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平成27年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(北海道会場)
−ディスカッション−(抜粋)
平成27年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(北海道会場)が行われました。
事例から学ぶ、出前授業のあり方
 アイスブレイクとして、まず参加者全員で誕生日順に並び、輪を作りました。2人1組のペアとなり、お互いに自己紹介をして、相手を皆の前で紹介する「他己紹介」をしました。参加者のことを少し知ることができ、空気も和んだところで、出前授業についてのディスカッションを始めました。
松原:
出前授業の実施には地域差があるようですが、北海道はどのような状況ですか?

参加者A:
学校からの依頼や、公民館からの依頼で行く事があります。牛を連れて行かない出前授業です。

参加者B:
幼稚園のイベントで移動動物園として、牛以外の動物を連れて行くことが年に数回あります。

参加者C:
十勝でも、うちの牧場だけでなく食育に興味のある牧場と、最近認証を受けた牧場のグループがあり、保育所、小学校、イベントに牛は連れて行かず、酪農についての人形劇をやっています。

参加者D:
私は、学校でチーズ作りやバター作り等、体験の出前授業を行っています。
松原:
酪農家は、教育者ではありませんが、出前授業や受け入れで子ども達の興味を引き出し、伝えたい事をいかに伝えるかが重要だと思います。本日は特にその2点を学びながら、皆さんのスキルアップに繋げて欲しいと思います。

今日見て頂くDVDは、千葉県で加茂牧場を営む加茂さんが、東京の小学校で5年生を対象に1時間の出前授業を行った様子を収めたものです。
授業を受けた生徒達は、以前牧場体験をした事はあるのですが、校長先生から、「牧場での体験と「食」が子ども達の中で繋がっていない気がする。酪農家さんに改めてお話をしてもらい「体験した事」と「食」の繋がりを理解させたい」という要望があり、今回出前授業を行いました。授業では子ども達の興味を引き出す為に加茂さんの様々な工夫が見られます。ご自分の出前授業の風景を思い浮かべながら、1つでもヒントになる場面を見つけてみて下さい。加茂さんの出前授業を1つのモデルケースとして、参考にしてもらいたいと思います。
DVD鑑賞

松原:
加茂さんの授業は、基本のパターンを元にしつつ修正を繰り返し、シナリオも含めかなり熟練された印象を受けます。子ども達の興味、関心の引き出し方、印象に残った場面、自分の出前授業で試してみたい事等、皆さんと意見交換をしたいと思います。
「問いかける」ことは勇気が必要。発言しない子ども達の場合はどうする?
参加者A:
加茂さんは、においで子ども達を惹きつけていました。牛舎に来れば、何もしなくてもにおいを感じさせる事は出来ますが、教室では道具が必要だと思いました。

参加者E:
様々な道具を準備して、次から次へと子ども達に興味を持たせるような動きをしていました。酪農家本人も、体全体を使って動いていました。動く事で、次は何が出てくるのだろう、何をやるのだろうと、子ども達の興味が途切れなかったように感じました。パワーポイント、パネル、えさ、ジップロック等の道具をうまく使っていました。

参加者B:
子ども達に問いかけ、答えさせながら授業を進めている点が上手だと思いました。一方的にこちらが話をして進める事も出来ますが、あえて問いかけをしながら進めていました。

松原:
研修会では、出前授業の中での「問いかけ」についての話題がよく出ます。問いかける事はとても勇気が必要な事です。問いかけても、発言が出なかったらどうしよう、この問いでよかったのか等不安になります。
参加者F:
反応は学校によって違うと思います。うちは受け入れが主ですが、真剣に静かに話を聞くけれど、問いかけても全く発言が無い学校もあれば、子ども達がずっと喋っていても問いかけると沢山の発言が出る学校もあります。DVDでは静かに聞く場面と、騒がしい場面とありましたが、加茂さんは上手に子ども達の発言を取り上げつつ進めていました。間違った発言をした子がいても無視をせず、それをしっかり受け止めながら次の話に繋げていました。

参加者G:
僕はクラスの中のムードメーカーをまず1人見つけます。
DVDでは、反応の良い子を「におい隊長」にしていました。そんな子を見つけると、盛り上がりやすくなります。牧場に子ども達が来て、バスから降りて来た時に他の子にちょっかいを出しているような子を見つけます。そういう子はムードメーカーになりやすいのです。DVDでは、教室に加茂さんが入った時点で大きな声で挨拶をして、子ども達も挨拶を返す事で、まず声を出させるようにしていました。

参加者B:
事前に子ども達に動機付けの授業をしていたようでした。学校との事前準備も出来ていたように見えました。発言の内容で、子ども達が事前に勉強している事が分かりました。

参加者G:
加茂さんの服装も良かったです。僕も作業着を着てやります。

松原:
つなぎや、オーバーオールを着て行くと、子ども達も牧場や牛とイメージが繋がりやすいでしょう。視覚から入るというのも大事ですね。
失敗した!はずした!想定外!経験を糧に自分なりの「受ける」ポイントを見つけて行く
参加者E:
私は授業の導入部分で失敗し、空回りしてしまった経験が何度かあります。最近は失敗も減りましたが、「慣れ」が大事です。失敗を糧にして同じ失敗をしたくない、どうしたら子ども達の気持ちが自分に向くのかは、やるうちに分かって来たし、自分が楽しもうと思えるようになりました。

