学び合い、自身の体験を振り返る。新しい気づきを持ち帰り体験に活かしていく。

テーマ1「スキル(技術)」
・子ども達、消費者の興味の引き出し方。
・自分の伝えたいことをどのように相手に伝えるか。

テーマ2「マインド、心」
どんなことを大切にしながら自分はこの活動を行っているのか、何を子ども達や消費者に伝えようとしているのだろう?

松原:
今日見て頂くDVDは、千葉県で加茂牧場を営む加茂さんが、東京の小学校で5年生を対象に1時間の出前授業を行った様子を収めたものです。
授業を受けた生徒達は、以前牧場体験をした事はあるのですが、校長先生から、「牧場での体験と「食」が子ども達の中で繋がっていない気がする。酪農家さんに改めてお話をしてもらい「体験した事」と「食」の繋がりを理解させたい」という要望があり、今回出前授業を行いました。
授業では子ども達の興味を引き出す為に加茂さんの様々な工夫が見られます。ご自分の出前授業の風景を思い浮かべながら、1つでもヒントになる場面を見つけてみて下さい。加茂さんの出前授業を1つのモデルケースとして、参考にして頂けたらと思います。

DVD鑑賞
子ども達が抱える背景に配慮した「言葉」、「呼び方」とは?
松原:
加茂さんの経歴を紹介したいと思います。加茂さんは、10年前に就農されました。奥様の実家が酪農家で、後継ぎがいなかった為、ご両親の代で酪農を辞める予定でしたが、それを聞いた加茂さんが、勿体ないと思い仕事を辞めて就農されました。それまでは学校の先生だったので、授業の中での子ども達とのやり取りには慣れてる部分はありますが、こんな風にしたら子ども達が興味を持ってくれるなとか、真似してみたい部分、ヒントになる部分があったかと思います。

参加者A:
話のストーリーが出来ていて、プロだなと感じました。私が話すと、断片的になってしまい、全体に1つの流れが出来ていない気がします。聞いている子ども達にとっても、インパクトが弱いような気がします。
今学校で「お父さん、お母さん」という言葉を使う事をとても気にされています。DVDの中では結構使われていたので気になりました。

松原:
ストーリーが出来上がっているという事が挙がりましたが、加茂さんはどこの学校でも最初に作ったシナリオを基にして、ほぼ同じ内容授業を行っています。
もう1つナイーブな問題ですが、「お父さん、お母さん」という呼び方については、他の会場でも同じような意見が出ました。配慮が必要なのでは?という意見ですが、いかがでしょうか。

参加者B:
離婚率が高い事や、様々な背景を抱えている子ども達が増えています。私は「おうちの人」等という表現にしています。体に触れる事にも気を付けています。今日初めて会った人に触られる事が、子ども達の背景や環境によってどのように受け取られるか分かりません。
子ども達のテンションに押されて、授業が進まない時どうする?
参加者C:
子ども達の注意を引くのが上手いなと思いました。子ども達は糞の話をした時は、リアクションがすごく良くなります。場が盛り上がり過ぎた時の、制し方、タイミング、しぐさで、自分に注目させていたのがとても上手だと思いました。

松原:
他の会場でも、子ども達がワーッとなってしまった時にどう制するのかが難しいという意見が出ました。加茂さんの制し方は真似てみたいという声もありました。

参加者C:
盛り上がったところをピシャリと制してしまいたくないし、でもあのままでは前に進まないし、楽しい雰囲気のまま次の話に持って行けるスキルはすごいと思いました。

参加者D:
子ども達と1人対30〜40人で接するわけですが、全員には目が届きません。でも加茂さんは子ども達の質問や挙手をきちんと見て、発言も聞いていました。自分が話したい時はメインで話し、子ども達が関係ない発言をしても「ちょっと待ってね」というやり取りがあり、その場をコントロール出来ていました。
自分が話をしたい時に、子ども達に関係のない発言をされたら、そこには触れずに進めたくなると思うのですが、無視せず対応することが、子ども達の興味関心、積極性を失わせず、あのような全体の流れが出来るのだと感じました。
学校、先生との事前の打ち合わせが大切
参加者E:
学校の先生と、事前に打ち合わせしているのですか?

