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平成26年度 酪農教育ファーム認証研修会(大阪会場)
―ワークショップ「酪農教育ファームファシリテーターの役割」―
平成26年度 酪農教育ファーム認証研修会(大阪)が行われました。
fence works 橋本 仁美
 私は人の話を聞くことに興味があります。その人の話をじっくり聞くと、何を大事にしているのか、こだわっているのか、そういう体験をしたからこんな風に考えるのかなどその人の辿ってきた人生に触れることが出来ます。
 最近、幼稚園のスタッフの仕事をしているのですが、そこはいわゆる幼稚園という施設がなく、みんなで山に行き、大人も子どもも一緒になりノープランで遊びます。よほど危ない時以外は大人は何の手出しもしません。
 そこである時、音楽の先生を頼まれました。私は音楽が好きなのですが、「音楽の良さをどうやって伝えたら良いのか?」と、すごく考えてしまいました。音楽は良いものだから聞きなさいと言って聴かせるのは、その幼稚園のテーマから外れていますし、子どもたちにとっても楽しい事ではないと思いました。楽器を持っていき演奏したり、教えたりしてみましたが、子どもたちの目がイキイキしておらず、ただ遊びの邪魔しているような気がしてすごく悲しくなってきました。
 音楽の事を何も教えられていないと悩みながらも、とりあえずリコーダーで好きな曲を吹いていました。すると1人近づいてきて「その曲、クリスマスの曲?」と聞いてきました。そこから、「こんな曲吹ける?」「私あの曲聞きたい!」というような会話が始まり、段々と子どもが集まってきました。
 そんなやり取りの中、余っていたリコーダーで私の真似を始めた子どもたちが「どうやって吹くの?」「どうやったら音が変わるの?」と言いだして、その場は笛吹き大会のようになりました。
 私が何か狙って行動をしたわけでは無いですが、結果的に私のやりたかった「音楽を教える」ということが実現したという経験です。
 酪農教育ファシリテーターにも、同じようなところがあるのではないかと思っています。「大事さ」を言葉ではなく、感じさせて伝えるということは、そういうことだと思っています。「伝えた」という実感が少ないアプローチの仕方かもしれませんが、これが私の知っている事実であり、自分自身のままでやれる事ではないかと思っています。 
 皆さんが、その時にしたいと思うこと、好きだと思うことをするというところに、自然と子どもたちが引き寄せられていくようなファシリテーターになってもらえたら素敵だと感じます。上手にいのちの大切さを伝える方法は私にはわかりません。でも自然と伝わってしまう感じというのを皆さんと考えたいと思います。
自分にとって「大切なもの」について語ってみよう!
 3人組になって、1人が語り手となり「自分の大切なもの、好きなもの」について話します。残りの2人は聞き手になってください。
 語り手は2通りの伝え方をしてください。
1つ目:「その物」について。例えば、見た目の特徴や質、機能など良いところ。
2つ目:その物との「思い出」。背景やエピソードなど。
 聞き手は2通りの伝え方を聞いて、印象の違いを語り手にフィードバックしてください。
聞き手の人は、2通りの伝え方を聞いてどんな風に印象が違いましたか?
大切な物:バイク 
 物の特徴だけを聞いた時は「ふーん、そうか。」というような印象だけでしたが、思い出も交えて聞くと、「なぜ?」という疑問や質問が浮かびました。なぜ古いバイクが好きなのか、なぜその車種が良いのかな、と。その中で、友達にそのバイクの情報を聞いたとか、バイクを改造してというようなエピソードを聞き、印象に残りました。

大切な物:ピンクの携帯ケース
 インターネットで購入したが、なかなか届かなかったとか、手に入れるまでに様々な困難があった事を聞いて、機能の面等の良さだけではない部分も知ることが出来て、親しみを感じる事が出来ました。

