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平成27年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(福岡会場)
―酪農教育ファームにおける、安全・衛生対策の確認―
千葉県農業共済組合連合会南部家畜診療所 係長 山嵜敦子氏 
 
 酪農教育ファームにおける安全衛生には、4つの大きな項目があります。
1、安全
 ・危険区域の事前確認 
 ・アレルギー体質の子どもへの配慮 
 ・熱中症対策 ・怪我についての留意点
2、衛生 
 ・口蹄疫対策 ・感染症O-157対策 
 ・訪問者への衛生管理 ・家畜への衛生管理
3、生乳の取扱い
4、手作り体験時の注意点
BSEと口蹄疫発生の過去を忘れてはならない
 私は千葉の南部家畜診療所から来ました。千葉県は、日本で初めてBSEが発生したという報道がされたので、記憶している方も多いかと思います。それを機に全国的に乳牛に個体識別の耳標が付けられるようになりました。
 2010年の3月には宮崎県で口蹄疫が出てしまいました。口蹄疫陽性になってしまった牧場1,304戸、殺処分頭数は牛68,272頭、豚222,034頭、その他山羊等343頭でした。このような悲しい過去は忘れてはいけません。
 口蹄疫は、宮崎県で2010年に発生する前に、2000年に北海道で発生しており、それ以前の発生は1908年まで遡ります。頻繁には起きていませんが、絶対に起きない病気ではありません。口蹄疫は、絶対起こしてはいけない病気です。
 口蹄疫の初発原因の4%は「人」というデータがあります。海外旅行等に行くと、国によってビーフジャーキーを持ち帰るのはOKとされていたり、禁止されていたりとあります。加工されているのに何故ダメなのかと思われるかもしれませんが、もし汚染された肉から作られていたら口蹄疫ウィルスは180日以上生き残っているというデータがある為です。
 敷料も気を付けなければなりません。敷料は輸入時にストップが掛かるとは思いますが、人間の行き来はストップがかけられません。口蹄疫ウィルスは衣服、靴に付着していると夏場で9週間、冬場で14週間、生存しているそうです。
 2010年の口蹄疫をうけ、家畜伝染病予防法の一部改正が行われました。ポイントは、畜産農家における侵入防止措置について家畜の所有者に対し、飼養衛生管理の状況等についての定期的な報告を義務付けるとともに畜舎等への消毒設備の設置、人や車両の出入りに際しての消毒を義務付けること、とあります。認証牧場に限らず今日誰が、何をしに牧場に来たのかをきちんと記録として残さなければなりません。牛舎の出入り口、車両の出入り口にはきちんと消毒できる設備を整えなければいけません。
受け入れ前に実施しておくことの再確認
●要注意牛と異常牛
●薬品類の管理
●牛舎出入り口の踏込み消毒槽
●手作り体験実施には保健所の確認
 人に感染して問題となる伝染病の中で、一番注意が必要なのは「腸管出血性大腸菌症」です。牛は腸管出血性大腸菌に感染しても、ケロリとしているので分かりづらいのですが、人間に感染した場合は大変な病気となります。
 牛に感染して問題となる伝染症は「口蹄疫」です。口蹄疫は牛が感染すると症状が現れますが、人間が感染しても分かりません。
 その為、人間が知らぬうちに牛へうつしている可能性があり、十分注意が必要な病気です。日本は口蹄疫については正常国となりましたが、世界ではまだまだ発生してる感染症です。
口蹄疫とは
 口蹄疫ウィルスの感染による急性熱性伝染病
●伝染力が強い。
●ほとんどの偶蹄類が感染
●成畜での致死率は数%だが、発育障害、運動障害、泌乳障害などにより経済被害は極めて大きい。
●畜産物の国際流通にも影響が大きい。
口蹄疫ウイルスの潜伏期間は、牛→6.2日、豚→10.6日、めん羊→9.0日です。
 すぐには発症せず、ウイルスを潜伏期間に撒き散らします。牛は口蹄疫ウイルスに感受性がとても強く、豚の方が弱いとされていますが、一回豚に感染すると体の中でウイルスを増やしながら、排出物と一緒にばら撒くので、牛と豚が近所にいるような地域は更に気をつけなければなりません。