参加者A:
時間等の打ち合わせはありますが、私の場合は内容については任せて貰っています。

参加者E:
クラスによってはやんちゃなクラス、大人しいクラスがあると思うのですが、事前に何も知らされないでお任せされるのですか?
参加者F:
私は、クラスの個性や様子などは分からないまま始めるので、どんなリアクションが起きるかはやるまでわかりません。

参加者A:
我々は先生ではないので、どんな反応でもそれは仕方がないと思います。ただ、自分が伝えたい事、正しいと思う事をいかに受け止めてくれるかを、頑張って伝えるしかないと思います。
私の場合は、加茂さんとは逆で「糞」の話からします。そうすると静まるからです。
牧場に来た子ども達は、皆「くさい」と鼻をつまみます。「糞」の話を、子ども達にはこのように話します。オギャーと産まれて、まだ何も喋れない皆を育てる時に、親は何を見ながら育てたのだと思う?と。皆は産まれてすぐには、ミルクしか飲めません。牛も同じです。犬猫も同じで、哺乳動物といって、皆ミルクを飲んで育ちます。そしておしっこをして、うんちをする。赤ちゃんは喋れません。皆の親はミルクを飲む量、早さ、うんちの量、色を見て健康状態を知ります。牛も喋ってくれません。だから私達酪農家も、牛の尿や糞を見る、餌をどれだけ食べているかを見て、一頭一頭の健康状態を見ます。赤ちゃんを育てる事と、牛を育てる事は一緒だよと話す事から始めます。そうすると、子ども達は静まります。
参加者F:
加茂さんは、脱線する子ども達をうまくコントロールしてましたが、私は、脱線してしまった流れに負けて、真正面から受け止めてやってみた経験があります。5年生のやんちゃな子ども達でしたが、子牛の場所に行った時、面白半分でどうして子牛が産まれるかを聞いてきました。花粉で受精の話をしても聞いてくれないので、牛を人に置き換えながら話しました。「今、みんながここにいるのはお母さんとお父さんの出会いがあったからだよ、お父さんとお母さんに感謝しようね」と、「皆お母さんのおっぱいを飲んで育ったよね?おっぱいは命のバトンだよ。お母さんに感謝しなさい」というような話をしたら、それまでふざけていたような子ども達もシーンとなって、その後の話は大人しく素直に聞いてくれた経験があります。
加茂さんは、流れに負けずに用意したストーリー通りやっていたのが凄いなと思って見ていました。

参加者B:
性教育を終えた子ども達なら、説明しやすいですね。学年によって伝わり方が違うと思います。事前に担任と話をして、現在どの段階なのかというのを確認しておくべきだと思います。
出前授業の45分という時間の中で私たちが何を伝えたいかは、プログラムを用意しないと納めきれない内容になります。子ども達の発言を押さえつけず発言したい子ども達の欲求をどれだけこちらが受け止め、コントロールするかが私達ファシリテーターの役目だと思います。
反応の良い子、用心深い子。すぐに見極めるのは難しいけれど・・・
参加者E:
DVDの中で1人の女の子が、最初は餌の匂いを嗅ぐのを嫌がっていましたが他の子達が嗅いでいたり、嗅ぎたがるのを見て自分も嗅ぎたくなって、最後の方でやっと嗅がせて貰った時の表情が凄く良くて印象に残りました。

松原:
すぐに飛びつく子もいれば、用心深い子もいます。あの時間の中で見極めるのは、至難の業だと思います。

参加者A:
牛のおっぱいに触れない子もいます。そういう子には「落ち着いたら、後でやろうね」と言ってあげて、ひとまずその場から離れさせます。みんなの前で、出来なかった事が恥ずかしくならないように対処してあげます。

