東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故が発生して以来、被災地の牧場では、それまでに培ってきた知識や経験を活かして、この困難な状況を克服しようとしています。
牛たちにストレスを与えないように環境を整え、牛の健康に気づかい、より良質な牛乳を求めてエサや水にも配慮し、搾った牛乳の温度管理や衛生管理を徹底して消費者の皆様にお届けしようとする酪農家のスピリットがあったからこそ成し得たことです。
それは放射性物質汚染に立ち向かうことにおいても変わらず堅持され、今現在も牛乳を安心して飲んでいただこうと努力し続けるのは酪農家の本分なのです。

安心のポイント1.牛の口は、人の口。エサの安全を保つために。

輸入飼料輸入飼料東日本大震災の発生後も安心して牛乳を飲み続けていただくために、酪農家は「牛の口は、人の口」と考え、牛の口に入る物からの安全・安心確保に努めています。

第一に、毎日牛に与えるエサからの放射性物質の移行を防ぐことが、被災地域の酪農家にとって最も大切な取り組みとなっています。
現在、原発事故後に生産される粗飼料については、安全性を確保するため暫定許容値以内のものを使用することとされています。平成26年に収穫する永年生牧草については、岩手県、宮城県、福島県、栃木県及び群馬県の5県を、青刈り用トウモロコシ等の単年生飼料作物については、福島県の1県を調査対象県とし、流通・利用を自粛することとなっています。この自粛は、当該県の調査地域内の全ての調査結果が暫定許容値以下となった場合に解除されます。

そして、飼料作物の利用を自粛している地域の酪農家は、自粛した飼料の代替となる輸入粗飼料を購入して乳牛に給与しており、経営的に大きな負担をしながら生乳の安全性の確保に努力しています。
生乳に放射性物質が移行する可能性のある経路としては、①大気中から呼吸器を経由して牛の体内に入り血液から乳腺を介して生乳に移行する場合、②牛が摂取する水又はエサから消化器を経由して牛の体内に入り、血液から乳腺を介して生乳に移行する場合が考えられます。

エサについては上記のような対策を講じており、大気中または水からの経路による放射性物質の移行については各自治体などによる調査が実施されており、それぞれホームページで計測値が詳細に公表され安全確認をしていますので、原発事故から時間が経過した現在、大気中からの経路と水からの経路による原発事故に起因した放射性物質の移行はありません。

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自家製の牧草を早く食べさせたい…成田牧場の挑戦

成田牧場の成田さん2011年の東日本大震災は、成田牧場にも大きな影を落としました。
放射能汚染の影響で、周辺地域の牧草は使えない状況にありました。搾乳中の牛は、1日に約30キロものえさを食べます。
そのえさで栄養を蓄え、血液約400リットルから約1リットルの牛乳を生みだします。
誰しも、自らが牧草を栽培し、長年培った調合のえさを与えたいはず。
ところが、そんな当たり前のことが叶わず、2012年6月から町役場が中心となり、除染を行うことになりました。
2013年6月には一番草が成長し、県の検査で給与可能な判定が出れば、晴れて自家製の牧草をえさにすることが可能になります。6月まで、気の抜けない日々が続きます。
成田牧場の成田さんもちろん、こうした状況にあっても成田牧場は揺らぎません。
何よりそこには家族の強い絆があるからです。
「母と妻にはとても感謝しています。僕や父がいないときにも牧場を守ってくれて、そのお陰で頑張ることができています。
だから震災後、搾った牛乳を捨てる毎日が続いても、牧場をやめようと思ったことは一度もありませんでした」と昌弘さん。

『自分自身はまだまだ盤石とは言えませんが、共進会(牛のコンテスト)をはじめ、一所懸命打ち込めば必ずいい方向に行くこと、そして、型にはまらずやわらかく考えるということを父から学びました。息子には、好きな道に進んでくれればいいと思っています。僕の後ろ姿を見て、自然とその道を選ぶのもいい。そのためにも、魅力ある牛飼いでありたいと常に願っています』

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安心のポイント2.常日頃から衛生面には気をつかい、安心と安全のための努力を続けています。

まず、乳牛が健康であること。

清潔に保たれた牛舎清潔に保たれた牛舎安全な生乳を生産するためには、乳牛が健康で清潔でなくてはなりません。
そのためには、牛舎内の環境を清潔にし乾燥させることが大切。換気の悪い牛舎では換気装置を設けたり、乳牛のベットに敷かれたワラの交換や糞尿などの排出をこまめに行うことなどを心がけて、乳房などが汚れないように心掛けています。

また、健康、衛生管理については定期的に獣医師が指導するとともに、病気療養中の乳牛がいる場合は細かい指示を与え搾乳開始時期などにも配慮しています。

乳牛の生活環境を衛生的に保つ。

牛舎の入り口に設置された消毒槽牛舎の入り口に設置された消毒槽酪農家は牛舎内の消毒や清掃を日常的に行っています。
特に夏場は病害虫の発生を防ぐために、定期的に消毒を行ったり、牛舎の床や壁面に殺菌効果のある石灰を塗布するなど、牛舎の衛生管理に様々な工夫を凝らしてます。

さらに、牛舎の入り口に消毒槽を設置し、専用の作業着や長靴を着用し、外部の人の牛舎内への立ち入りを制限したり、野鳥などの野生動物が入りこまないように防鳥ネット張ったり、酪農家は細心の注意を払いながら牛舎内を清潔に保ち、病原体などが入り込まないよう様々な対策を講じています。