大切な物:靴
 物については、その靴は幅広で、地元にはなかなか売ってないという事でした。何故そこまで思い入れがあるのか聞いてみると、近くには売っていないからすぐに買えないこと、なかなか買いに行く時間も取れずやっと手に入れてほっとしたということを聞いて、人間性をより感じた気がしました。

 このように物に隠された思い出やエピソードを聞くと、持ち主の人間性までが見えてくる場合があります。その事に気付いてくれたのではないかと思います。
 物の特徴だけを話すのと、物の思い出を話すのとでは、伝わり方の違いがあることが実感出来たと思います。物の特徴だけ聞いた時は、シーンによっては役立つ場合もあるかと思いますが、「ふーん」というような、頭で知識として理解する感じだと思います。
 物の思い出を聞くと、その物の存在感や重みを実感し、言葉で「大事」と言わなくても聞き手が「感じる」、粗末には出来ない感覚になる伝わり方をします。言葉で「大事」と言わずに伝えたいのです。この感覚を持ち帰ってほしいと思います。
DVD鑑賞 「食育へのメッセージ」
 吉田牧場での酪農体験DVD「食育へのメッセージ」のシーンを鑑賞しました。
 私がこのメッセージの中で、エピソードを交えている話し方だなと思ったのは、「おじさんとおばさんが今朝搾った牛乳」という言葉です。子ども達にはただの牛乳だったはずが、おじさんとおばさんの存在があり、さらに普通なら購入していた牛乳を「搾った」と言うと、一気に牛乳の重みが変わる気がします。
 皆さんが食育のメッセージを伝えたいと思ったらどのように伝えますか?例えば、牛乳自慢。どの部分にこだわりを持っているのか、こんな工夫をしているからおいしいとか、この牛乳を飲んでいたら、体の調子が良くなったなどを聞くととても面白いと思います。
 また、これはたぶん一番酪農で説得力がある部分だと思いますが、生死の話です。牛の生死に関わる場面に何度も出会っていると思いますが、どんな気持ちでいるのか、その牛とどんな関わり方をしたとかを語って欲しいと思います。子ども達は衝撃を受けると思います。そういう思いを語った後に、「何か生き物を飼っている?」と問いかけて、飼っている子どもがいれば、その子は生死を身近に感じられるのではないかと思います。また問いかけを持って帰ってもらっても良いと思います。
ファシリテーターとはなんだろう?
 最後に一言ずつ感想を話して終わりたいと思います。
「ファシリテーターとはなんだろう?」
●かっこつけずありのままでいよう思った。
●牛のエピソードを自分の友達が面白がって聞いてくれるので、それを子ども達にも話したら興味を持ってくれるかもしれないと感じた。
●体験活動の中で子ども達に「どうだった?」という問いかけしか出来なくて悩んでいたが、それでも良いと思えた。
●今まではとりあえず伝えようと思っていたが、これからはエピソードも交えて伝えてみようと思った。
●話術を教えてもらう気で研修に参加したが、そうではなく子どもたちに感じてもらう、考えるきっかけを作ってあげることがファシリテーターの役割かなと思った。
 短い時間でしたが、その中で皆さんの生きている姿を見させていただき、こんなに皆さんの話を聞いてしまうと、もう他人ごとでは無いような気持ちになります。これから皆さんそれぞれの場所で、今日感じたことを思い出しながら頑張って欲しいと思います。


fence works 橋本 仁美
1986年生まれ。「目的を持たない生命体的集団 fence works」スタッフ。"ただ聞く事"をコンセプトとした傾聴クラスや、参加者が思いのまま・気の向くままに自分自身を語り、あるいは語らずに座る「円坐」という場を開いている。
 その他、自由な雰囲気のなかで自身の感覚に耳を傾ける時間を持つためのワークショップツアーを企画。また、楽器のレッスンも随時行っている。劇団「シアター坐フェンス」所属。観客から言葉を頂き、それを依り代に舞台表現を行う「きく・みる・はなす縁坐舞台(えんざぶたい)」に関わる。近頃は自分の音楽体験と、聞くこととの接点を思索中。
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