感染症対策の基本は「入れない」「拡げない」「出さない」
●「入れない」
 出入り口に消石灰を撒いたり、靴底の消毒をしたり、外部の人が入る時はブーツカバーを着用する等の工夫をしてください。
●「拡げない」
 導線の確保と踏込み消毒槽と、牛の健康観察、場合によってはワクチン(下痢や呼吸器系)の接種、ネズミや害虫の駆除が必要です。
 乳製品の手作り体験がある場合は、なるべく飲食をしてから牛を触ってください。皆さんの感情としては、牛に触れてから、手作り体験をして飲食をした方が心に残るのでは、という気持ちがあると思うのですが、衛生の面から言うと先に飲食をしてから、牛に接触して下さい。
 逆の順番の場合は、牛に触れた後きちんとした手洗いを励行してください。
●持ち出さない
 牛舎を渡り歩かないこと、踏込み消毒槽を踏んで出入りすること、可能であれば着替え、汚れの付きにくい服装で来場してもらうこと、そしてやはり何よりも「手洗い」が大事です。人の多くの感染症への感染リスクは動物との接触時の注意、接触後の衛生管理の徹底で低減させることが出来ます。何度も言いますが、家畜で大問題になるのは、人から牛へ感染してしまう「口蹄疫」。人間(体験者)にとって大問題になるのは牛から人に感染してしまう「O-157」です。とにかくこの2点は気を付けてください。

大腸菌O-157のキャリヤーは牛であると定説化しつつある
 「腸管出血性大腸菌」は健康な牛の糞からも15%前後検出されます。牛におけるO-157の保菌率は晩春から夏にかけて上昇し、秋、冬では低下することから季節性が認められます。保菌に季節性が関係するという事は、牛の保菌が永続的ではなく一過性であることを示しており、本菌は牛にとって定住菌ではなく通過菌であると考えられます。
 適正かつ健康的な牛の飼養管理により、本菌の増殖を抑制出来、O-157が人に感染することは無いと考えて良いと思います。牛を健康に飼う事イコール第一胃を健康に保つことが何より大事です。
 牛はO-157に感染しても症状が出ないので分かりづらいですが、知らないうちに感染してしまうのを防ぐ方法として、牛床への定期的な消石灰の散布があります。定期的な消石灰の散布でO-157の数は低下するというデータがあります。散布前は1平方mに90%近く検出されましたが、週に1回0.5kg消石灰を散布したら1ヶ月後には18%弱にまで減少したというデータがあります。

クリプトスポリジウムとは
 去年の6月に牧場での酪農体験でクリプトスポリジウムの集団感染が発生しました。

 クリプトスポリジウムとは、
・原虫の仲間で、哺乳動物の腸で増殖し、糞便に排出され感染源となる。
・少量で感染。
・水道水の塩素や、消毒薬でも完全には除去出来ない。
・4〜5日の潜伏期間ののち、下痢、腹痛症状。
・有効な駆虫薬が見つかっていない。

 現在、有効な駆虫薬が見つかっていない感染症です。感染した場合は、速やかに対処療法をしながら、菌がいなくなるのを待つしかありません。
何よりも手洗いが大事
 ほとんどの病気の予防法が手洗いです。手洗いの方法も再確認してください。
 手洗い時間と細菌数に面白いデータがあります。流水と石鹸で15秒間手洗いをすると、手の細菌数は4分の1から12分の1に減少します。30秒洗うと63分の1から630分の1にまで減少します。きちんと時間をかけて流水で手洗いをして下さい。

乳製品の手作り体験時の注意点
・原料は市販のものを使う。
・できるだけ屋根の下や日陰で行う。
・良く手を洗う。(アルコール消毒も)
・体験の順序を考える。(体験をしてから牛を触る方が良い)
・作ったものは持ち帰らない。
・容器は加熱殺菌出来るもの。

 動物(牛)から罹患する可能性のある動物由来感染症の感染経緯は直接接触か糞口感染です。多くの感染症への感染リスクは動物(牛)との接触時の注意、接触後の衛生管理の徹底で低減させる事が可能です。衛生管理の徹底は「手洗い」です。
千葉県農業共済組合連合会南部家畜診療所
係長 山嵜敦子氏


1966年千葉県生まれ。子どもの頃に牛舎で第四胃変位手術をする獣医師たちを見て、牛の臨床獣医師に憧れ、現在に至る。1992年日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業。
 同年、千葉県農業共済組合連合会に就職。
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