参加者G:
間違った答えや意図していない事を言った子がいても否定せず、「おしいね」「そういう考えもあるね」と受け止めてあげます。「違う」という反応をしてしまうと、他の子が発言しにくくなってしまいます。

松原:
どうしたらお乳は沢山出ると思う?という問いかけに「ストレスを与えない」と答えた子がいました。加茂さんにとっては想定外の答えだったと思いますが「すごいね!」と評価していました。
参加者C:
子どもが盛り上り過ぎて、収拾がつかなくなった経験があります。加茂さんは、子ども達が暴走しそうな場面でも軽く、パン!と手を叩いて鎮めていました。そうすると、子ども達は一旦落ち着き、場が引き締まっていました。場を変えたい時には簡単で、とても効果のある方法だと思いました。

参加者G:
わざと声を小さくして、近くの子だけに聞こえるように話していたのも印象に残りました。聞こえない子が「なになに?」と耳を傾けたくなり、気持ちを惹きつける話し方でした。

松原:
加茂さんの子ども達との接し方、興味の引き方について参考になる点がいくつか出てきましたので、ここで加茂さんの経歴を紹介したいと思います。加茂さんは、10年前に就農されました。奥様の実家が酪農家で、後継ぎがいなかった為、ご両親の代で酪農を辞める予定でした。それを聞いた加茂さんが、勿体ないと思い仕事を辞めて就農されました。それまでは学校の先生でした。そのような経歴なので、子ども達の扱い方や話し方のコツ等にヒントが沢山あったのではないでしょうか。
子どもの「なんで?」攻撃に対応する事で、逆に自分の雑学が増える!使える!
参加者F:
小さい子が来た時ほど難しいです。幼稚園の子達に説明する時は、使う言葉に気を遣いますね。

参加者G:
5才位の子どもは、何でも「なんで?なんで?」と聞いてきます。どんな質問にも分かりやすい言葉で説明するように努力しているので、小さな子が来ても対応出来るようにもなり、逆に勉強させて貰っています。
参加者F:
「なんで牛は白黒なの?」「なぜおっぱいは4つ?」「なんで胃が4つあるの?」「なぜ牛(うし)って言うの?」という質問まで出て困る事があります。

参加者H:
牛が何故白黒かは、昔は白黒の牛の他に、ピンクや青など様々な色の牛がいたけれど、牛を襲う敵の猛獣が色盲だった為、白黒以外の牛が絶滅して最後に残ったのが白黒の牛だという説があります。私は真剣にそう答えてあげます。

松原:
そんなおとぎ話のような話は子ども達が大好きです。そんな答えも良いですね。
参加者F:
以前見たテレビ番組で、世界には白黒の動物は沢山いるけれど、毛を剃って地肌も白黒なのは牛だけだと言っていました。シマウマや、パンダの地肌はピンク色なのです。

松原:
子どもは、そんなに深い意味もなくどうして?と聞いてくることもあります。難しい質問でも一緒に悩んであげること、きちんと受け止めてあげる姿勢が大切なのではないでしょうか。

参加者I:
私は出前授業の経験が無く、牧場での受け入れも家族単位で多くても5人位なので、クラス単位の出前授業は楽しそうですね。子どもは両親の前で他人の大人と接する時はとても良い子になりますから。ふざけたりせず、大人しいまま帰って行く事が多いです。クラス全体で笑い、考え、子どもの本当の表情が見えるような気がしました。
子どもが大好き〇〇〇ネタを、上手に使おう。
松原:
加茂さんは、何度も出前授業を行う中で、細かい部分は対象年齢によって変えますが反応の良いクラス、悪いクラス様々あっても、絶対にスタイルは変えないそうです。主導権、手綱は絶対にこちらが握りながら進めると仰っていました。
授業を行っていて、盛り下がって来た時の秘策は何かありますか?

参加者G:
うんこネタでしょうか。DVDの中で堆肥を嗅がせていましたが、全員に回さず一部の子だけに嗅がせていて、他の子ども達の次は自分が嗅ぎたい!という欲求を高めながら進めていました。あのような注目の集め方、集中させ方もあるのだと思いました。

参加者C:
受精の話等は意外とサラっと話していました。オス牛の事もカタログで説明していて、繁殖や、デリケートな話題もあのように話しても良いのだなと思いました。
「いのちをいただく」言葉だけが独り歩きしていない?
参加者H:
自分でやっていると、酪農はとても多面的な話が出来るので、あれもこれも伝えたくて、逆に内容が薄くなってしまうような気がしています。

参加者E:
最初に「いただきます」の意味を問いかけた時に、子どもが即座に「いのち」と答えていたのですが、あれは授業で教えていたのでしょうか?

