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令和2年度 酪農教育ファーム実践研究集会−実践発表1−
実践発表1
「牛とのふれあいを通して絆を育む教育実践」
帯広市立森の里小学校 髙橋淳一


 はじめに、この実践の根底には「牛との絆、人との絆、地域との絆」という三つの絆を育みたいという願いが詰まっているということをお伝えしたいと思います。

 帯広市は北海道の十勝地方の中央部に位置する人口17万人の市です。
 私は生まれも育ちも帯広市で、とにかく帯広が大好きです。教育に携わるようになってからも北海道、十勝、そして帯広と、故郷を大事にする子どもたちを育てたいと常々思っています。

 帯広といえば色々ありますが、豚丼の発祥の地、また世界で唯一ばんえい競馬が行われている街でもあります。
 本校は帯広駅から車で15分程度の閑静な住宅地にあります。全校児童は259名で帯広市内では中規模の学校と言えます。森の里小学校というだけあり、学校に小さな森があります。またビオトープもあるなど、非常に自然環境に恵まれ、環境教育に力を入れて取り組んでいる学校です。
子牛ふれあいファームの誕生のきっかけ
 「子牛ふれあいファーム」とは、子牛が学校に3泊4日で滞在し、全校児童が子牛とのふれあいを体験できる取り組みです。
 一昨年度から始めましたが、初年度は初めての取り組みのため滞在するところまではできず、3頭の子牛を1日だけ学校に連れてきました。昨年度から3泊4日で学校に滞在しています。
 主に低学年(1年生から3年生)を中心に、様々な学習活動を展開します。今年度もコロナ禍の中ではありましたが9月7日から10日までの4日間でなんとか実施することができました。

 子牛ふれあいファーム誕生のきっかけは8年前に遡ります。私は当時4年生を担任していて、体験学習で訪れたリバティヒル広瀬牧場の廣瀬さんと出会いました。事前打ち合わせに行った時に廣瀬さんが何気なく言った、「自分の子どもたちがお世話になった森の里小学校に、何か恩返しがしたい」という話を私がずっと覚えていて、何かできないかなという思いをもっていました。
 それから4、5年の月日が流れました。私はこの森の里小学校に長く勤めており、今年で9年目になります。最初の4年間は学級担任、次の年には教務主任として少し小学校全体を動かせる立場となりました。そして現在も本校で教頭として勤めています。
 私が教務主任になった時、帯広市の教育施策の中に「?環境モデル都市の指定にふさわしい環境教育の強化」、「?『フードバレーとかち」を踏まえた食育を推進、「?地域総ぐるみの教育活動の展開」が掲げられました。そしてそのポイントして、「1.外部講師を積極的に活用、2.食育の充実、3.農業体験、4.環境教育、5.地域の人材活用、6.フードバレー構想、7.豊かな学びを向上、8.豊かな心を育成」などが示されました。
 ここで私は廣瀬さんの話を思い出し、浮かんだのが「子牛ふれあいファーム」です。先ほどのすべての条件を満たすのは「子牛ふれあいファーム」しかないと思ったのです。
子どもたちの今、これからの学校
 これからの学校は地域とともにある、地域総がかりで子どもたちを育てることが求められています。ですが、そもそも小学生にとって「地域」とはどの範囲になるのでしょうか。帯広市? 十勝? それとも北海道でしょうか。どれも正解だと思いますが、小学生の低学年の子どもたちとっては、自分たちが行くことができる範囲が「地域」ではないかと思っています。それはすなわち学校区内です。例えば帯広市内のほとんどの小学校では、子どもたちだけで学校区外に出ることは許されていませんので、学校区内とするとスッキリするのではないかと感じています。地域の人材活用といった時には、学校区内で探すということが重要だと思いました。

