スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



平成27年度 酪農教育ファーム夏の研究集会−報告3−
出前授業の教育的効果
出前授業(わくわくモーモースクール)
実践報告 
荒川区立第七峡田小学校 
副校長 古庄 輝男氏


自ら問題を見出して解決する
 わくわくモーモースクールのようなイベントに参加することが多いのですが、25年度から1学年ではなく、全学年を対象としたイベントのカリュキュラムとして実施していこうという流れがあります。
 そこで去年の研究集会での意見を見直し、低中学年を対象に実施しました。狙いは酪農体験を通して牛乳、乳牛、酪農家の仕事に関心を持ち、自ら問題を見出して解決する活動を通じて、いのちの大切さに気付き、食べ物に対する感謝の心を育む事です。総合的な学習の時間で、事前学習2時間、体験4時間、事後3時間の計9時間の予定で始まりました。
 事前学習では、牛乳が毎日給食に出る事から、給食の写真を見せる事を基に結び付けを行いました。子ども達は、給食にはいろいろな食材が使われている事や牛乳が毎日出ているという事に気付いていきます。そこで、本校の栄養士による指導や、乳業メーカーの方にも協力を経て、どのように牛乳は運ばれてくるのかを話していただきました。

 わくわくモーモースクール当日は、4つのブースを作りました。
 1つは子牛との触れ合いと哺乳のブースです。ここでは子牛と触れ合う事でいのちの温もりを感じてもらいます。私達が飲んでいる牛乳は、本来、子牛が飲むべきものですが、それを人間がいただいている事に気付いてもらう事が狙いです。
 各ブースでどのような活動を行うのか、酪農家はどのような働きかけを行うのかなども事前に位置づけをして、体験に移っています。子ども達は、実際に子牛に触れ合う事で乳牛の一生を知ることができました。酪農家の働きかけとして、牛の胃は4つある事、酪農家は母牛の代わりに子牛を育てる事などを子ども達に語っていただきました。
 2つ目は酪農家の仕事ブースです。酪農家がどんな思いや願いをもち、乳牛を育てているのかを学びます。酪農家の仕事、えさ、農具などについて教えてもらいながらミルカーの体験を行いました。酪農家の働きかけとしては、糞尿も大事な肥料という事を教えて貰いました。実際にえさを用意してもらい、匂いを嗅ぎ、どのように牛が育つかを聞きました。最初は臭いと感じる子ども達も慣れるにしたがい、えさに触っていました。
 3つ目の搾乳体験ブースでは、実際に搾る事で、牛の温かさに気づき、いのちの温もりを感じ、親牛の体や様子などの特徴に気付くという狙いでした。学習内容としては、搾り方、乳房の感触、牛乳のできかたなどを学び、牛の乳は温かい事や、優しい乳の搾り方などを指導していただきました。
 4つ目は牛の出産ブースです。ここではビデオ上映を行いました。母牛がいのちがけで出産する事で、人が牛乳を飲む事ができる事を、映像を通じて学習しました。また全体で、牛1頭からどれくらいの牛乳を搾る事ができるのかを学びました。
 最後は全員で課題や疑問をもう1度考え、ブースを回り解決をしていきました。本来事後の学習は、自分で調べるのですが、今回は中学年という事もあり、ある程度の問題意識を持ち、課題を見出しながら調べて、その中で解決するという内容でした。事後学習を追加で4時間設け、実際には13時間の学習時間になりました。事後学習は、図書館で調べ活動をしています。


