スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



講演「4つの心で食を意識する」(スキルアップ東京会場)
ありがとうの反対は?
 子どもたちに、「ありがとうの反対は?」と聞くと「どういたしまして」なんて答えたりしますが、ありがとうの反対の言葉は何だと思いますか?ヒントを言いますと、「ありがとう」という言葉は、有るのが難しいと言うのが語源です。あるのが難しいということの反対を考えるとどんな言葉が当てはまると思いますか?いらない?嫌い?でしょうか。「ある」の反対は「ない」。では、あるのがやさしいと考えると一般的な言葉でなんというと思いますか。

「ありがとう」=「当たり前」

実は当たり前という言葉です。当たり前だと思うと感謝をしません。今、食はどちらかというとあふれています。あふれていると感謝の心が薄れるような気がします。
 例えば、ここに牛乳があるのは当たり前でしょうか?皆さんは牛乳がここにあるのが当たり前ではないと言えます。けれども、子どもたちや牛乳を良く知らない人たちにとっては、ここにある牛乳はおいしいけれど、当たり前に存在しているようにしか見えない。当たり前ではないという事を誰が表現するのか?やはり酪農家が表現することに説得力あると思います。その結果、感謝の気持ちが出てくるのではないでしょうか。
教育者はteacher、教育はeducationと言って、引き出すということです。伝えるのではなく、引き出すこと。体験をして「こうなるでしょ?」と伝えていても、それは引き出したことにはなりません。子どもたちが自らきちんと自覚して体験した事を、言葉で表現できるまで待つ気持ちが教育者、あるいはファシリテーターに必要なのです。時間がないから沢山伝えて、「分かったでしょ?」というようなやり方は、良い方法ではないと認識してもらいたいと思います。
フードコンシャスネス
 食べること、食べるもの、食べ方という日常の行為をきちんと意識するという、この食に対する自覚的かつ積極的な姿勢を「フードコンシャスネス(食への自覚的意識)」と呼びます。
 フードコンシャスという自覚的意識を基盤に、人が本質的に持っている生命力をゆっくりと育てます。食を教える教育を見直し、食に対する感謝の念や自然観、味わいや香りに対する五感を耕しながら、生きる力、考える力、文化や未来を創造する力を育成する「食を意識する(フードコンシャスネス)教育」、感覚や味覚教育を中核とした五感を通した人間力(五感/社会性意識)復活型教育の必要性を意味します。
 フードコンシャスは既存教育のあり方のみならず、失われつつある日本人の感性を見つめ直し、「食は命なり、食は社会なり、食は地球なり」を意識できる、豊かな知性と感性の喜びをもたらす人間教育の源泉となり得る。その素材として「乳」・「乳製品」は格好の素材であると考えています。
 食の表層を感じるだけではなく、食の隠されたものや事柄を感じ取るために、五感や心で食を味わうことにより、その価値や背景を理解し、食を自律的に選択できる力、さらに、自分で思考する生きる力、人生を豊かに味わう力、文化や未来を創造する力を培うことが出来るのです。
 このような意識ある子どもや大人を育てることが重要で、その役割を担うのは教員や親、生産者であり、すべての大人ではないでしょうか。
4つの心で食を意識する
 命(食べ物)が産まれた瞬間、産まれた大地や海、食するまでの過程に、想いをめぐらす機会を提供する。「味わう」とは五感や心で感じることであり、地球上の多くの繋がりがあってはじめて成り立つものと意識してほしいと思います。
 私たちが提唱する4つの心「有り難うの心」「頂きますの心」「御馳走様の心」「勿体無いの心」で食や命や多くのものとの繋がりを意識することにより、「意識する食教育、フードコンシャスネス」の新たなる展開が生まれるのです。


五基本味と生理的意義とその重要性
 この五つの味は感じなければならないから感じる味です。例えば、この五つを同じ濃度(1Lに1g)で溶かしたら、1番薄く感じるのはどれだと思いますか?それは甘味です。
 では何故甘味が一番薄く感じなければならないと思いますか?たくさん摂取しなければならないからです。糖はエネルギー源として必要なのでたくさん摂らないといけません。
 では反対に一番強く感じるのはどれだと思いますか?苦味と酸味が強く感じます。どちらかというと苦味の方が強く感じます。苦味は水に溶けないので濃度が薄くてもすごく強く感じます。子どもたちに聞くと「ぺってする(吐き出す)ため」と答えますが、それが味覚としての生理的な意義だと思います。


五感で感じることの大切さ
 味噌汁を飲んだ時に思い出す風景、また思い出すようにして飲んでみると、香りや素材によって思い浮かぶ風景が全然違います。牛乳も飲んだ時に浮かぶ風景は経験度によって違ってきます。子どもたちにある程度の情報を自覚してもらい飲む牛乳と単に飲む牛乳の味は、同じ牛乳でも全く違うという事を伝えたいのです。意識する事がいかに食を美味しくするかが分かります。
 例えば、バターの色がどういう色だとか、その色で何を感じたかなど、不思議さが分かると良いと思います。「どうして牛乳は白いのにバターは黄色いの?」と言うような不思議さが感じ取れるような子どもであってほしいです。そういう事を感じとった子どもがいたら、「いいところに気づいたね」と評価できる大人であって欲しい。それがファシリテーターにとって重要な認識だとおもいます。感性や感情が豊かなファシリテーターであってほしい。
 自分の想定外の質問は流すというのはとても最悪な教員でありファシリテーターだと思います。また子どもたちの考えに対し「間違い」と完全に否定するのもあまり良くないと思います。何故この答えにいたったのかという事を考えるくらいの余裕のある指導者になってもらいたいと思います。


品川 明・学習院女子大学 国際文化交流部 日本文化学科・環境教育センター教授

  
海洋生理生体学、環境教育、人・食・環境コミュケーションを研究分野とし、重要な環境資源である水・食物・生き物・人を通じてそれらの関係を考える。
児童・生徒や教員および社会教育指導などに水辺の環境教育プログラムや味覚教育、食物教育を実践している。体験型アクティビティーとそれらを指導するための問いかけをベースにした教育学を提供し、コミュニケーションやファシリテーション能力を有し、社会性ある人間を育てる事を目標としている。
また、最近では「食べること」「食べるもの」「食べ方」から考え、育てる知の未来を合言葉に、産官学連携食育プロジェクト「フードコンシャスネス」の実行委員長も務める。
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