 私が子牛ふれあいファームのアイディアを考えている時に、低学年の担任の先生から衝撃的な話を聞きました。1年生の中に牛を見たことがない子がいると言うのです。北海道に住んでいて牛を見たことがないという話にびっくりしました。北海道は少し車で走れば牛がいるような環境です。最近は車に乗っている時にはゲームをしたり、テレビを見たりして、景色を楽しんだり親子で会話を楽しんだりすることが少なくなっている、そんなことが背景にあるかもしれません。
 農業が基幹産業である帯広市十勝に住む子どもたちに、牛についてもっと知ってもらうために、学校で意図的に取り組みをしなければならないと強く感じました。また、この取り組みを通じて、子ども同士や家族と、牛について語る時間を共有し、大人になってからも話ができる子どもになって欲しいという願いを込めました。
打ち上げ花火で終わらせないために
 学校で特別な授業や行事をした時に、イベント的に、ただ楽しかったというだけで終わってしまうことが良くあります。いわゆる「打ち上げ花火的」というものです。その時はきれいで楽しかったけれども後に残るものがない。もちろん記憶や思い出は残りますが、学びの継続性や系統性がないために、知識や経験として残るものが少なくなってしまう現実があります。
 また担任の先生の考え方や思いには差があるため、学年や学級としての取り組みではなく、学校全体で教育課程に位置付けることによって、学びの効果を高めるという必要性も感じています。
そこで学びの継続性と系統性を意識し、また今求められている教科を横断した学習にするために、本校はその年度だけで取り組むのではなく、6年間、毎年牛との関わりを積み重ねていこうと考えました。例えば1年生では子牛との触れ合いや子牛を題材に絵を描くこと。6年生では牛乳乳製品を使用した調理実習などです。
 子牛ふれあいファームの実現に向けては、色々なハードルがありました。
 最も重視したのは安全衛生対策です。事前指導の徹底を行い、アレルギー調査の実施や、液体せっけんによる手洗い、アルコールによる手指消毒を徹底しました。それから子どもたちが学校にいる間は、教員や地域の力を借りながら必ず大人を配置するようにしました。
 さらにコロナ禍においては、日常生活と同様、子牛と触れ合う時にもマスク着用を徹底しました。密を避けるために、例えば昼休みは1年生、放課後は2年生というように、触れ合いの時間も制限しました。本当は自由にいつでも触れ合って欲しいのですが、今年度はコロナ対策として制限を設けて行いました。
 また、関係各所に相談をしました。教育委員会に指導いただくと共に、帯広市保健所、十勝家畜保健衛生所、それから獣医師、当然廣瀬さんにも相談し、安全・安心に活動が行えるように準備をしました。
 作成したものの中には子どもたちへの指導資料もあります。この資料には、子牛が元気に過ごすため、そして子どもたちが子牛と楽しく過ごすための約束がなぜ必要なのかを示しています。
今後の課題
 学習指導要領では何の学びができるかということが重視されています。この子牛ふれあいファームを通して、地域の基幹産業である農業や酪農への理解を深めることができます。また農業や食について子どもたち自身が考えを深め、家族や友人、地域の人たちと牛について語る機会を得ることができます。さらに地域の人材を活用することにより、故郷に対する愛情や愛着を深めることができるようになります。そして外部講師と関わることによって、いのちを大切にする豊かな心を育む土台づくりができるようになります。
 放課後に子牛と触れ合いにくる親子の姿もあります。当初の狙いとしていた子牛を通して親子の会話を得ることも十分達成できたと思っています。
 体験前と体験後で子どもたちに変化がありました。多くの子どもが、始めは怖かったが、子牛と仲良くなったらすごく優しかったと話しています。子どもたちの中で子牛に対する愛着が深まったことが伺えます。
 今後の課題は、まずこの取り組みを確実に学校に定着させることです。3年目になって、やっと定着し安定してきたと感じます。学校は人の出入りがあります。例えば私がいなくなったら取り組みが縮小するとか、仕方がなくやっているということがないように、取り組みに込められた思いや願いを継承していくことも課題です。
 さらに感染症対策についても、引き続き慎重かつ丁寧に対応していかなければなりません。子どもたちはもちろん、子牛の安全も考えながら、徹底した感染症対策や衛生管理が求められます。その時々の状況に応じて関係機関と綿密に連携を取りながら、取り組みを継続していきたいと考えています。
質疑応答
Q.教育課程に位置づけるために学校全体に働きかけたことを教えてほしい
A.教師一人が張り切るだけでは、想いなどを他の先生と共有できません。そのため、プロジェクトチームを立ち上げました。できること、できないことについて、全教職員で真剣に議論し、確認をしました。続けられるということを大事にして教育課程に位置づけました。

Q.費用についてはどうやって負担をされたのか
A.この取り組み始めた年に、学校独自の取り組みに対して帯広市教育委員会が査定を行い、出資をしてくれるという帯広市の支援事業が始まりました。実は去年度でその事業が終了してしまい、今年度は取り組みができなくなってしまうかと思いましたが、総合的な学習の時間に位置付けができているので、学校配当予算の中で措置してもらいました。子牛の運搬費用は農協の方に協力していただき、安い価格でやってもらっています。皆さんに協力、理解をしていただき、少ない学校の予算でなんとか取り組みが実現できているというところです。
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