平成23年度酪農教育ファームスキルアップ研修会(博多会場)ー講演ー
平成23年度酪農教育ファームスキルアップ研修会 (盛岡会場)を開催いたしました。

引き込み、引き出し、学びを創る 〜「食」と「命」の学びの場〜 
 みなさんが子供たちに酪農のこと、牛のことについて教えたいと思い伝えていることでも、体験している側がそういう意識で見たり聞いたりしていないと、伝わっていない、何も残らないということがあります。
 100人の子供たちが来ても100人全員が同じように興味・関心を持つとは限りません。どういうことに興味・関心を持ってほしいのか、ということを教える側も持たなくてはなりません。
そのためには、学校側と事前の打合せをしっかりすることがとても重要になります。学校側が狙っていることと、何を体験させたいか、体験の順番・時間など皆さんの思いと学校の思いが一致していないと、ズレが生じてくると思うので、そのズレを防ぐための打合せは大事です。
 また、体験後の指導も大事だと思います。体験してみてどうだったかの感想、また手紙をもらうなどあるかと思いますが、大事なのは子供たちだけに対応するのではなく、子供たちの周りの人にも正しい知識を持ってもらうということが大事だと思います。
子供たちに何を伝えたいのか
 知識というのはあると理解できることがあります。学年によっても違ってきますが、全く何もなく体験した時と、知識があって体験したのでは見えてくるものが違ってきます。だからといって前もって知識を与えすぎてしまうのもダメです。小学校で体験するのであれば、低学年の場合は生活科という教科があり、地域の職業ということでみなさんの牧場に体験に行くことがあると思います。3年生以上になると、総合的な学習というものがあり、自分と命の関係などで学習に来ることもあると思います。それ以外に農業の一環として、5年生の社会科で見学に行くこともあるでしょう。それぞれ理由があって牧場にお邪魔しているのであって、どんな目的で子供たちが来ているのかをみなさんも理解していただきたいと思います。
 小学生なりに牧場への先入観のようなものがあると思います。まず牧場に来て「におい」に反応する子も中にはいると思います。しかし、バター作りなどの体験をして帰る頃には、においのことを言う子は誰もいなくなっているのです。先入観が払拭されたわけですね。
 また、子供の背景にある親・家族です。子供を通して「今日こんな体験したよ」ということを話してもらい、正しい知識を親にも持ってもらい、風評被害などのまちがった情報を払拭してもらうことも大事だと思います。
 教師でもそうですが、教えたいことを最初に言ってしまうことがあります。子供は聞いてはいますが考えなくて良くなってしまいますね。なので、教えたいことを子供たちが知りたいことに変えていく手法が必要だと思います。
 また、学校での牛乳の勉強も必要ですが、それだけではなくて、実際牧場に行って、酪農家さんに会って話を聞いて、酪農体験をしてという心の勉強とのバランスが大事だと思います。
 さらに、学年に合わせた内容の説明が大事だと思います。私は1/3の法則というものを持っていますが、それは子供たちに何かをやろうと伝えて、すぐに出来る子、ちょっと戸惑ってるけどアドバイスすれば動ける子、それでも出来ない子、というのがごく普通の集団です。だから、一勢に「ではやってみましょう」と言ってみんなが出来ると思うのではなく、それぞれの子供たちにあった説明・補足も考えておくことが大事です。
 先ほども言いましたが、簡単に教えないということは教えなくて良いということではなくて、教え方というか、子供が気づくことを大事にするということです。例えば胃の模型がありますが、そのまま見せるのではなく、「みんなの胃はどこかな?どれくらいの大きさかな?」と最初に聞いてその後「では牛の胃はどれくらいだろうね?」と言ってから模型を見せると捉え方が全然違ってきます。見せ方の工夫は大事だと思います。
 みなさんが子供たちに伝えたいことがたくさんあるのは分かりますが、一度に全て伝えるのはとても難しいことです。1回でとは思わず、言いたいことを絞って、また牧場に来たいと思うような、今度はお母さんお父さんと来たいと思うような終わり方をするのも良いと思います。繰り返し関われる関係、子供たちが大人になって子供をもった時に、その子供たちを牧場に連れていきたいなと思ってくれたら良いと思います。教育というものは今日何かをしたから明日目覚しく変わる、成果が出るというものではなく、見えにくいものなので、今よりもっと先をみた体験が積み重なって、将来にわたって酪農教育というものが伝わっていったら良いと思います。
活動・体験の工夫
 見学に来てくれる小中学生だけではなく、大人を育てていくという方向もこれから必要ではと思います。出来るだけ色々な方に来ていただく。例えば、学校の教員に研修として来てもらうことです。
 その学校だけではなく、その先生や学校を通じて先生の集まりで来ていただいて牧場という教育の場を広げていくということも大事だと思います。
 体験している中で、例えばクイズを出して1番だと思う人と聞いて、手を上げさせる。これだけでも学習効率は違ってきます。ただ説明するのではなく、1番2番3番から答えを選び、手をあげるという2つの動作が入るだけで、それが正解でも不正解でも理解度は全然違います。
 時間の経緯を使うのも良いです。現在の牧場は今見ること・体験することは出来ますが、過去の牧場から変わってきたところや、酪農家さんが理想とする将来こうしたいという目標なども交えてもらうのも良いと思います。例えば子供たちに、こんな牧場があったらいいなというイメージを絵にして送ってもらうなどすると子供たちの発想力も広がると思います。このような関わり方もあると思います。また、前に体験に来た子供たちの感想文などを紹介して、比較してもらうのも良いと思います。
 色々なパターンがあると思いますので、決められたことをするのではなく、子供たちの様子や牧場の立地条件や環境の違いなど生かして体験をしていくというのが大事だと思います。

 自分が思っている体験の進め方や話し方があるかもしれません。しかし、子供たちは全く違った視点をもって聞いているので、思った通りに進めることは難しいことです。子供の反応が自分の予想と違った時に、なぜそう思うのか理由を聞いてあげると子供たちは楽しくなります。大事なのはアレンジできるかどうかです。子供たちとのやりとりの中で、みなさんが伝えたいと思うことがちゃんと伝わるのだと思います。

津川 裕・福岡教育大学 生活総合教育講座教授・附属小倉中学校校長

大阪市の小学校・大阪教育大学附属天王寺小学校教諭、大阪市の小学校の教頭、福岡教育大学助教授を経て現職。現在の研究課題は、生活科・総合的な学習の時間の授業作りのあり方についての実証的研究。酪農教育ファームとの出会いは、平成21年に熊本県オオヤブデーリーファームにおける清水小学校の2年生の酪農体験を参観したことがきっかけとなり、平成22年度よりスキルアップ研修会の講師をお引き受けいただく。
著書に 「平成20年度改訂小学校教育課程講座生活」(共著、ぎょうせい、2008年)「すぐに役立つ学校評価大宰府市の小中学校の取組み」(共著、ぎょうせい、2008年)「生活科の授業方法」(共著、ぎょうせい、2003年)
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