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2019年度 認証研修会(東京会場)
ー酪農教育ファーム活動における安全・衛生の基準ー(抜粋)
酪農教育ファーム活動における安全・衛生の基準

『飼養衛生管理基準』をご存じですか?
 『飼養衛生管理基準』は平成16年に家畜伝染病予防法という法律の中につくられた、全ての生産者が順守すべき基本的な基準です。
 9つの項目があり、全てが大切ですが、今日は酪農教育ファーム活動で特に関係ある4つの項目について重点的にお話しをします。
1.家畜防疫に関する最新情報を確認
2.衛生管理区域の設定
3.衛生管理区域への病原体の持込み防止
4.家畜の健康観察と異状が確認された場合の対処
1.家畜防疫に関する最新情報を確認
■家畜保健衛生所から提供される情報を必ず確認し、指導に従うこと
■講習会へ参加、農林水産省のホームページの閲覧など家畜防疫に関する情報を積極的に把握すること
■家畜保健衛生所が行う検査を受けること

 家畜の伝染病はたくさんありますが、家畜伝染病(法定伝染病)や届出伝染病は、「経済的な損失が大きいもの」、「防疫の難易」、「人への影響が強いもの」という基準で指定されています。家畜伝染病は経済的な損失の有無が最も優先されますので、予防対策をとることが可能な病気はこれらに含まれません。特に有名な口蹄疫は経済的損失が大変大きいということで、法定伝染病に指定されています。
 家畜保健衛生所からの最新情報などを、高い意識を持って、自分から取りに行くように心がけてください。

2.衛生管理区域の設定
 衛生管理区域とは、病原体の侵入を防止するために衛生的な管理が必要となる区域です。自らの農場を衛生管理区域とそれ以外の区域とに分け、両区域の境界が分かるようにしてください。
3.衛生管理区域への病原体の持込み防止
■出入口は必要最小限に
■必要のない者を立ち入らせない
■接触の機会を最小限にする
■車両消毒
■手・靴の消毒
■その日のうちに他の牧場へ行った人・使った物
■過去1週間以内に海外から入国・帰国した人
■過去4か月以内に海外で使用した衣服・靴


 観光牧場などの、いわゆる普通の農場ではなく、不特定かつ多数の者が立ち入ることが想定される施設については、「当該出入口における手指及び靴の消毒など、不特定かつ多数の者が衛生管理区域に出入りする際の病原体の持込み及び持出しを防止するための規則」をあらかじめ作成し、家畜防疫員(家畜保健衛生所の獣医)が適切なものであることを確認した場合は、上記の対象外となります。

4.家畜の健康観察と異状が確認された場合の対処
 飼養する家畜が特定症状を呈していることを発見したときは、直ちに家畜保健衛生所に通報してください。牛の様子がいつもと違うと思ったら、まずかかりつけの獣医さんへ連絡をしてください。
  特定症状を示している場合、農場から家畜・死体・畜産物・排泄物を出荷、移動を行わないようにしてください。
 感染症の基本対策は「入れない、拡げない、持ち出さない」が原則です。では、酪農教育ファーム活動における「衛生管理区域への病原体の持ち込み防止」はどのようにしたら良いでしょうか。
 「出入口は必要最小限に」、「車両消毒、手・靴の消毒」、「海外に渡航した人・物」、「手・靴の消毒」は実行が可能です。
 「必要のない者を立ち入らせない」を順守しようとすると、見学者や一般の方が入場できなくなってしまいますので、これは無理です。また、牛に直接触れてもらうような体験は、酪農教育ファーム活動の醍醐味になりますので、「接触の機会を最小限にする」ことも難しいでしょう。
 「その日のうちに他の牧場へ行った人・使った物を持ち込まない」については、例えば家が牧場のお子さんが来場していた場合は実行が難しいですね。
 この中でも最も重要だと思われるのが手洗いです。手洗い方法を掲示するとともに、石鹸で手洗いし、ペーパータオルで拭くことを来場者に徹底させてください。
 私が新人の頃にベテランの先生に「水回りが明るくてきれいな牧場は優秀な牧場が多い」という話を聞きました。個人的な意見ですが、私もその通りだと思っています。暗いところだとバケツの汚れや搾乳機の汚れなどがしっかり見えません。牛の病気を減らすという意味でも明るい手洗い場を用意することをお勧めします。
ふれあい動物施設などで罹患する可能性のある動物由来感染症
 牛から人への感染でもっとも有名なのは病原性大腸菌O-157です。
 O-157は、健康な牛の0.5〜15%が保菌しているといわれています。牛の糞で汚染された何らか(水、食肉、無殺菌牛乳)が、口から入って感染します。牧場にいる犬や猫が保菌していることもあるので注意が必要です。3〜10日間の潜伏期間があり、乳幼児・高齢者で出血性下痢になることがあります。さらに進むと急性腎不全から溶血性尿毒症症候群にまで至り、死亡することもあります。
受け入れ時の安全を考える
1.立ち入り禁止区域
2.アレルギー体質の方への配慮
3.熱中症対策
4.ケガをした時の留意点
5.来場者に対する保険の加入(施設賠償責任保険、生産物賠償責任保険)

