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平成27年度 酪農教育ファーム認証研修会(東京・福岡会場)
―酪農教育ファーム認証牧場における安全・衛生の基準―
千葉県農業共済組合連合会南部家畜診療所 係長 山嵜 敦子 氏
酪農教育ファーム活動を行う上で、注意しなければならない安全衛生のポイントを、確認していきたいと思います。
私は、千葉の南部家畜診療所に勤めております。千葉と言えば、ディズニーランドですが、さすが「夢と魔法の国」だけあって、手洗い場では、手をかざすとミッキーマウスの形をした石鹸が出て来ます。この講義が終わった後に、手洗いについて「なるほど」と関連付けて覚えて行って下さい。
千葉は日本酪農の発祥地です。8代将軍吉宗がインド産の白牛3頭を輸入し、嶺岡町で放牧をし、そこから乳製品の「白牛酪」を作ったということで、日本の酪農発祥の地は千葉県の嶺岡だとされています。しばらく白牛はいませんでしたが、今は飼育されています。
嶺岡に「酪農の里」という資料館が作られた際に、シンボルとしてアメリカから「ゼブ牛」を輸入しています。導入された当時は、このゼブ牛に触れる事が出来たのですが、今は柵が頑丈に作られていて、直接触る事は出来ません。何故かと言うと、2004年6月に酪農啓発施設(「酪農の里」)でゼブ牛が感染源となった集団感染O-157が発生してしまったからです。このような辛い過去があります。
安全に体験者を牧場に迎える為の準備
1、安全 2、衛生 3、生乳の取扱い 4、手作り体験時の注意点
1、安全について
●危険区域の事前確認
事前に見学ルートを実際に歩き、立入OKなエリア、立入禁止エリアを明確に区分、表示しておくこと。活動が始まったら、気を付ける場所をあらかじめ説明することが大事。
立入禁止区域は誰にでも分かるように表示を作ること。
例えば、ミルク缶を使い、「立入禁止」と書き、牧場の雰囲気を出しながら誰でも分かるように工夫するなど。
●アレルギー体質の子どもへの配慮。ひきつけを起こした場合の対処法
・安静にし衣服をゆるめる。
・5分たっても治まらない、ひきつけを繰り返すときは救急車を呼ぶ。
・発熱を伴う場合は他の病気の可能性があるので、症状が治まっても医師の診察を受ける。
・見学を開始する前に、見学者や指導者に確認しておくこと。
●熱中症対策
体調を整え、通気性の良い衣服、帽子を着用、こまめな水分補給、子どもと高齢者は注意が必要。
●怪我についての留意点
救急箱の中身は、再確認すること。絆創膏、三角巾、ガーゼ、包帯、アイスバッグ、体温計、虫さされの薬、毛抜き等を常備しておく。飲み薬や、消毒薬、自分の家にある胃腸薬や風邪薬も来場者に使ってはいけない。
緊急時には、電話のすぐ近くに病院の電話番号を書いて掲示しておく。
受け入れ前に準備しておく事
・要注意牛や異常牛の隔離
・危険エリア、見学可能エリアの区域分け
・畜舎の整理整頓
・薬品類の管理
・重機や農作業用車両の鍵はきちんと保管
・害虫駆除
・農場出入り口の消石灰
・牛舎出入り口の踏込み消毒槽の設置
・手洗い場の準備(石鹸の確認)
・保険の加入
・乳製品等の手作り体験がある場合は保健所への確認が必要
平成23年度から家畜伝染病予防法が改定されました。「畜産農家におけるウイルス侵入防止措置について、家畜の所有者に対し、飼養衛生管理の状況等についての定期的な報告を義務付ける」とあります。これは、どのような牧場も、何月何日に誰々が来たということをきちんと記録する事です。併せて、畜舎等への消毒設備の設置、人や車両の出入りに際しての消毒を義務付ける事が法律で決められています。
感染症の基本対策は3つ、「入れない、拡げない、持ち出さない」
2、衛生
気を付けなければならないのはまず、「口蹄疫」から牛を守ることです。口蹄疫は人に感染しても何ともないのですが、牛に感染すると大変な事になります。逆に牛は何ともなくても人に感染すると大変な感染症が「O-157」です。この2つをまず押さえておいて下さい。
◆入れない
口蹄疫、ウイルス性の呼吸器病、ロタ、コロナなどのウイルス性の下痢症、サルモネラ症、黄色ブドウ球菌、ヨーネ病、これらが牧場に入らないように気を付けましょう。農場を訪問する車両、持ち込む器具は必ず消毒し、関係者以外の農場への立ち入りは控えましょう。飼養する家畜の健康観察を毎日丁寧に行い、おかしいと感じたらすぐに獣医師、最寄りの家畜保健センターに連絡をしましょう。
日本で口蹄疫は1908年以降は発生していませんでしたが、2000年に北海道と宮崎県で発生、その後2010年に再び宮崎で発生してしまいました。酪農家の努力もあり、その後鎮圧し、2011年に正常国に再認定されました。この事を絶対に忘れてはいけません。
