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平成26年度 酪農教育ファーム認証研修会(大阪会場)
―安全・衛生について―
平成26年度 酪農教育ファーム認証研修会(大阪)が行われました。
酪農教育ファーム牧場における安全衛生の基準について
千葉県農業共済組合連合会南部家畜診療所  係長 山嵜 敦子
 千葉県の嶺岡というところは日本の酪農発祥の地と言われています。初めは馬の放牧地としてスタートしたそうですが、戦国時代に国主里見氏が軍馬を育てる目的で嶺岡牧場を作り、その後、江戸幕府が嶺岡牧場を直轄します。
 8代将軍吉宗は馬の改良に力を入れており、外国産の馬を輸入していた際に、白牛が3頭入って来たそうです。白牛は年々繁殖し、搾った牛乳から白牛酪が作られるようになります。バターのような白牛酪は、初めは将軍への献上品でしたが、後に生産量も増え、庶民にも販売されるようになりました。この事が日本酪農の始まりであるとされています。
 現在、嶺岡にある「酪農のさと」という施設には白牛がいます。耳が垂れていて、こぶがあり、白というか、グレーのような色で可愛い牛です。
 ただ、2004年の千葉県の小学校において、この白牛が感染源となる集団感染事例が発生してしまいました。この事例が発生してから、柵が増え、見学にきた方は絶対に牛に触れられないようになっています。今まで以上に消石灰が振られ、警告の看板も増え、手洗い場も増設されました。このような事故が2度と起きないために、本日お話しさせていただきます。
安全について
1.危険区域の事前確認
 牧場内を実際に自分で歩いて、チェックをして下さい。気をつけるべき場所を、きちんと子ども達に説明してください。入って欲しくない場所には誰でも分かるような表示を作りましょう。
2.アレルギー体質の子どもへの配慮
 アレルギーや、ひきつけを起こした子どもへの対処法は、安静にする、救急車をよぶ、病院に連れていく。時前に体験者や指導者に確認しておくことが大事です。
3.熱中症対策
 夏の暑い時期に酪農体験をする事もあると思います。体調を整えて体験に臨んでもらう。服装を工夫する。帽子をかぶる。こまめに水分補給をする。子どもと高齢者には特に注意を払って下さい。
4.怪我についての留意点
 救急箱の中身は三角巾、絆創膏、冷却パックなど決められています。自分が使う置き薬などを体験者に使ってはいけません。消毒薬も飲み薬もダメです。応急手当のマニュアルがありますので確認しておいてください。
 大事な事は、「慌てない」ということです。電話の近くに119番や、病院等、緊急時のダイヤルの表を貼っておくと良いです。
受け入れ前に準備しておくこと
●危険エリアと見学可能エリアを分ける。
●畜舎周囲の整理整頓、清掃、消毒を行う。
●薬品類をきちんと管理しておく。
●重機、農作業用車両の鍵を保管。(重機の鍵付けっ放しはダメ。)
●害虫駆除。
●農場出入り口の消石灰。
●牛舎出入り口の踏み込み消毒槽の準備。
●手洗い場の準備、石鹸の確認。
●保険の加入。
●手作り体験実習の際には、保健所に確認。
衛生について
 家畜に対する衛生と訪問者に対する衛生を考えなくてはいけません。
人から牛にうつしてはいけない病気は「口蹄疫」です。牛から人にうつしてはいけない病気は「O-157」です。この2つが重要な病気であると認識して下さい。
 感染症の基本対策は「入れない」「広げない」「持ち出さない」この3つに尽きます。
 牛に感染して問題となる感染症は口蹄疫ですが、その他ウイルス性の呼吸器病や、ロタウィルス、コロナウィルスの下痢等が、人間が持ち込む可能性があるとして重要視されています。農場への口蹄疫の侵入を防ぐために、農場へ訪問する車両、持ち込み器具は必ず消毒し、関係者以外の農場への立ち入りは控えてください。飼養する家畜の健康観察を毎日丁寧に行い、おかしいと感じたら近くの獣医師や家畜保健衛生所に連絡してください。
 口蹄疫は2010年に宮崎で大発生しましたが、日本は2011年2月に正常国として認定されました。しかしまだ世界では多く発生している病気です。牛は口蹄疫のウイルスが10〜100個いれば感染してしまうそうです。万が一口蹄疫が出てしまい、それが酪農教育ファームの認証牧場だったら活動自体が危ぶまれますので、とにかく消毒には細心の注意を払ってください。
1、入れない
 出入り口の消石灰、靴底の消毒、ブーツカバーの使用。人の靴底や、衣服に付着して運ばれて、牛に感染してしまうのが一番怖いです。
2、広げない
 どうしても埃はたまってしまいますが、埃にはサルモネラ菌が残っている場合がありますので、なるべく牛舎は綺麗にしてください。また、牛のお尻側から頭側に行かないような動線の工夫、要所に消毒槽の設置。牛の健康観察、必要に応じてワクチン接種の利用も必要です。
3、持ち出さない
 牛舎から牛舎に移動するようなイベントは避ける。牛舎から出る時も、もう1回踏込み消毒槽に入る事を忘れないでください。理想は着替えを準備して、脱いだらビニール袋に入れて持ち帰り、選択するのが理想です。
1番のポイントは手洗い
 人に感染して問題となる伝染病があります。これらは手洗いで人間への感染を防ぐ事が出来ますので、きちんと手洗いを行ってください。
 インターネットで調べると様々な手洗い方法が出てきますが、共通しているのは20秒以上流水で洗うということと石鹸の使用です。細菌は15秒間で4分の1に減り、30秒間洗うと63〜630分の1にまで減るということです。簡単に濡らしただけでは逆に細菌は増えてしまいます。
 とにかく手洗いの敢行です。手洗いを確実なものにするために、適切な場所に手洗い場を作り、動物がいるエリア、いないエリアを物理的に分ける、補助犬以外の動物を入れない。出口には来場者に見合った手洗い施設を設けてください。
 飲食を伴う体験の場合は飲食をしてから体験をするようにして下さい。牛に触れてから飲食をするよりも逆の方が感染のリスクは減ります。
生乳の取り扱い、手作り体験時の注意点
乳製品の手作り体験時の注意点
●原料は市販のものを使う
●出来るだけ屋根の下や日陰でおこなう
●手作り体験の前にはよく手洗いをする
●体験の順序をよく考える
●体験で作ったものは持ち帰れない
●作る容器は加熱殺菌出来るものを使う
安全衛生Question!こんな時どうする?
■Question1
少人数で受け入れをしなければならない時、参加者全員を踏込み消毒槽へ誘導するにはどうしたら良いでしょうか。例えば、牧場側が2人で、10人の受け入れと仮定してください。
■参加者のAnswer
●事前の打ち合わせが一番です。責任者の方に事前に説明するのが大事です。
  最初に集合して、消毒の意味を説明する。看板を立てる等して、一方通行にする。
●事前に説明する、伝えておく、指導してもらう。
  その後、実演する。入口を1か所にする。
●私のところでは使い捨ての簡易ブーツカバーを利用しています。
  みんなに配って履いてもらいます。

