スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



ーワークショップ(抜粋)ー(3月3日)
令和3年度 酪農教育ファーム認証研修会(2回目/3月3日)
上田 融氏
NPO法人いぶり自然学校 代表理事


 私は大学卒業後に小学校の教員として働いていました。その中で社会教育に関わり少年自然の家のような施設で活動をしていました。その後NPOの自然活動に参画し、今のいぶり自然学校を運営しています。
 いぶり自然学校では、子どもたちとキャンプで一緒にテントを張ったり、ご飯を作ったりして、そこでの気づきや学びを持って帰ってもらうような活動をしています。
今は薪き割りや森へ行って木を切ったり、暮らしに係わるような体験に加え、馬や羊、ニワトリなどを飼って小規模な里山畜養をはじめています。
酪農教育ファームファシリテーターとは?
 これから皆さんは認証を受け「酪農教育ファームファシリテーター」になるわけですが、一体「酪農教育ファームファシリテーター」とは何でしょうか。
 そもそも「ファシリテーター」とは何でしょうか。例えば似たような言葉では「指導者」や「コーチ」、「インストラクター」などがありますが、どれとも違います。
 「ファシリテーター」と検索すると言葉の意味は出てくると思いますが、「酪農教育ファームファシリテーター」では、「促進、促す、そそのかす」などの言葉を充てています。つまり「酪農教育ファームファシリテーターは酪農教育を促進する人」といえます。
 促進やそそのかすは「〇〇しないではいられない」と言い換えることもできますので、「酪農のことについて学ばずにはいられない」、「酪農に関する体験などをやらないではいられない」という気持ちに、子どもたちや来訪者になってもらうようにする人が「酪農教育ファームファシリテーター」です。
効果的な学習法「体験学習法」
 「酪農のことについて学ばずにはいられない」ようにさせるには、具体的にどうしたらよいのでしょうか。
 いろいろな方法がある中で、最も効果的なのは「体験から学ぶ」方法です。皆さんも経験しているかもしれませんが、牛のことをいくつもの言葉で語るより、牛に近づいたり、触ったりした方が伝わることが多いです。
 もちろんただ体験するだけではそこから学びには繋がりません。体験から学ぶことへ促す「体験学習」でなければなりません。
 「体験学習」には4つの要素があります。まず「体験する(Do)」。その後体験を「振り返る(Look)」、そして体験でなぜそうなったか「分析(Think)」し、次はこうしたらうまくいく方法を考え「一般化(Grow)」する。この4つの要素のサイクルを回すことにより体験学習になります。これを上手に回していくと、子どもたちや来訪者は気が付けば、牛乳が飲みたい、牛を飼いたいなど「○○しないではいられない」となっていきます。
コロナ禍での酪農教育ファーム活動
 子どもたちを受け入れた時に体験学習が良いということは分かりましたが、今は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、なかなか体験活動ができません。
 では、皆さんどうしますか。新型コロナウイルスが収まるまで待ちますか。いつ収束するのか分からないまま待つより、新型コロナとうまく付き合っていく方法を考えていく方が私は良いと思います。
 今日の研修会もそうですが、オンラインという方法があります。すでにオンラインで牧場体験をしている方もいるかもしれません。昨年はこの研修会でもオンライン牧場体験のデモンストレーションを行いました。時代に合っていて良い方法でしたが、機材や電波状況を整えるなど準備がとても大変で、牧場のリアルを伝えるのは大変だと感じました。
デモンストレーション「牛の〇〇と同じものを身近で探してみよう!」
 オンラインで牧場体験をする以外で1つ良い事例があったのでやってみようと思います。今、研修を受けている場所(事務所や自宅)にある物で探してみてください。
乳牛の鼻の穴と同じ大きさのもの
・缶コーヒーのキャップ
・サングラス(グラス)
・薬の瓶のふた