口蹄疫が何故起きるか、原因を調べると一番の可能性は、汚染肉、畜産物、仲介ですが、低い可能性のひとつとして、汚染資材、器具、人も挙げられています。口蹄疫ウィルスは、−20度でも90日間生存できます。これは加工済みのハム、ベーコン、ソーセージ等の中でも90日間は生存するという事です。故にこれらは検疫済みでなければ海外から日本に持ち込む事は出来ません。現在でもアジアを中心に、隣の韓国でも発生していますので、農水省のHPで現在の状況を把握する習慣を付けておくと良いでしょう。
口蹄疫の潜伏期間は、牛6日、豚10日、めん羊9日となっています。口蹄疫はウイルスによる急性熱性の伝染病で、伝染力が非常に強く、ほとんどの偶蹄類が感染します。成畜での致死率は数%だが、発育障害、運動障害、泌乳障害などにより経済被害が極めて大きく、何よりも畜産物の国際流通に大きく影響する怖い病気です。口蹄疫が日本で発生した場合は、もちろん体験などは中止にり、万が一認証牧場で起きてしまったら、この酪農教育ファーム活動自体が危まれます。その事をしっかり念頭において活動をして頂きたいと思います。「入れない」為に、出入り口の消石灰の準備、靴箱の消毒、可能であればブーツカバーを使用しましょう。
◆拡げない
冬は下痢が発生しやすい時期です。下痢や感染症を拡げない為には動線を確保する事、踏込み消毒槽をポイントごとに置くこと、早く病気を見つける事、必要なワクチンを打つ事、ネズミ等の駆除をする事です。動線の確保としては牛舎内を一方通行にして、必ず消毒槽を踏み込んで出て貰うような仕組みにすると良いでしょう。
◆持ち出さないこと
病原体を外に持っていかない事です。1軒の牧場に行くのであれば構いませんが、転々と牧場を渡り歩かないよう来場者に呼びかけてください。消毒槽を出たら終わりにする、可能であれば着替えの持参や汚れにくい服装で来場してもらう事、そして必ず手洗いをしてください。
何故手洗いが必要かと言うと、感染症への感染リスクの多くは、動物への接触時の注意と接触後の衛生管理の徹底で低減させることが可能だからです。衛生管理の徹底で筆頭に挙げられるのが「手洗い」です。ふれあい動物施設で罹患する可能性のある動物由来感染症はカンピロバクター、クリプトスポリジウム、サルモネラ、O-157等沢山あります。これらはみな、手洗いで防ぐ事が可能です。
100個の菌で感染成立、O-157の怖さ
ふれあい動物施設に限らずO-157は様々な場所から検出されていますが、O-157のキャリアは牛であるという事が一般的な常識になっており、健康な牛からも15%検出されています。
牛は晩春から夏にかけてO-157の菌を多く保有しており季節性が認められます。一時的に入り、いつの間にか出ていく通過菌ですが、牛はその間元気です。適正な飼養管理と、牛の第一胃を恒常的に健康な状態にしてあげることで、菌の増殖が抑制出来ると言われています。
O-157が厄介な点は、多くの食中毒は100万個以上の細菌が人間の口に入らなければ感染が成立しないと言われていますが、O-157の場合は、たった100個の細菌で感染が成立してしまう事です。例えば、皆さんが普通に持っているボールペンには10〜100万個の菌がいます。牛の糞便には、1000億〜1兆の菌がいます。それと比べたら100個の菌というのが、どれほど少ないかがイメージして頂けたと思います。だから注意が必要なのです。
O-157の菌を減らすための方法として、牛床に消石灰を週に1回、1平方Mあたり500gを撒き続けると、1ヶ月後には88.9%いた菌が16.7%まで検出されなくなります。牛床に消石灰の散布する方法は効果があります。
特効薬がないクリプトスポリジウム
クリプトスポリジウム症の紹介です。原虫の仲間なのですが、他の感染症に効く薬が効きません。特効薬がないのが残念な特徴です。2014年に東京の2つの小学校で生徒が下痢、嘔吐を訴え学級閉鎖になるという事例がありました。
林間学校の体験学習で、牧場で牛と接触後、バター作り体験をしており、生徒からクリプトスポリジウムが検出されたそうです。クリプトスポリジウムは牛の糞便で排泄され、少量で感染が成立し、水道水の塩素や消毒薬でも100%除去出来ない厄介な原虫です。
リステリア症は、細菌による食中毒です。アメリカでは毎年約500人の死亡例も出ています。日本でも2001年、北海道でナチュラルチーズが原因と思われるリステリア症が発生しました。症状は頭痛、発熱、嘔吐です。重症になると脳脊髄膜炎をおこし、意識障害、痙攣をおこす事もあります。私もリステリア症にかかった牛を2頭見た事がありますが、明らかに変な行動をします。目はおかしな方向に行き、ぐるぐる一定方向にのみ旋回していて、強く記憶に残っています。
大切な手洗い。ではどんな石鹸で洗うか?