参加者F:
以前、養護学校の子達20人位の受け入れをした事があります。ほとんどの子達ははしゃぎながら、掃除や牛の餌やりなどしていたのですが、着替えず、牛舎にも入れなかった女の子が1人いました。1人スタッフを付き添わせていたのですが、30分位したら一緒にやりたいと言いだして、衛生的には問題がありますが学校の制服のまま牛舎に入れて体験をさせてあげたら、楽しそうに笑っていました。先生はその子が入学してから2年間、笑ったのを始めて見たと言っていました、私達酪農家の力よりも、牛の力ってもの凄いと感じます。
加茂さんも、様々な子ども達と接した経験があってあのように出来るのだろうと思いました。
あと、餌等の匂いを嗅がせてましたが、私は、全員に嗅がせてしまい最後時間が無くなって「いのち、大切にね!よろしく!」という感じで、本末転倒した終わりになってしまう事もあります。時間配分が難しいです。
松原:
子ども達のあの反応を見れば全員に嗅がせたくなってしまいますよね。加茂さんも最後に伝えたかった「いのちと食」の部分が少し急ぎ足になっているように見えましたが、それを伝える為のストーリーです。「食といのち」を伝える、酪農家が伝えたいマインド、心の部分だと思います。

参加者C:
肉なら明らかに、牛や豚を殺して頂くものですが、牛乳は伝わりにくいと感じていて、口で伝える、体験だけでは伝わらないような気はしています。母牛が、子牛の為に出しているものを私達が頂いているという事をいかに伝えるかだと思います。酪農体験した後に、DVDのような授業があると子ども達に効果的に伝わるのではないかと思います。

松原:
私は、生産者である酪農家の言葉だからこそきちんと伝わるのではないかといつも感じています。子ども達なりに、掴むべき部分は掴んでいると感じます。

参加者A:
子ども達も聞き上手になっているのか私達が思う以上に、ポイントを掴んでいます。自分で何を話したか分からないような授業をやってしまったと思っても、その後の作文を見ると結構伝わっていて、自分は間違いない事をやっているんだなと、少し自信を持つ時もあります。
本物の牛には、敵わない。牧場に来て貰う為の出前授業。
参加者B:
DVDの子ども達は、酪農体験をしているから伝わりやすいと思いますが、実物の牛を見たことが無い子達に授業をした時に、どれだけ伝わるのかと思います。
牛を連れて行って、牛と接する私達を見て貰って伝わる事が多いので酪農家だけでは伝えにくいと感じています。

参加者A:
牧場に来て体験して五感を使って子ども達に納得させることは出来ても、出前授業のように頭だけで解釈させるのは、難しいと感じてしまいます。

寺田:
「いのち」「食」というテーマだけではなく、職業を知ろうというテーマで様々な職業のプロの方に話をしてもらいたいという学校が増えているので、そちらのカテゴリーで出前授業が増えてくる可能性は高いです。

参加者D:
私も教師なので分かるのですが、DVDでも45分という限られた授業時間の中で最後にこれを教えたいという目的があり、それに向かう為に事前にストーリーを組んで授業に臨んでいたと思います。学校側も、酪農家に授業の依頼をするのは、何か目的があるはずです。その目的を事前の打ち合わせでお互いに確認をし、内容をどうするか、先生と酪農家が協力し、学校側が求めている結果、目的を達成出来るようなストーリーを作成すれば良いと感じています。
酪農家は、話が通じたか不安になると思うのですが毎日やっている事を自分の言葉で伝える事が一番大切であり、其々酪農家のオリジナリティーを活かして行けば、良い形の授業が出来あがると思います。

松原:
DVDのような授業をして欲しいのでは無く、そこから何か真似したい、使ってみたいというヒントがあれば良いと思います。大事なのは、酪農家の思いを伝える事です。それは酪農家しか出来ない事で、その為に、中酪で用意しているようなツールや、餌を使い普段の生活で見る事の出来ない餌等を見ると、そこから興味が湧いてくるのだと思います。子どもがどこに興味を持つか分かりません。生きている牛には敵いませんが、牛の実物大の幕も、牛を見た事のない子どもにとってはその大きさに驚きますし、胃のパネルもそうです。知らないことを知るきっかけを作ってあげるのは、子ども達にとって大きな出来事です。
グーグルマップ、パワーポイント、餌、堆肥、ツール。自分が使える材料を使って。
参加者F:
私も、依頼があった時に出前授業をやりますが、限られた時間内でどこまで伝わっているか不安です。でもDVDを見て、牛の餌等持っていける物は持って行こうと思いました。