お乳の手触りと同じもの
・シリコンのカバー
・手袋
・手の小指側の付け根
・バナナ
 本物の牛を日本中の子どもたちの家に連れて行くことはできませんが、牛の一部を家の中にあるもので比較して表現することで牛をイメージすることができます。
 また家の中を探すというプロセスが体験活動の中にある、自分で解決しようとするアクションと近いと思います。牛を見たこともない子どもでも少し身近に感じれるのではないでしょうか。
アイディア出しをしてみよう!
 デモンストレーションをして「牛の〇〇と同じものを身近で探してみよう!」の「別のもの」のアイディアを考えます。
 今、研修を受けている場所(事務所や自宅)にある物で「牛の一部と同じ、よく似ているもの」を探してください。一般的な物からマニアックなものでも大歓迎です。
 その後ブレイクアウトルームで4〜5人に分かれ、探したものを紹介しあいます。紹介しあう時に人の意見をけなすのではなく、さらに良くしていくような声かけを心掛けてください。
【参加者からでたアイディア】
・マグカップ用のシリコン製ふたが耳と似ている
・ガシャポンの容器が目の玉と同じ大きさくらい
・おしっこの量が500mlのペットボトル×4本
・まな板の表面と牛の舌のザラザラ感
・ナイロンたわしと牛の舌のザラザラ感
・張っている乳房とペットボトルの弾力
・耳の硬さと食品トレーの硬さ
・歯ブラシと牛の肌触り
 同じ舌でもグループによって別々のものがあげられていました。全国の人たちとやるともしかして地域性があるかもしれません。牛は目の前にいないけれど、牛に近いものを家にあるものから探すことで、牛を想像しないではいられなくなってしまう、そんなこともファシリテーションのひとつだと思います。
みんなが一緒に学ぶインクルーシブ教育
 みなさんの牧場に来た子どもたち全員が同じ興味を持っているでしょうか。
 身体的な理由や精神的な理由で学校にいけない、コミュニケーションが取れない、また今は、国籍や文化の違いもあると思います。たまたま同じ地域で同じ年に生まれただけで学年や学級が組まれているのです。
 全員が牧場に来たくて来てるわけではないけど、学校としては全員に同じ体験をさせなければなりません。そこに子どもたちの考えやモチベーションと伝えたいという先生や酪農家さんの間にギャップ生まれてきます、それが教育の世界でも課題となっています。
 今までは精神的・身体的能力などの違いで通常や特別支援と分けて教育活動をしていました。車椅子の子とそうでない子が一緒に何かするのは難しいかもしれません。トイレや階段などのインフラを整えるのは物理的限界があって難しい部分もあると思います。
 見た目は同じだけど、教室に座ってられない、コミュニケ―ションがうまく取れないなど心模様が全然違う子もいます。そんな子たちを分けることをもうやめましょうというようになってきています。
いろいろな差はあるけれど合理的に配慮して同じ場で学ぼうということです。
 いろいろな心模様の子がいる中で、酪農教育ファームでインクルーシブな活動ができないでしょうか。それぞれに満足して学びや育ちが得られるような場と機会が作れないものでしょうか。
酪農教育ファームで考えるインクルーシブな活動
 酪農教育ファームで出来るインクルーシブな活動について、4〜5人で話し合いました。今回は「手すりをつける」などハード面は避けて話し合いを進めました。

【酪農教育ファームで考えるインクルーシブな活動】
・色々なケースに対応できるような体験を用意する
・出来ることの選択肢を増やす
・牛を見たり、触れたりすれば全てが解決
・クイズなどで楽しみながら興味を持ってもらう
・牛だけではなく自分の興味のあるところを見てもらう
・質問などを一緒に学んでいく(気付きを得てもらう)
・健常者でも障害者でもそれぞれの活躍の場を用意できるのが酪農

 牧場では生えてる草やそこにいる虫、道具など全てが教材になります。全部含めて「酪農」それを見せられることが魅力だと思います。
私のファシリテーション宣言
 オンライン、あるいはいつか必ず来るであろう対面式体験の時に、良いファシリテーションが展開できるために今から準備をしてほしいですが、良いファシリテーターになるために「明日からこうする」というもの書いてを宣言しましょう。

「明日からこうする」
・牛のからだのすみずみまで観察する
・牛を抱きしめる
・当たり前の中にも面白がる心を持つ
・周りをしっかり見て相手を知る努力をする
・とにかく褒める
・自分の引き出しを増やす


NPO法人いぶり自然学校 代表理事 上田 融氏

昭和48年生まれ。
小学校教諭1種、幼稚園教諭1種、CONE トレーナー、社会教育主事等の資格を持つ。
平成24年度から、酪農教育ファーム研修会の講師を務める。


(C) Japan Dairy Council All rights reserved.