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平成25年度 酪農教育ファーム全国実践研究会議−基調講演01−
「フィンランド・メソッドを酪農教育にどう生かすか」
早稲田大学教職大学院 教授 田中博之
子どもの考える力、協力し合う力をつける
 私は、今まで中央酪農会議さんをはじめとして、多くの先生方に支えられ3年位、牧場体験を取り入れた酪農教育の実践を行ってまいりました。本日はその一端を紹介しつつ、「フィンランド・メソッド」というフィンランドの教育を取り入れた酪農教育の在り方をワークショップを通じて皆様に体験していただき、今後の実践の在り方を考えていこうと思います。
 フィンランドに私が初めて行ったのは7、8年前になります。OECDが行っている世界の国際学力調査で、フィンランドが1位になり、当時、「フィンランド・メソッド」がとても注目されていました。
 その時の学力調査は、子どもが、「考える力」、「グループで協力し合って教えあい、助け合いながら学ぶ力」、「表現をしていく、自分の考えを発表する力」などを問うようなテストで、日本人が得意としている知識を詰め込むような、きちんと暗記していれば答えられるようなものではありませんでした。
 これからはクリエイティブな力、グループで考え表現する力が必要なのに、日本は15位。それでは、1位の国に勉強しに行こうということで、日本の小学校の先生と一緒にフィンランド行きました。

 フィンランドでとても有名な先生がいるヘルシンキの学校へ行きました。教室はフィンランド家具で囲まれ、1クラスは25人位の少人数。学級文庫が千冊位あり、とにかく多読を奨励していました。なぜ、本をたくさん読むのですかと聞くと、「本を書くために本を読みます、子どもを表現者にする教育をしています」という返事が返ってきました。本をたくさん読めば本の書き方が学べる、言葉をたくさん覚えることも出来る、作家に近づけるというわけです。教室には読み聞かせ用のDVDやCD、本など溢れんばかりの教材がありました。
 日本でも最近、新聞教育が流行ってきましたが、ヘルシンキでは、新聞を読む力、自分で書く力を身に着けるため、社会に関心を持ってもらうために、小学校・中学校で毎年、新聞週間(ニュースペーパーウィーク)があります。たくさん新聞を読んだり、書いたり、新聞記者とトークしたり、新聞社に行きPCを使って新聞づくりの模擬体験をさせてもらったりしているそうです。とても言葉の教育が盛んです。
 こちらは廊下中におもちゃを広げて、教室の後には変装用のコスチューム、壁にはパペットが飾ってあります。買ったものではなく手作りのパペットです。あとは低学年になりますがぬいぐるみもたくさんあります。
 これを見たら、「フィンランドは学力最低だ、遊んでばかり!」と思いますよね。そこが発想の違いだそうです。これは物語をつくるという授業なのです。
 例えば、日本で物語をつくろう、小説を書こうというと、すぐ先生方は、筆記用具と原稿用紙を渡します。それで「はい、書きなさい」と言われても書けません。「主人公はどんなかな?これからどんな問題に当たるのかな?」など、物語のイメージがないのに書けと言われても書けません。
 フィンランドでは紙と、鉛筆の授業ではなく、即興劇(ドラマ)にします。主人公や登場人物になり、即興的な遊びの中から物語が生まれていくのです。その時の気持ちや着ている服などから物語の背景、場面を原稿用紙に書いきます。まず、体験(即興劇)があり、心が揺さぶられて、それから文字に入っていきます。
 酪農教育でも同じことで、先に体験。牧場へ行って乳搾りをして、酪農家さんにたくさんお話も聞き、出前授業もして、そういう直接体験をたっぷりした子どもたちが、文章を書くと止まらない勢いで書いていきます。日本は、体験やイメージが少ないのに文章を書こうとするから、子どもたちが作文嫌いになってしまうのだと思います。酪農教育は、作文嫌いを治すのにも大きな効果を発揮すると確信しております。
 また、協力するということも多いです。日本の教育はどうでしょうか。学力向上というばかりで、少人数で皆、下向いてドリルをやっているだけです。点数ばかりを気にするような子どもたち、自分さえ勉強が出来れば友達は関係ない。そういう雰囲気になりつつあると聞きました。協力、教えあい、学びあいなどはグループでの協力がないと、出来ません。本当の意味での、書いたり、話し合ったり、考える力は決して1人では育ちません。ドリルで点数を上げるだけなら1人で頑張れば良いと思いますが、話したり書いたり考えたりは、皆でやらないと力が付きません。
 フィンランドでは、算数の時間も、ドリルばかりをやるのではなく、半分は文章問題です。自分で文章問題を作るような授業です。自分で作ってきた文章問題を皆にプレゼンテーションして、答えを皆で探すような授業をしています。式はその後です。日本は、最初は式の練習ばかりやりますが、そればかりだと文章問題が解けなくなってしまいます。フィンランドは逆転の発想で文章問題が苦手なら、まず絵を描いて、文章を書いて作って、後で計算式を当てはめていけば良いのではないかという考え方です。
 算数が成り立つ世界とかイメージを、絵を描きながら遊び感覚で作っていきます。その中にどのような計算式があるかは後で考えます。
 年齢が上がっていくと、自分で物語をつくって、読み聞かせなど低学年の子に高学年の子が読み聞かせをしたりしています。相手を意識して、個性的に自分を表現する。
 中学生位になると、やはり少し理屈っぽくなりますが、自分で調べて、自分でまとめて、自分で発表するという時間を十分にとります。
 例えば、日本で社会科というと分厚い教科書を暗記して、穴埋め問題を埋めて、板書を丸暗記したらテストで70点は取れるというような、思考力も表現力も何もない暗記だけの授業が7割8割だそうですが、フィンランドの子どもたちは自分で調べ、考え、グループで発表します。
 まず、考える力をつけて欲しいということ。グループの中でも協力するし、グループとグループを比べても、また新しい発見があります。そのように授業が工夫されていて子どもが考えるようになっているのです。学習課題が「なぜ」というのがキーワードです。「なぜ」という問いに答えることで、物事を深く追及して探求して、自分で考えることを徹底的に行うのがフィンランド教育です。
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