スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



平成27年度 酪農教育ファーム認証研修会(北海道会場)
ワークショップ ―酪農教育ファームファシリテーターの役割―
講師/ NPO 法人ねおす 上田 融氏

 私は以前小学校に勤務していましたが、その後NPO法人ねおすでの活動を経て、現在は北海道で、いぶり自然学校という地元の人にしか分からない場所で、地元の人の為の自然学校という活動をしています。私は大学の頃から子ども達を農村漁家に連れて行くといった活動をしていました。「学校」という強大で強固な組織は、きちんとした大人が出来あがる仕組みは出来ていても、自然の中に子どもを連れて行く人がいるようでいません。ですから、そういった活動に今でも挑戦しています。
 小学生以下の幼児を対象とした「森のようちえん」という森の中に子ども達を連れて行く活動で、最近は農村漁家の家にお邪魔しています。小学生以上と幼児の活動の最大の違いは、親子を対象に出来る点です。幼児を対象にした場合は、保護者同伴なのですが、親達の方がとても感動します。肉牛農家での活動であったりすると、その日のうちにネットで注文したり、直接的にマーケットと繋がっているのを実感し、面白いし爆発的な展開を見せます。
 これからの子どもの自然体験活動の誘致は、「親子」「保護者」をどのようにうまく巻き込めるか、満足させられるかがポイントだと感じています。
君達のおかげで本当に助かった!大人が子どもに本気でお礼を言う
 牛舎で、餌をスコップで牛の方に寄せる作業を小学生達にやってもらった時に、その牧場の酪農家さんが言った言葉です。普段は、ショベルカーで寄せているのですが「今日は君達にやってもらって、ガソリン代がかからなくて、本当に助かった!本当にありがとう」と、子ども達に酪農家さんが本気でお礼を言いました。このように大人が子どもに対して対等な立場で、きちんと感謝の意を述べるシーンというのは、実はあるようでないです。このような場面も酪農の現場では沢山作れると思います。
 小学5年生の学校の授業の一環で農村での宿泊体験活動を行ったことがありました。子ども達に1週間以上も、何をさせたら良いのか考えたのですが、それならば、学校の授業のような内容をやったら良いのではないかと考えました。
 私は、基本的で、原始的なことをやりたいと考えました。大根農家の畑で大根を抜く作業をしたのですが、その時にこんな問いかけをしてみました。「君達は1,000という数字を1から1,000まで、1、2、3、4…と数えてみた事があるかい?」と。「ある」「ない」等、子ども達は答えていましたが「じゃあ、この畑に1,000本の大根があるから、抜いてみよう」と抜き始めました。なかなか抜き終わりません、大変なことです。
 1,000というデジタルな数字を自分の手で感覚として、得た事があるか?と考えてみると、実はほとんどの人間は無いでしょう。1本ずつ抜いたら、1,000という数字はすごい数だと、実感として数字を体に刻みこむような体験は算数の超基本です。私たちは1,000本が10列あるから10,000本だと、掛け算で理解しているだけです。その時に、一度1から全部やってみようと、やってみたのです。意外にも子ども達のツボにはまっていたようでした。ひたすら餌を押す、ひたすら掘るというような単純作業は、やっただけ成果が出るというのも子ども達にとって、とても楽しい事のようでした。
ファシリテーターとしてガッツポーズ出来るのは、体験者がどうなった時?
 今日、皆さんがどうなって帰って欲しいか、私なりにゴールを考えました。まず、皆さんなりの理想のファシリテーター像を描き、子どもや体験者に活動を紹介し、促す事が出来たらいいなという事。理想の姿を少しでも明確にしてもらうことがまずひとつ。そして、そうなるにはまず何をやったら良いのか、その為の手法を皆さんの体や頭の中で描けるのがもうひとつのゴールです。
 この研修を進めるにあたってもう一度ファシリテーターという言葉を整理しようと思います。
 何をファシリテート出来たら、ファシリテーターとして成功したと感じる事が出来るでしょうか。一般的に、ファシリテーターが成功した様子、現象をどのように定義するかというと、体験者が「気付きから責任ある行動が生まれる」と成功だそうです。分かりやすく言い換えると、「美味しい」「面白い!」と感じた事(気付き)が、最後には「この牧場の牛乳を飲まずにはいられない」「あなたの作る商品を買わずにはいられない」状態になり、それを実行する事が自分にとって重要だと感じ、実行に移すような状態(行動)が生まれたら、ファシリテーターとして成功です。お得感や、強制、脅迫のような手法や、朗々と喋り続け洗脳して行動させてはダメです。「教育」という方法で、気付きから責任ある行動まで持っていかなくてはなりません。これが難しいです。自動的ではない、管理、指示、命令、脅迫でもなく、教育という手法で行うのが、ファシリテーターとしての仕事です。
 教育は、一方的に話して聞かせるような講釈型と、もう1つ対極にあるのが「促す」、そうならずにはいられない状況にさせることです。知りたくなる、覚えたくなるように促す、仕込む、これがファシリテーターに求められる教育手法だと思ってください。
ワークショップ1. 袋の中身はなんだろな?
 牧場に関連する道具や物を袋の中に入れ、それを触らせて、触ったものを牧場の中から探し出してもらいます。最初から「牛の鼻に付けるやつだよ」「耳に付けるやつだよ」と、物を見せ、答えを教えて確認させるだけでは押し付けの学校教育のような気がします。
 子ども達にとって、まず見せずに感覚として触らせる、という行動をワンクッションおくことで体験的な「気付き」が深まるような気がしませんか?「なんだろう」という、思わず学ばずにはいられない状態、学びを促されている状況を作るのが、ファシリテーション型の教育です。
ワークショップ2. 林に落ちていた枝を拾って作る、なんでも美味しくなる魔法のスプーン
 皆さんの牧場でも、体験でアイスクリームやバターを作ったりすると思います。そのような時に使えるワークです。体験で作ったアイスが更に美味しくなるスプーン、食べずにはいられなくなるスプーンを作ります。
付加価値を付けると何でもないものが、かけがえのない物に
 この工作自体には、牛乳やバターは出てきません。でもこのスプーンを作り、最後にこれを使ってアイスクリームを食べてみよう、絶対美味しいからと言いながら、使って食べるのです。次もこれを持っておいでとか、次は別のものを作ってみようなどと言ってあげるとリピート率もグンと上がります。皆さんが牧場で作る牛乳や乳製品は完璧なものであり、完成された食べ物です。その食べ物に付加価値を付けるのです。これがファシリテーターの存在です。
 牧場や酪農家と牛乳やアイスを繋げる道具として、このようなワーク、アクティビティーを挟むことによって、体験者にとって皆さんや牧場の見え方が全然違ってきます。牛、牛舎、牛乳、アイスクリームだけでなく、その周りの林や、牧草地、こんな木が生えていたなど、風景や環境としても見てくれるようになるのではないでしょうか。皆さんも今日作ったスプーンを眺めて、このカーブが良い、色味が最高!と、きっと思うでしょう。林の中で、ただの枝でしかなかった、邪魔なものでしかなかった枝が、このように形になると「使える」「美味しい」という「気付き」になり、環境保全、森林保全に繋がるような「責任ある行動」に繋げるひとつの手法になるのではないかと思います。
体験者や子ども達が帰る時に言わせたい一言を考える
 例えば、自分の牧場に5年生の子ども達が10〜20人来るとして、その子達が帰りのバスに乗る時、何と言わせたいか?
 その言葉を決める事から、ファシリテーションは始まる。