 牧場はアレルゲン物質が多い場所です。働いている方は気づかないかもしれませんが、動物の毛、ダニ、花粉、埃、乾草など様々あります。万が一来場者にアレルギーのショック症状が出てしまったら、安静にさせて、衣服をゆるめてください。発熱を伴う場合は、他の病気の可能性があるので、症状が治まっても医師の診察を受けるようにしてください。事前の打ち合わせ段階、見学開始前にも必ずアレルギー体質の方がいないか確認を行ってください。また、アナフィラキシーショックなどの激しい症状の場合は直ちに救急車を要請してください。
手作り体験教室での注意点
■手洗い・消毒・手袋装着
■容器は加熱殺菌できるも
■手作り体験教室で使用する牛乳は市販のもの
■作ったものを持ち帰らせない
■不特定多数への販売・譲渡は許可が必要

 「不特定多数への販売・譲渡は許可が必要」という点について、酪農教育ファーム活動の体験者は、牧場への申し込みの段階で身元が分かるので不特定ではない、だから生乳を飲ませてもよいと思われるかもしれませんが、それは絶対にやめてください。酪農教育ファーム活動の中で万が一事故が起こったとき、それは個人の問題だけでなく、活動を行う全国の酪農家全てに影響を与えます。
酪農教育ファーム活動における『安全・衛生対策』で最も重要なこと
 酪農教育ファーム活動における『安全・衛生対策』に最も重要なことは、事前打ち合わせと事前説明です。
 受入側がどんなに注意を払って準備をしていても、相手に伝わっていなければ意味がありません。訪問者が来る前に引率者の先生や行政機関、牧場スタッフや家族などと注意点を共有しておくことが大事です。計画的な活動であることで安全対策、衛生対策が実現できます。
質疑応答
Q.1
 私はふれあい動物園に勤めています。園では乳牛も飼育していますが、経済動物として扱っています。しかし、動物園なのだから他の動物と同じように終生飼育(寿命を迎えるまで適切に飼育すること)をすべきだと来場者に言われることがあります。うちの園のコンセプトは酪農家と同じ飼育をして、命の大切さを知ってもらい、だから残さず食べてほしいと伝えること。皆さんはどう思いますか。
参加者A
 うちは観光牧場ですが、乳牛は経済動物であり10年ほどで屠畜されることをきちんと説明します。でも、羊は、ラム肉を扱っていることについて市民から苦情があって、スタッフの皆で悩んで、ラム肉の生産をやめることにした。それ以外の動物は、終生飼育です。
参加者B
 私は酪農家ですが、そういうことを言われる場合もあります。牧場に来てくれた方にきちんと説明するとほとんど理解してくれます。
参加者C
 うちの観光牧場でも、お客様から同じように言われることが多いですが、乳牛は経済動物であるときちんと説明します。私のところではヤギも羊も出荷しており、お客様に合わせた説明を心がけています。ただ動物が好きで癒されたいという気持ちで来ている方もいるので気を付けています。 
天野
 個人的な意見になりますが、家畜の一生を全うさせるということは、屠畜してお肉になる最後まで、健康なままでしっかりと飼ってあげることなのだと思っています。

千葉県農業共済組合連合会 西部家畜診療所 技術主査補 天野 はな氏

東京都出身。産業動物臨床の学生実習中に食糧生産現場の仕事の尊さに感銘をうける。同時に畜産現場での女性獣医の活躍を知り、大動物臨床を目指す。
令和元年度より酪農教育ファーム研修会の講師を務める。
趣味はスキューバダイビング。SSI認定マスターダイバー。
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