スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



平成28年度 酪農教育ファーム夏の研究集会 第二部【ワークショップ】
「みんなで創る出前(模擬)授業」
氷川町立竜北東小学校 吉永公紀氏
授業者(担任)役:新宿区立戸山小学校 福井みどり氏
酪農家(ゲストティーチャー)役:吉田牧場 吉田恭寛氏

福井先生:
先生と酪農家がどんなふうに授業を作るか、その時の酪農家さんの役割、先生の出番などをしっかり考えないと子どもの心に届いたり、子ども達が自ら考えたりするようにはなりません。
そこで今から、出前授業を実際にやります。皆さんは子ども役で、これから酪農家が語って下さる事を聞いてもらいます。今日は道徳の授業で「生命尊重という価値について考えよう!」というテーマで授業をします。考えて欲しい事は2つ。1つは、皆さんが子ども役で生徒として参加すること。今日の授業で、心がどんなふうに、どんな時に動いたかを、自分で考えると後で役立ちます。子どもと先生の両方の立場で参加してもらうと、ワークショップが実りのあるものになります。2つ目は、先生が酪農家の価値をどうやって引き出しているのかを見て、子ども達の学びが深まるように出来ているか、一緒に考えましょう。

●模擬授業を見る視点
1.吉田さんの語りで生命尊重を感じたところ。福井先生の取り上げ方も含めて。
2.吉田さんの語りのどこを掘り下げるか、福井先生がどのように掘り下げて行くと、子ども達は「感じる」のか。
3. 吉田さんの語りは生命尊重がテーマだが、違った価値が感じられたところ。
模擬授業(5年生)
「みんな、今日も給食美味しかった?」
福井先生:
毎日食べている美味しい給食だけど、今日のメニューはなんだったかな?昨日のメニューは?一昨日は?献立表を見ながら、思い返してみて。
毎日美味しい給食だけど。あれ?今日も昨日も一昨日も!毎日牛乳が出てるよ!
どうして毎日牛乳がでるの?お茶でもいいのに!どうして?
背が伸びるから?体にいいから?毎日飲んでいるけど、牛乳のこと本当はよく知らないね。知らないことは教えてもらおう!今日は牛乳の専門家「酪農家」が来てくれたよ!酪農家さんはみんなが毎日飲んでいる牛乳が手元に届く課程の最初に携わっている人なのです!
酪農家、吉田:
私は埼玉で酪農をしている吉田です。みんなは毎日飲んでいる牛がどうやって手元に届くか知っているかい?最初に、私たち酪農家が牛のお乳を搾っています。それを出荷して、工場へ行きパック詰めされて、皆さんの元に届きます。
では、牛がどうやって牛乳を出してくれるか知ってる?それを今日お話しします。本当は牧場に来て、牛を実際見て、においなど感じて欲しいけど、今日は牧場の映像を見てもらいます。
吉田牧場には乳牛が70頭います。その中で男の子(オス)は何頭いると思う?
30頭?15頭くらい?実は0頭です。メス牛はお産をしないと牛乳を出すことができません。では男の子が産まれたらどこへ行くんだろう?男の子の牛は約2年位でお肉になってしまいます。
酪農家の仕事は乳を搾るだけと思うかもしれませんが、搾るまでに沢山の仕事があります。子牛を育て大きくして乳を搾る。牧場では人間と牛はとても仲良しです。一緒に働くパートナーです。本来は子牛にあげる為の牛乳を、人間がいただいているのです。折角もらうなら良い牛の牛乳が良いよね?その為には、牛がいつも健康で気持ちよくて、沢山牛乳が出せる環境を作ってあげる。それが私たち酪農家の一番大事なことです。私たちが努力をすればするほど、牛も応えてくれます。牛が沢山出してくれた牛乳が、沢山の人の力を借りて、毎日給食に出る。それがとても誇りです。
映像をみて、話を聞いて疑問に思ったことがあれば聞かせてね。
福井先生:
みんなが毎日飲んでいる牛乳には秘密があったね!初めて聞くこともあったと思います。もっと聞いてみたいことはある?
Q:牛さんとは仲良しと言っていたけど、牛は酪農家と友だちになりたいと思っているの?
吉田:
牛の気持ちはわからないけれど、ブラッシングするととても気持ちよさそうな表情をするし、朝牛舎に行くと待っていて出迎えてくれます。牛にも性格があって、寄って来たり、懐いてきてくれます。私は牛と友達になりたいし、牛も多分そう思っているのではないかと思います。

Q:映像にいた牛はもうおばあさん牛?
吉田:
DVDで見た牛は7回目のお産でした。生まれて2年目でお産をするのでもう8、9歳になります。私たちは牛を大事にして、出来れば長く一緒に働きたいです。でも残念ながら歳をとると牛乳の出も悪くなります。そんな牛を、可愛いからと、ずっと飼っていると、みんなに届く牛乳が減っていってしまいます。だから、かわいそうだけど、卒業してもらい、新しい牛を迎えなければなりません。歳をとった牛は牧場を卒業してお肉になります。

Q:パートナーである牛を卒業させてしまうのは悲しくないですか?
吉田:
とても悲しいです。牧場で働いているともっと悲しいこともあって、ケガや、病気で亡くなってしまう牛もいます。でも牧場では新しい命の誕生もあります。それが酪農家の仕事だと思っています。悲しいからと言って、そこで止まるわけにもいきません。みんなに牛乳を届けなければなりません。私は仕事として考えています。

