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平成26年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(関東会場2)―講演―
平成26年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(関東会場2)が行われました。
学び学ばされて生きるのさ −酪農には、多様な学びがつまっている−
新宿区立淀橋第四小学校 教諭 秦さやか

 本日は、昨年度の実践授業を元に小学校現場では教員がどんなことを思って実践授業を行っているのかをお話させていただきます。

酪農の中から見出した「学び」
 
 本日の講演のタイトルには「学び」というワードが3つも入っています。
 では、子ども達にとって酪農はどんな学びになるのでしょうか。例えば、直接牛に触れ、命を感じることや牛乳など食糧生産がどのように行われているのかなど、いろいろ学びにつながるものがあると思います。皆さんがそれぞれ考える学びがあり、子ども達にもそれぞれの学びがあります。
 私はどんな学びを酪農の中から見出したのか、そこに至る経緯をお話ししたいと思います。
 私が酪農教育や食といのちの学びに興味をもったのは、私のふるさとが北海道だということが大きいと思います。幼少期は十勝平野に住んでおり、社会科の授業でも地域の産業、酪農を勉強しました。実はその頃の将来の夢は酪農家でした。しかし当時、乳牛は牛乳を搾るだけのものだと思っていて、地域の牛のお祭りで、牛とふれあっている横で牛が丸焼きになっているのを見ても、それが同じものだと思わず、その繋がりが分かりませんでした。
 その後、旭山動物園で有名な旭川で長い時間を過ごしました。旭山動物園は当時から、小学生を受け入れ動物の世話をさせる活動をしていました。自分の頭よりも大きい、象の糞を一個一個スコップですくって運ぶ作業が一番印象に残っています。この時には夢は酪農家から、大型動物や家畜の獣医になるのが夢になりました。大学に進み、動物に興味もありましたが、人間と関わる仕事をしたいと思い教育学部に進みました。
 私の家は稲作農家で子どものころから自然と共生して生活してきました。子どものころに自然の中で見たり触れたりできていたことはとても重要なことだったと思います。
タイの農村の子ども達の生きる力
 私の人生の大きな経験としてアジアの農村を旅したことが挙げられます。
 タイの農村では、いのちと食が繋がった暮らしをしていました。家の周りで鶏やあひるを飼い、お祭りがあるとその動物たちをさばいて食べることが、普通の生活の中にありました。私を泊めてくれた家の中学生の男の子が、あひるをさばいて料理を作ってくれたことをよく覚えています。
 この地域の学校では自給自足もしています。元々の理由は学校給食の予算が無いからということだそうですが、畑で野菜を育て、池で魚やタニシを育て、学校によっては養鶏もしています。これらは全部子ども達が世話をし、収穫まで行います。日本では配膳をするだけの給食当番もここでは全校生徒の給食を作ることが仕事です。
 私はこれが生きる力だと感じました。自分で食べ物を育て調理することは、生きていくうえで一番必要なことだと思いました。こういう生きる力を日本の子ども達にも身に付けさせたいと思い、教員になりました。
 養鶏を行っている学校では、鶏小屋の下に池があり、上から落ちた鶏の糞が魚の餌になり、その魚は給食で食べ、給食の残飯は鶏の餌になります。このように学校農園の中で循環させ、野菜や卵の余剰生産が出た時は地域に売って、売上で肥料や種を買っていました。日本の食は生産、加工、消費が切り離れていて、全て繋がっていることはイメージしにくい、そういう部分も学校教育の中で触れていきたいと思っています。
実践授業への動機と想い
 食といのちは生きることそのもので、生きる力をもらっているのに、それを知らずに食べる。そのことを子ども達にわかって欲しいと思いました。

 食糧自給の問題や酪農だけでなく、農林、水産、第一次産業のありかた、意義、価値を取り上げていくことは大事だという想いがありました。教科書の中身だけを教えるだけでは子ども達の心には残りません。自分の想いや体験も含め全部繋がっていることを伝えていきたいと思いました。

 実践は昨年度、当時担任をしていた小学5年生のクラスで行いました。5年生では、社会科で農林水産業、食糧自給率、輸出入に関する国際関係について学び、理科では生命の誕生とか生態系、環境問題も扱うので酪農と結び付けやすいと思います。酪農家の皆さんも学校の事前に知っておくと、子どもと話しやすいかもしれません。
 実践にあたり、まず活動マップを作りました。「食」を中心に関連する「幸せ」「いのち」「エネルギー」「食文化」というテーマをだし、テーマ別に実践を行いました。
●「いのちの繋がり道徳を考える」
 相田みつをの「命のバトン」とういう詩を読んで、自分が今生きているのは100万人以上の先祖のいのちを繋いできたから今がある、だからこそ自分の生きている意味を大事に考えました。

●「牛が牛肉になる過程」
 どうやって牛がお肉になって自分たちの元に届くのかを学びました。
 毎日たくさんのいのちを頂いて生きていることを実感するために給食の献立をみて何個の命を頂いているか数えました。生かされている自分が社会でどんな役割を果たし、自分が人の為に何が出来るかを考えてもらいました。
●「世界のいただきます」
 色々な国の「いただきます」と、日本の「いただきます」の言葉の意味を学びました。
 日本の食糧自給率がとても低いことを子ども達は知りません。お店で国産牛と輸入牛どちらを選ぶか。最初は価格で輸入牛を選んでいた子ども達も、国産牛と輸入牛にまつわる背景、牛を育てる為の穀物、安全性などについて考えていくと国産牛の方が良いという気持ちに繋がっていきました。
牛だけではない、酪農家の生き方も子ども達には大きな学びになる
 加茂さんの出前授業では、実際にエサや糞を持ってきて頂いて子ども達ににおいをかいでもらいました。恐る恐る糞のにおいをかいでみましたが、何にもにおいませんでした。牛の糞から牧草の肥料になって草が育つという、循環の話をして下さいました。
 子ども達から「お仕事で一番大事なことは何ですか」という質問が出ました。加茂さんは「命を支える仕事をしているから、自分の仕事に誇りを持っているよ」と答えていました。子ども達は、牛乳や牛の話だけでなく加茂さんの生き方そのものにとても興味を持ったので、このような質問が出たのだと思います。
 出前授業の後に、酪農家になりたいと言っていた子もいました。子ども達が考える職業の一つとしていのちを支える仕事、食べ物を生産する仕事として酪農家が選択肢として加わるというのはすごいことだと思います。
酪農が持つたくさんの学び
 私が考える酪農が持つ学びは、動物とのふれあい、いのちと向き合うこと。自然、エコ、食糧生産、地産地消、輸出入の問題、産業としての酪農、働くことなど、あげればきりがないですが、これらの学びを通して学んだこと、感じたことが大人になっていく過程の中で良い意味で変容していけば良いと思います。酪農家さんは存在そのものが学びで、持っている全てが貴重な教材だと思います。これからも自信と誇りをもって子ども達と関わって頂きたいと思います。
新宿区立淀橋第四小学校 教諭 秦さやか氏

北海道出身で、生き物大好き!自然も好き!東南アジア旅人!という興味・関心の背景から、環境教育や食といのちの学習が学校教育で最も重要だと信じて疑わない稀な学級担任。
昨年度は、中央酪農会議との出会いの中で、食肉の生産や加工、食糧自給と第一次産業などについて多様な角度から授業で取り上げ、児童から大きな反響があった。酪農家のゲストティーチャーと楽しい授業が実施できたことにも喜びを感じている。開発教育ファシリテーター。好きな家畜は山羊。
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