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搾乳では徹底した衛生管理を。

搾乳作業では、搾乳する場所の清掃・消毒、ミルカー(搾乳機)の点検・殺菌消毒からはじまり、最も気をつけていることは乳頭の消毒と洗浄です。
乳頭に細菌を付着させたまま搾乳すれば細菌を生乳に混入させてしまう危険がありますし、乳牛にとっても乳房炎(乳牛にとって、いちばん身近な病気のひとつ)の予防になるからです。

牛にストレスを与えないように乳頭を洗浄し、乾燥したタオルで丁寧に拭き、乳房炎の早期発見や乳の通りを良くするための前搾りを行ってから搾乳をはじめます。
そして、搾乳後も乳房炎を防ぐために乳頭を消毒しています。
搾乳機器の管理は徹底した点検と洗浄殺菌消毒、清潔で乾燥した状態での保管が基本になります。搾乳機器を生乳が残ったまま放置すると細菌汚染の原因になりますので、使用直後には温水などで洗浄し、定期的にアルカリ性洗剤や酸性洗剤で洗い、使用する直前には殺菌作業も行っています。
清潔に保たれた搾乳室清潔に保たれた搾乳室乳房の搾乳前洗浄乳房の搾乳前洗浄ミルカー熱湯洗浄ミルカー熱湯洗浄

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生乳を衛生的に届けるために。

搾乳後、バルククーラーで低温貯蔵された生乳は、当日または翌日に専用のタンクローリーで集乳されます。
集乳に際しては、生乳の色調、風味、異臭・異物の有無の点検、アルコール検査・乳温チェック・比重検査などが行われ、検査に合格した生乳のみが集荷されています。

集乳されるとき、一般的には数戸の酪農家の生乳が合乳されます。
一戸の酪農家の生乳の異常が、タンクローリー1台分の大きな被害につながるので、集乳時の検査は厳格に行われます。
さらに、乳質の検査施設では酪農家ごとに採取されたサンプルについて、乳成分や衛生的な品質などの検査が行われています。

集乳された生乳は、タンクローリーでクーラーステーション(大型冷蔵貯蔵乳タンクのこと)や乳業工場に運び込まれ、牛乳は搾乳から充填まですべての工程で冷却され、安心して飲用いただけるよう衛生的に作られています。
CS到着後すぐにローリーを撹拌してサンプル採取CS到着後すぐにローリーを撹拌してサンプル採取タンクローリーで集乳タンクローリーで集乳顕微鏡で細菌数検査顕微鏡で細菌数検査

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安心のポイント3.人の口に入るまでに、何度も安全を確認しています。

乳成分および体細胞数の検査乳成分および体細胞数の検査安心して牛乳を飲んでいただくため、酪農家と乳業者をはじめ牛乳を取り巻く様々な関係者が連携して、何重ものチェック体制を整えています。健康な乳牛も家畜保健所で定期検査を行い、さらに新規導入牛に関しては病気などの検査証明を記した健康手帳を確認し、検査日付が2年以上前であれば酪農家が家畜保健所に検査を依頼します。

そして、乳牛に給与するエサには、酪農家が自ら栽培する牧草・飼料用トウモロコシなどの「自給飼料」と配合飼料などの「購入飼料」があり、「自給飼料」の安全性の確保は酪農家が自らの責任で行っていますが、「購入飼料」については安全・安心を確保するための法律が整備され、独立行政法人肥飼料検査所が、輸入を含む飼料の原料調達から飼料が家畜に給与されるまで、安全性を確保するための指導と監督を行っています。

抗生物質の有無を検査抗生物質の有無を検査生乳を集乳する際には、技術講習を受けた専任集乳者により様々な検査が実施され、合格した生乳だけが低温に保たれた状態でタンクローリーで運ばれ乳業者に渡されます。
乳業者の受入れ時にも、改めて風味や細菌数、アルコールテスト、抗生物質などの検査を行い、出荷までの工程ごとに細菌数や乳成分などを何度もチェックして皆様のお手元に届けられています。

牛乳の放射性物質汚染については、その対象地域において、原料となる原乳(生乳)段階でモニタリング検査を実施することにより安全性が確保されています。
通常はクーラーステーション(大型冷蔵貯蔵乳タンクのこと)でサンプルを採取し、登録検査機関(政府の代行機関として認可を受けた製品検査を行うことができる検査機関)等が検査しています。

原乳の放射性物質に関するモニタリング検査の結果は、各自治体(都県)が実施しますので、その結果は各自治体(都県)のホームページに掲載されています。

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放射性物質の基準値(日本と諸外国の比較)

放射性物質の基準値「乳児用食品」及び「牛乳」については、子どもへの配慮の観点で設ける食品区分であるため、万が一、流通する食品の全てが汚染されていたとしても影響のない値を基準値とし、成人、幼児、乳児のそれぞれについて摂取量や感受性にも配慮したうえで、一般食品の100Bq/kgの半分である50Bq/kgを基準値としています。この値は、食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の現在の指標や諸外国の規制値と比較しても極めて厳しい値となっています。
そして、この基準値により、放射性カリウムなどの自然放射性物質の摂取による年間実効線量(日本平均)が0.4mSv程度であるのに対して、日本人の平均的な食生活を続けた場合、食品からの追加の被ばく線量は0.1mSv程度と、相当程度小さいものに留まると推計されています。

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【参考】検査フローチャート

牧場から皆さんの食卓まで、何重ものチェック体制で安心をお届けしています。

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