 大人数の場合は10〜20人のグループに分けて、必ず1グループに1人のファシリテーターが付くようにする。グループの中にも1人リーダーの役割を与え、責任と自覚を持たせるようにします。
 農水省のHPに載っていますが、家伝法で家畜の飼養者は防疫措置を行わなければならない、と決まっておりますので、認証牧場又は、酪農体験活動に関わらず、普段から踏込み消毒槽や車両出入り口の消石灰を心がけてください。


■Question2
酪農体験で、搾りたての牛乳の温かさや、美味しさを実感してもらいと思うのですが、残念ながら提供することは出来ません。でも搾りたての牛乳を飲みたいと言う参加者がいます。そんな時、皆さんはどうしますか?

■先生のAnswer
絞った牛乳をその場で参加者に飲ませてはいけません。何があっても駄目です。認可された施設で処理されたものしか口にしてはいけないと、乳等省令で決まっています。
 最後になりますが、実際に私の診療所にも体験の学生が来ますが実際に自分でやると、やった後の目の輝きが全然違います。酪農体験という素晴らしい体験をいつまでも楽しんで頂けるように皆さんの力が必要です。安全衛生に気を付けながら、体験学習をしていってください。よろしくお願いします。


千葉県農業共済組合連合会南部家畜診療所 係長 山嵜 敦子
 1966年千葉県生まれ。子どもの頃に牛舎で第四胃変位手術をする獣医師たちを見て、牛の臨床獣医師に憧れ、現在に至る。1992年日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業。
 同年、千葉県農業共済組合連合会に就職。
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