福井先生:
「牛の気持ちを考えてお世話をする」とても胸に刺さる言葉でした。また「酪農家が牛の命を決めている」。衝撃的な言葉でした。

模擬授業終了
ワークショップ〜先生は、どのように酪農家の価値を引き出している?〜
発表1
生命誕生の映像を見ましたが、お肉になる、死ぬというのとをセットで「生命尊重」は生きてくると思いました。そしてそれを支えている酪農家の言葉は大事だ、という、これはやはり教師にはできないことです。例えば、牛は酪農家のパートナーであるとか、牛の気持ちでエサをあげるとか、牛の立場を第一に考えるとか、牛を1頭ずつちゃんと見ている等、酪農家が語ってはじめて生きてくる言葉ではないかなと思います。
吉田:
死とかお肉になるという出来事を扱うのではなく、その出来事と酪農家の言葉をつないで子ども達に投げかけることによって「いのち」というものをしっかり見せていったら良いのではないかという事を提案したいと言うことですね。
メアリー(DVDで見た牛)はお肉になって死んでしまったけれど、メアリーの子どもはオスだけではなくてメスもいるので、命は繋がっている。自分たちも親と繋がっているということと、牛は人間のために生きているけれども、では自分はなんのために生きているのか?ということを子ども達に返してあげることも、ひとつの価値観だと思います。

発表2
酪農の学びは本当に深く広いので、どこに焦点を合わせるかを沢山話しました。これはとても意義のあるものです。その結果、母牛の出産は中学年にとって、生命誕生の面白いプログラムになるのではないかということ。高学年にとっては、酪農家の生の言葉で、酪農家、酪農産業の様子について、大切にしていること、工夫、努力、配慮などを授業の中に取り入れて、継続して飼って行くことを「生命尊重」にアプローチして行きたいと思いました。しかし1時間では難しいので「牛乳」そのものにスポットをあて、給食で出てくる「牛乳」は、当たり前のものではないということに気づかせる。或いは少し感覚を変えてキャリア教育、働くという部分に焦点をあてるのは?と、悩んで、まだ結論は出ていませんが、「生命尊重」について沢山考えました。
吉田:
この班の提案はおそらく道徳の時間をこんなふうに位置づけるとより深くなる、ということ。例えば先程の「わくわくモーモースクール」の後にこの時間を設けるか、社会科をやってからやるか、と道徳の時間をどこに繋いでいくかでとても悩んだのだと思います。でも子どもにとっては、この1時間で切るのではなく、学びの中にどう位置づけるかがとても大事で、頑張って研究したということだと思います。本日「もーもー」の提案がありましたが、そこで完結せずどう子どもの学びに繋げるのかを、道徳の出前授業と絡めていくと可能性がとても広がるのではないかと思います。

発表3
5年生の45分間の授業という事を考え、出産に絞りました。子ども達は出産そのものに命の誕生をストレートに感じるのではないか、という素朴な発言がありました。まず自分と比較をするということ。逆子で生まれることや、兄弟の出産を考えた子どももいるでしょうし、理科では人の誕生という単元があるし、そういったものとリンクさせて、牛の出産を自分の誕生と重ねる。そして出産をしないとお乳が出ない。子ども達の中から「出産は1回だけなの?」「子牛の口に小指を入れて息が出来るようにしているね」と酪農家の仕事の部分を見つけ、そこから次へ深めて良ければよいのではと思います。
特に出産のシーンでは、あんなに苦しそうなのに、声も上げず振り向いて酪農家を見ていました。そこに深い信頼関係が見えたので、酪農家の牛に対する想いとか、命を管理している責任、そういう方にも繋がって行くと思います。
吉田:
子どもの体験と酪農家の体験を直接重ねるところがとても良いです。自分にとっての身近な出産を思い出させて、自分のいのちを見つめ直す、酪農家の話を聞くことで、家族や親との繋がりを見つめ直すことが、結果的に自分の命を大事にすることに繋がるのではないでしょうか。

発表5
道徳で命、生命尊重を取り上げるとしたら、出産、牛乳。生きているものが出す命を頂いているということ、子牛の命の素を分けてもらっていること、それと関連して、酪農家が命の期限を決めて、引き離すことの意味。その時の牛の気持ちを考え、酪農家の気持ちの背景を考えることから、生命尊重を授業に入れられるのではと思います。
改善点は、出産を取り上げる点。自分も同じように生まれてきた、お母さんが大変な思いをして産んだということを担任が付け足すと良いと思いました。酪農家が語る仕事の部分を大事にして、その思いを語ってもらい、価値付けていくために、担任が子どもの心を揺さぶるような言葉を言う。最後は自分のいのちをどう大切にしていくかを子どもたちから吸い上げる為に、そういった場面を作る必要があると思いました。
牛は経済動物の部分があるから、酪農家が愛情をもって牛を育てていると語り、それは命の期限を酪農家が決めなければいけないからで、お肉になった後も自分たちの命として引き継がれていることを子どもに感じさせる。ここが担任の出番ではないかと思います。子どもの意見を吸い上げながら、整理していく形で価値付けすると、命の尊さを学んでいくことに繋がるのではないかと思います。

福井先生:
みんなの感想をなるほどと思って聞いていました。授業はこの道徳1時間で終わらせられないし、終わらせようと思ってやっていません。吉田さんは何度も私の学級に足を運んでくれ、学年によっては1年に2回も吉田牧場へ行っています。そういう贅沢な環境があったことに感謝しています。吉田さんを呼び、話を聞いても「ふーん」で終わってしまう経験もしました。だから、そこを体験につなげる、牧場へ連れて行くなど、何か広がりをもたせることが大事だなと思いました。そして高学年では、自分と向き合わせるということを大切にしなければと、大変勉強になりました。

講演資料
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