参加者C:
導入部分の地図、グーグルマップの画像を使っているのも面白いです。自分の牧場や牛舎が見せれば、子ども達にも分かりやすいし。いきなり「牛を飼っていて…」と話し始めるよりも掴みとして、良いと思いました。
参加者B:
パワーポイントにしても、牛の餌や堆肥にしても、道具をうまく使っていて、素晴らしいです。
酪農の学びは幅広い、子ども達が喜ぶ要素も沢山。
参加者E:
農水省の職員で、大学の講師等もやっている人がいます。その方は自分の事を「うんち博士」と呼んでいて、動物園に行っては象、ライオン、キリンのうんちを貰ってきて標本にしています。それをみんなに見せて、食べる物が違うとうんちの形も違うというような話をしながら「食」の話に結び付けています。だから、酪農家も何でもありなのかと思います。酪農はすごい学びです。

松原:
酪農は、子どもが喜ぶ要素は沢山ありますよね。

参加者B:
おしっこ、うんちは喜びます。モーモースクールでも、牛がいつうんちをするか、おしっこをするか期待して待っています。子ども達の年齢でも興味関心を持つものも違います。

参加者F:
子ども達は、牛乳が温かい事も知りません。衛生的に厳しくなって、手袋をして搾乳体験した方が良いとも言われています。でもそれでは意味が無いような気がします。昔は、掌に搾らせてそのまま味見させていました。それが本当の教育だと思います。搾りたての牛乳は甘い味がするとか、温かいとか、本物の牛を触らせて体温を教えてあげたりも出来ます。
子ども達を飽きさせないポイントとは?
参加者H:
DVDの中で、子ども達を飽きさせない話し方がすごいと思いました。子どもはこちら側のイメージ通りの行動は取ってくれません。その時に、スルーしてしまうのではなくて、一呼吸置いて、後々興味を持たせるような言葉をかけてあげているのが上手だと感じました。それは、自分の引き出しを持っていないと、最後に伝えたい事があっても聞いて貰えないのではないかと思います。

松原:
「天才!」「良いリアクションだね」とか「すごいね!」とか褒め上手でしたね。

参加者H:
そう言われると、子ども達はまた褒められるのではないかと期待感を持ちながら授業を聞くことが出来る。私は気を付けていてもそれが出来ないので、振り返って反省しています。

参加者I:
加茂さんの、子ども達の関心の持たせ方はさすがだと思いました。最初にグーグルマップで牧場と堆肥舎を見せて、最後に堆肥の話に繋げるような、話の途中に隠しテーマを作っていました。話が進む中で、実は・・・と説明に繋げる場面が何回かあり、飽きずに聞かせる話し方だと思いました。
私も、人の前で話す機会がありますが飽きさせないように、テーマに沿いながらも途中でブレイクタイムのような、角度を変えた物の言い方が必要だと思いました。
子ども対象の授業でしたが、大人ももちろん牛乳を飲みます。大人用の教育ファームのような活動もあっても良いと思いました。

参加者J:
以前、出張講座という名前で、農政局から自分達も学校や企業に行った事があります。当初は限られた時間の中で、話したい事が沢山あったので一方的に話をしていました。ところが、聞いている人はつまらなそうなのです。やりながら、全て話さなくても良いのだと気付きました。DVDの授業のように途中でクイズを出したり、どう思う?と問いかけたりと、相互でやり取りのある講座にしていきたいと感じました。
松原:
ディスカッションでの沢山の発言を聞き、皆さんが経験を重ねながら、様々な事を感じて次に活かしている事が分かりました。これから新しい事も試しながら、子ども達に酪農、牛乳について知って貰ったり、興味を持って貰いたいです。酪農家が伝える「食育」の話は増々大切になると感じます。これからも様々な形でアプローチして行って欲しいです。
山嵜:
皆さん心配されていましたが、授業の最後がうまく着地出来なくても良いと思います。酪農家の皆さんの生の声、言葉がとても大事で、皆さんの持っている想いは子ども達に絶対伝わっています。自信を持ってこれからも活動を続けて行って欲しいと思います。
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