 酪農体験のプログラムを考える際の頭の整理手順です。今皆さんにとって一番大切な事は、方法・活動の目標を設定することです。酪農教育ファシリテーターの目的は広く言えば「酪農体験を通して食といのちの学びを支援する」ですが、いきなりそれを目標に掲げても崇高過ぎて難しく、まず何をやったら良いか分かりません。まずは現実的なところに目標を置きます。
現場に帰ったら、まずこれやろう!準備、努力、ネタ、アクション、何かひとつを決めよう!
 大体プログラムを埋めたら、それぞれ目標と、その目標の為にまずこうしたいと考えたことや、その先どうしたら良いのか悩んでいる、又は筆が止まってしまった等、プログラムを見せ合いながら話し合い、相談し意見を聞きます。人が書いたプログラムを見ながら目標の為にはこうしたらどう?こんな方法もあるのでは?というようなアイデア、アドバイスを話し合いながら書きこんであげて下さい。
 ファシリテーションというキーワードに基づいた自分なりのプログラムのイメージが付いたら最後に言わせたい言葉を決めて、それに向かってどうやって繋げていくかです。牛や牛乳の素晴らしさ、生態等を延々語っていてもダメです。そうではない方法で目標の言葉に持っていくにはどうしたら良いのかを分析しながら考える事が、皆さんがこの後自分のフィールドに戻った時、体験者を迎える前日に考える事です。このやり方を覚えておくと、考える時間が無駄になりません。よりよいファシリテーションが出来ると思います。喋り続ける講釈型が絶対ダメではありません。しかしそれだけで伝わると思ったら大間違いだということを覚えて行って下さい。
―以下抜粋―
参加者A:自分のパートナーにも同じ目的、レベルで子ども達と体験者に接する事が出来るよう、まずはこのような研修を受けて貰いたいと思った。