講演資料


平成26年度中学年の実践を通して
大妻女子大学児童学科准教授 石井 雅幸氏


 私の報告はわくわくモーモースクールのカリキュラムの効果検証です。出前授業には牛を連れて行く授業と酪農家のみが学校へ行く授業があります。
 今回は「わくわくモーモースクール」と呼ばれる、酪農家と牛が学校に行く授業の報告です。本来は牧場に行く事を目的としていますが、現状は出前授業をせざるをえない状況が生まれています。その状況でどこまで補う事が出来るかに挑戦しています。
 昨年の中学年カリキュラムに関しての教育的効果は、関心や知識・技能の観点からは効果が見られましたが感謝に関しては、ほぼ横ばいでした。
 カリキュラムとしては、問題意識が芽生え、体験活動や図書資料の活用から狙いを達成する事が出来たと考えられます。
 効果測定の方法は、教育的効果の測定とカリキュラム効果の測定の2面から行いました。去年の測定法に従い、「酪農教育ファームの目的に即して、関心、態度(感謝)。知識・技能」の観点から質問紙を使った測定法を用いました。教育的効果なので、直前、直後と3カ月後に同じ調査を行い、変化を見ました。
体験後の事後学習の重要性  
 カリキュラム効果の測定は、子ども達の記述内容の分析で行います。
出来る範囲ですが、学校職員の方とメーカーの方が事前授業を行っていたので、その中で、何が起こったのかを記録、それを受けて当日酪農家と牛が来た時にどんな事を期待したのかを記録、また終わったあとの感想を記録しています。
 体験後に子ども達は調べ学習をしているので、その内容を抜粋し、どのようなキーワードが出てくるか分析しました。それを基に目標にどこまで近づけるか、酪農家さんの語った事が、どこまで子ども達の記述内容に出てくるかの分析を行っています。
 28の質問項目に対して「1そう思わない、2あまりそう思わない、3どちらともいえない、4まあそう思う、5そう思う」という5件法の得点で行っています。その得点差がどれだけ出るかをみています。肯定的な質問に対し、肯定的な回答がどれだけ増えたかを期待しています。
 2つの検定法から調査事前と事後に差があったものに関しては効果があったと考えています。「感謝・関心・知識(技能)」でどのような差が出たかというと「感謝」については、はっきり統計的な差が出ず、事前の段階から高い数値が出ました。
「関心」に関しては3カ月後も下がらずに伸びていきます。これは凄い事です。去年の調査では3カ月後に下がりましたが、今回は途中で調べ学習を挟んだ事が効果的だったと考えられます。この結果から体験だけでは効果はなく、そこに何かしらの事後の活動を行う事が大事だと言えます。
 次に「知識(技能)」についても事前より、直後、3カ月後に効果が得られています。この事から「関心」と同じような事が考えられます。
 そこで3つの観点から見た、中学年カリキュラムの教育的効果は「関心」と「技能」に関しては、出前授業での体験活動後は効果が見られ、感謝に関しては、事前から既に意識が高く、出前授業後もその意識の高さが維持されるという事です。
 質的な検討のカリキュラム効果ですが子ども達の自由記述の記載内容でどんなキーワードが出たかを分析しています。
 分析方法は、まず給食写真を提示し「牛乳が毎回給食に出る事への問題意識を持つことができたか」を基に授業を行っています。牛乳が小学生段階で必要であることを理解させ、その授業の中で何を感じたか自由記述をしてもらいます。次に乳業メーカーの方からのお話の中で何が理解できたかを記述してもらいました。
 体験活動を通して何を知りたいか、何をやりたいかを聞き、出前授業直後に何がわかったか、事前に知りたかった事がどこまでわかったかを自由記述してもらいます。それを行う事によりどこまで理解できたか、知識がどれだけ得られたかをみています。また、出前授業後に思ったことを書いてもらい、その中に感謝や関心に関わるキーワードが出ている事も見られます。
 最後に出前授業のあとに、興味を持ったことや、関心を持った事、もっと調べてみたい事を書いてもらい、その側面から「関心」を読み取りました。1カ月半後に図書資料を使って、牛や牛乳についての調べ学習を実施し、調べた結果どんなことがわかったか、どんな内容に興味を持ったかなどを整理しました。その結果、給食に毎日出る牛乳に目を向けるという点については狙い通りの結果が得られました。他の食材は毎日違うにも関わらず、牛乳は毎日出ている、牛乳はそれだけ大事な食べ物だという認識を持つことが出来たと思います。分かった事の中に、「牛乳に含まれる栄養」「イライラの解消」「成長期だから重要」等の記述が挙がっています。
 乳業メーカーさんには、牛乳はどこから運ばれてくるのか、何度も検査を行い、検査に合格しないと出荷されない事、乳業メーカーの歴史の話をしてもらいました。牛乳に携わる多くの人が朝早くから働いている事も話しました。全ての内容を記録している子どもはいませんでしたが、キーワードをいくつか拾い出す事が出来ました。
 酪農家さんと牛が来る際に、何が知りたいか聞くと、上位には牛そのものの事、その他は寿命、体重、赤ちゃん、牛の1日などがほとんどの意見でした。体験活動後は最初に知りたかった事のほとんどを知る事ができたという結果が出ています。ある程度問題意識を持って臨んだので、知りたかった事を得られたと考えられます。
牛への興味、牛乳への興味、酪農への興味が高まるという結果に
 体験活動後は、「搾乳した牛乳は温かく気持ち良い」「生まれてすぐ小牛が立ち上がる」「かわいい」「食への感謝」や「いただきます」を言う事の大切さ、「残さず食べる」という事に関して、非常に多くの子どもたちが記述しています。
 また、体験後に酪農という仕事に興味を持ってくれた子ども達が少数ながらおり、酪農家になりたいと書いていました。1カ月半後に行った図書資料による調べ学習では何を調べたかというと、牛のこと、牛乳のこと、牛に関わる人間のこと、小牛のことを多くの子ども達が調べていました。
 これらを踏まえた結論は、関心や知識・技能の観点からは教育的効果が見られました。カリキュラムとして狙っていた問題意識が芽生え、体験活動や図書資料の活用が狙いを達成する事ができた要因の1つと考えられます。
 残された課題は、今後酪農家からの指導の中で中学生の子どもに伝わったものと、伝わりにくかったものを明らかにする必要があるという事です。
 カリキュラムに追加するワークシートはどのようなものが良いかを検討したほうが良いです。何故かというと、事後の学習の、図書資料は確かに良かったのですが、結果的に図書資料にあるものだけしか知らべることが出来ず、結果も図書資料に影響を受けています。そう考えると、求めるデータに見合った数の資料を提供してあげる必要があるということです。
 食といのちに関しては、生き方に大きく影響が出ています。特に出前授業に関して、酪農家が来る事はインパクトがあり、子ども達の生き方に影響力があると思います。牛を連れてくる「わくわくモーモースクール」と、酪農家さんだけが行く出前授業の両方を行わないとその側面が測れないと感じますが、酪農教育ファームは食と教育を目的に動いているのでそこを検討していく必要があるのかなと思います。


講演資料


(C) Japan Dairy Council All rights reserved.