クリプトスポリジウムもどんな感染症も、みな手洗いを励行していれば予防出来ます。
手洗い施設の条件は、必ず手洗いが実行出来るような場所に設置してあること、入場者に応じた数の設置、十分な水量の確保、貯め水は使わずに流水で行う事、考えられた高さに設置、石鹸を常備すること等が、掲げられています。
Q、この3種類の中でどの石鹸で洗うと一番効果があるでしょうか?
1.牛乳石鹸赤箱 2.無添加石鹸 3.薬用石鹸
A、何で洗うかより、どう洗うか、が大事です。
薬用石鹸の方が好ましいかもしれませんが、こだわらなくても大丈夫です。石鹸で15秒間洗えば、手の細菌数は1/4〜1/15に減り、30秒間洗えば1/63〜1/630まで減ります。
手洗いに関しての冊子等も出ていますので、こういうものも使いながら、手洗いを啓発してください。どうして手洗いが必要かも説明してあげる事が大事です。
搾乳体験ではゴム手袋の着用を勧められています。乳頭の感触、温もり、生乳の生温かさを素手で感じてもらいたいと思ってしまいますが、現在は、手袋の着用が進められています。先日の研修会で聞いたのですが、搾乳の後にだけ手洗いをやらせると牛は汚ないものだという印象を植え付けしまうので、触る前、触った後に手を洗わせて牛と人間両方に菌が入らないように教えていますと仰っている酪農家さんがいました。
●手作り体験時の注意点
・原料は市販のものを使う。
・屋根の下や日陰で行う。
・手作り体験を始める前にも手を洗う。動物に触れる前に手作り体験を行った方が感染のリスクを下げられます。
・持ち帰りはさせない。
・容器は加熱殺菌出来る物を使用する。
以上は乳等省令で決められているので、守りましょう。
安全・衛生に関しての質疑応答
Q、時代の流れで、最近は搾乳体験時に素手ではなくゴム手袋を着用させるという事を知識としては知っていましたが、私の施設では搾る前に手洗いと消毒液に手を漬けることを徹底してもらいながら、今も素手で乳搾り体験をしています。今後はもういけないのでしょうか?
A、法令等はありませんが、素手ではいけないというような流れになっています。手は綺麗に見えても黄色ブドウ球菌が付着していたりするので、素手の場合は体験の前後に必ず手洗いをするという流れでやれば、牛にも人にも安全なので、大丈夫なのではないかと思います。
Q、私は観光牧場で働いており、外国の方も来て下さるのですが、説明などを英文で作らなければならないというような法律はありますか?
A、現段階では無いと思いますが、英文だけではなくて、出来れば中国語、韓国語の案内は必要かもしれません。衛生的に気になるのは、アジア圏の方々なので、その国々の案内を強化する事も今後必要だと思います。
Q、うちは放牧で、牛と鹿とを一緒に飼育しています。鹿から牛に移る感染病等があったら教えて下さい。
A、鹿はマダニを持っています。以前一斉駆除等で仕留められた鹿を見た時、鹿の体にびっしりマダニが浮いていました。マダニはピロプラズムという病気を移します。血液の病気で牛は貧血になってしまいますので、定期的に駆虫薬を使い、マダニを駆除して下さい。背中に垂らす駆虫薬が良いです。
Q、牛舎に立ち入る際に、消石灰を踏んだ後、保健所から配布されたビルコンを使用しているのですが、消石灰とビルコンでは中和されてしまい効果がないと聞いた事があるのですが、そういった薬剤の相性等はあるのでしょうか?
A、相性等については即答出来ないのですが、併用して使用する事は大丈夫だと思います。
千葉県農業共済組合連合会南部家畜診療所
係長 山嵜敦子氏
1966年千葉県生まれ。子どもの頃に牛舎で第四胃変位手術をする獣医師たちを見て、牛の臨床獣医師に憧れ、現在に至る。1992年日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業。同年、千葉県農業共済組合連合会に就職。
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