参加者B:酪農を全然知らない子達にワクワクを与えられるネタを考えたい。

参加者C:私の目標は浜中町にまた来たいと思ってもらう事。その為に浜中町の魅力を自分で更に掘り下げ、何か1つでも伝えられるものを用意しておきたい。
参加者D:牧場のことを知って貰う為の企画を1つ考え、やってみたいと思った。後輩にも自分が学んだ事を教えて、一緒にやっていきたい。

参加者E:子ども達にやりたい、知りたいと思わせられるような変化球のネタを仕込みたいと思った。牧場の景観、エリア分け、子ども達が動ける動線を牧場の中に作りたい。あと山羊も飼いたい。

参加者F:私は高校で働いているので、生徒が実際ファシリテーターとして体験者に接することになる。生徒との信頼関係の構築がまず大事。今日学んだ事を生徒に話し、還元したい。

参加者G:今までは話すだけの説明が多かったので、実際に触り、五感で感じるような方法を考えたい。子ども目線になって、どうしたら楽しいか、町の特産などを取り入れるようなネタを考えたい。

参加者H:高校生メインの民泊をやっている。高校生がもっと興味を持てるような接し方をしたい。小学生が来た時は、話しを聞かずにはいられないような方法を考えたい。

参加者I:うちの牧場は規模が大きく、スタッフが多いので温度差がどうしてもある。法人としての役割、自分達の牧場が存在する意味を仲間と共有して、大規模だからこそできる事があると思う。自分1人では研修会で学んだ事を伝えるのが難しいので、スタッフにも受けて欲しい。

参加者J:僕が毎日見ている当たり前の光景が、実は他の人にとって宝の原石になるのだと言う事が分かった。それをもっと伝えて行きたい。自分はピュアなつもりでいたが、もっと透明な純粋な目で物事を見る事が出来たら、きっと伝わっていくのではないかと思う。伝える事が自分の大切な使命だと思っているので、FaceBook等の媒体を上手く使いながら、酪農のファンをみんなと一緒に増やしていきたい。
上田:ありがとうございました。皆さんのファシリテーション計画を行動に移すための第一段を伺ったつもりでしたが、もっと大きく深い部分まで掘り下げて頂けました。とても良いと思います。今日私がやった方法も、様々な技術を散りばめています。班を離れて別の班で意見を共有したやり方は、「ワールドカフェ」方式という、ホストが進行して、1人の意見に引きずられないような方法です。
 皆さんのフィールドで、皆さんなりのファシリテーションが出来る事を願っています。今日宣言した事の為に、明日から行動に移して頂ける事を望んで、今日は終わります。

NPO法人ねおす
 上田 融(とおる)氏


昭和48年生まれ。平成8年より北海道の小学校で6年間勤務。平成14年より4年間、登別市教育委員会社会教育グループで社会教育主事としてふぉれすと鉱山の運営に携わる。平成18年より、NPO法人ねおすの活動へ参画。現在は道内各地の自治体と協働し、第一次産業の取り組みを子どもたちに体験的に伝え、学ばせるプログラム開発および協議体の設立に関わる。平成20年より苫東・和みの森運営協議会副会長。
プロジェクト・ワイルドファシリテーター、小学校教諭1種、幼稚園教諭1種等の資格を持つ。
平成24、25、27年度認証研修会北海道会場の講師を務める。
(C) Japan Dairy Council All rights reserved.