参加者I:
「いのちをいただく」という言葉だけが独り歩きしている気がしています。いのちをいただく事の本当の意味を理解していなくても、言葉として知っているだけのような気がします。本当の意味を、年齢に応じた分かりやすい言葉で伝えてあげなくてはならないと思います。

松原:
これは私の主観ですが、その言葉と意味をきちんと繋げて伝えられるのは、酪農家さんしかいないと思います。毎日牛と接して、牛乳やお肉等の食物を生産する酪農家さんの言葉の中に真実があり、だからこそ伝わるのではないかと私は思っています。

参加者H:
酪農は様々な学びに繋がる話になるので、自分の中では月ごとにテーマを絞って話しいます。受けるか受けないかで変える時もありますが。
参加者C:
テーマを変えると、リピーターにも繋がるし、楽しい気持ちで授業を終わらせることが出来れば、また来たいと興味も出てきます。また両親や友達に話す事で、行きたい、聞きたいと周りの人にも広がると思います。
松原:
あの授業を受けても、全員が酪農を理解して、興味を持ってくれるわけではないですね。1人でも2人でも酪農に興味を持ち、その事を別の人に話すことが重要です。あの授業の後に、酪農家になりたいと興味を持った女の子が1人いました。酪農教育ファームは地道な活動でも、大勢の中で1人でもそんな子が出れば御の字で、とても大きな一歩になると思いました。
伝える為に、どこまで話す?どこまで見せる?
参加者E:
オス牛の去勢や、徐角についての質問が出る事がありますが、きちんと説明します。私達は、毎日牛に感謝しているから牛を供養しているという事も話しています。

参加者B:
去勢と徐角は人間のエゴだという事も伝えています。

松原:
そのおかげで私たちは、お肉を食べる事が出来るという事を理解して欲しいですね。それをきちんと伝えられるのが、酪農家だと思います。

参加者F:
食の教育なら、屠畜場を見学するのも良いと思います。とてもリアルな現場で、受け止め方は様々だと思いますが、生産現場を見せる事が必要だと思います。
私の牧場で、フリーマーチン(※)で産まれた双子の雄と雌がいました。この雌は妊娠する可能性が低いので、いつもは殺してしまうのですが、せっかく五体満足で産まれたのに、それだけで殺すのは可哀そうだと思っていました。今年はその子を育てて食べてあげようと思い、販売は出来ないので近所の方にお裾分けして食べて貰いました。そんな経緯があったお肉だと説明をしたら、本当に感謝して頂いたので、その牛を育てて食べてあげる事が出来て良かったなと思いました。

参加者H:
DVDでは、牛を飼う事だけではなく、色々な形で携われる、サポート出来る仕事を紹介していて良いと思いました。牛に関連する職業は飼うか獣医になる位しか、分からないのではないでしょうか。

参加者F:
以前ホクレンが、朝の牧場から始めて、搾った牛乳を積んだローリーの後をついて行き、牛乳工場まで見学する、一日社会科見学を行っていました。とても面白い社会科見学でした。子ども達も勉強になったと思います。

松原:
子ども達が酪農家になりたいと思い、酪農に興味を持つのは、もちろん牛の存在もありますが、酪農家さんの話を聞き、牛と接する姿を見て感じる、酪農家さん自体の存在が大きいと思います。

参加者E:
毎年2000件位ずつ、日本の酪農家さんが減少する中、次世代に酪農に興味を持ってもらうことは絶対に必要です。現在TPPなど輸入の問題もある中、酪農に携わる自分達が生きて行く事すら危うくなっています。酪農家は、一軒ではやっていけません。自分達の仲間を減らさない、むしろ増やしていく事を考えると、出前授業や受け入れのように一般の方に酪農を教える事は絶対に必要な事です。
参加者I:
来月、小学3年生を対象にして札幌市内で初めての出前授業を行います。この子ども達は夏に雪印メグミルクの工場を見学しています。毎日給食では牛乳を飲み、工場では安全衛生等の勉強をしたけれど、その牛乳がどこから来たかを子ども達は全く理解しておらず、牛乳は工場で作っていると思っています。これは都会の子のリアルな現状で、危機的な状況だと教頭先生が仰っていました。
その子達が、牧場の牛から牛乳を搾り、工場を経て自分の所に来た事を知らないまま育ったら、酪農の存在が忘れ去られてしまいます。
この国の第一次産業である酪農業は、将来どうなってしまうのか、日本の産業が失われていく危機的状況にあるのです。子ども達を心ある人間に育てる為には、酪農家さん達の地道なご協力が必要だと切に思います。今後共酪農教育ファーム活動にご協力をよろしくお願い致します。

寺田:
私にも娘がおり、小さい頃は沢山牧場に連れて行きました。現在高1になり、それがどれだけ教育的効果に繋がっているかは分からないのですが、少なくとも業界の為になっていると、これからなると信じて、私も日々事業を進めています。これからも酪農家さんのご協力をよろしくお願い致します。

(※)フリーマーチン:牛などで異性の双子が生まれた場合、雌の方には正常な生殖器が発達せず、不妊となる現象。
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