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平成28年度 スキルアップ研修会(東京会場)
−ワークショップ−
平成28年度 酪農教育ファームスキルアップ研修会(東京会場)が行われました。
株式会社 加茂牧場 代表取締役 加茂 太郎

 東京会場のワークショップは、千葉県加茂牧場の加茂さんを講師に迎え講義して頂きました。
 加茂さんは出前授業を積極的に行っており、その模様を収めたDVDを昨年のスキルアップ研修会で参加者に見てもらったところ、参考になったと大変好評でした。加茂さんに子ども達の興味をいかに拾うか、そして伝え方、ツールの使い方など、牛がいない授業でもここまで出来る、そのテクニックを解説して頂き、自分だったらどう伝えるか、グループでディスカッションしました。

以下内容抜粋。
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松原:
本日のワークショップの目的は、「体験プログラムを再確認し、子ども達の興味をどのように拾うか、体験の質を上げて自分達の伝えたい事をいかに伝えるか」です。
 酪農家の加茂さんが都内の小学校で出前授業をした模様をDVDで見て頂きますが、実際に牛がいない出前授業で、加茂さんは様々なツールを使用しながら授業しています。何故これを使うか、子ども達はどんな反応を示すか、そして授業のプログラムの意図を解説頂いて、何を伝えたいのかの目的を、皆さんと理解したいと思います。
 加茂さんは、元々小学校の先生をされており、その後奥様の実家の酪農業を継ぎました。先生から酪農家になった経歴を持つ方はなかなか珍しいので、酪農家でありながら、先生の立場も踏まえてお話頂きますので、是非参考にしてください。
◆自分で学校に行ってしまった方が早い!と考えたことが始まり
加茂:
教員の経験を踏まえて、授業プログラムのポイントや学校とはどんなところで、どんな事情を抱えているのか多少知っている事をお話したいと思います。
私も酪農教育ファームの価値をよく理解しているつもりだし、牛とふれあい体験していく中で子ども達が変わって行く様子を沢山見てきました。でもなかなか学校は牧場に来てくれない、という酪農家さんの声を聞く事も多々あります。学校サイドにいた私からすれば、そりゃそうだと思うのです。学校の授業はすべてが教科で、特定の先生が自分の思いだけで、勝手に授業を変えるわけにはいきません。学年で1人の先生が、牧場に連れて行きたいと思ってもそう簡単にいかないのが、学校というところです。
私は、そういった学校の実態を知っていたので、自分が学校に行ってしまった方が早いと考えました。酪農の授業は色々な教科に触れることが出来るので、内容には何の問題もありません。子ども達が学校から出なくて済む為、学校側は費用負担も無く、ハードルはだいぶ低くなります。逆に牛がいないので、行く酪農家側のハードルは高くなります。
 しかし、行く事のメリットもあります。私は大体2クラス、1時間に50人〜200人ほどの子ども達に話をするので、1年に10校行けば、1000人以上の子ども達と触れ合う事が出来ます。現在八千代市には19校の学校があり、その半分にはすでに伺っています。将来的には、私の仲間たちも含めて、市内の小学生が毎年1回は牛の話を聞けるといいなと思って活動しています。
出前授業を聞いて、子ども達の牧場に行きたいという気持ちが高まる事もあります。私は受け入れする時は、市の畜産協会や行政を巻き込んで一般公募を行います。この中に出前授業を受けて牧場に行きたくなったと応募してくれる学校もあり、実は一生懸命話を聞いてくれるのは先生で、先生がリピーターになってくれます。先生が異動すると、別の学校からも依頼が来るので、勝手に輪が広がっているなと実感しています。

−DVD鑑賞−
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加茂さんの授業解説
加茂:
 酪農という産業が他と一番違うのは、命を預かっているという部分です。教育ファームのテーマにも「食、いのち、しごと」が謳われており、授業の過程で仕事も食も出て、最終的に「いのち」を目標にして仕組みを作っています。
◆子どもの記憶に残すには楽しいだけではダメ 「驚き」と「納得」を交えて
加茂:
子ども達の記憶に残す2つのキーワード。1つは「驚き(サプライズ)」。牧場に来れば牛自体が驚きですが、教室には牛を連れて行けませんので、なかなかサプライズは起こせません。もう1つは「納得」。子ども達が自分で考える、本当は自分で考えるように仕組むのですが、「ああ〜」って考えが腑に落ちた時、納得した瞬間に子ども達の記憶に残るのだろうと思います。子ども達が自分で学習して、最終的に答えが導き出された時、記憶に残ると、実感しています。納得を得るための、仕組み作りです。
◆授業の大前提 「聞こえる声」「分かる言葉」「嘘はダメ、絶対」
授業の大前提、大基本です。当たり前ですが「聞こえる声」。これは絶対です。私は声が大きいので、普段子どもに話す時はマイクを使いません。聞こえない声は、子ども達にとって子守歌にしかなりません。自分は声が小さいと思う方は、自分の牧場でも、学校でも是非マイクを使ってください。はっきりと、うるさい位聞こえる声です。
それから「わかる言葉」。DVDの子ども達は5年生なので、難しい言葉も使いました。普段は3年生が多いですが、例えば「約」「平均」その程度の言葉も習っていないので分かりません。その学年に応じて、言葉を使い分けるというのも、とても大事です。
嘘もいけません。自給飼料やっていないのに「うちのサイロ」と言ってはダメです。そういう場合は「多くの酪農家さんは…」と言えば良い。それだけのことです。
◆五感に訴える具体物、ツールを使うタイミング
具体物を使って話をする。牛のエサを使って、五感に訴えることが、小学生にはとても大事なことです。僕はジップロックに入れて実際のエサを持っていきます。草は、一番いい匂いで、子どもにもわかりやすく伝わりやすい、「ルーサン」を使います。ビールかす、しょう油かすなども、においが良いですからね。段々とにおいの強いもの、「サイレージ」を出します。サイレージは循環の話にも持っていけます。
具体物を与えて、においや目で見せると子ども達はとても意欲的になります。時間的にこのエサの話をするのが、授業が始まって20〜25分くらいです。とにかくこちらがずっと話しているから、子ども達も少し疲れて来ます。その頃にこういうアトラクション的な具体物で、においを嗅がせるととても盛り上がって、子ども達の活気が蘇って来ます。
◆子どもが大好きなあの話は擬音を使ってイメージを膨らませよう!
子ども達が異様に食いつく、うんちの話。5年生くらいまでは大概、うんちネタは鉄板です。あまり「うんち」を連呼してもなあと思って、僕は「ブリブリ」という単語を使います。僕は擬音をかなり使います。シャーとかブリブリとか、ピーとか。小学生にとってイメージ化させるには、擬音がとても良いみたいです。堆肥舎は「ブリブリハウス」。「ブリブリ山」「ブリブリなだれ」という言葉も使って、堆肥の山の写真に人間のイラストを入れて、大きさ、量をイメージさせる。堆肥舎が出て来たところで、子ども達が、授業が一周ぐるりとしてきたことに気づき「へー、なるほど」ってなります。前から見ていると納得した子どもの顔が分かるので、僕は「やった!」って、気持ち良いです。子ども達は、ここで堆肥のこと、循環酪農のこと、細かいことはわからなくても、排泄物が肥料になるということを、なんとなく理解するのだと思います。
◆しごとの話から、いのちの話へ 騒いでいた子ども達を集中させるサイン
職業の話。今キャリア教育と言われており、中心となる部分です。「いのち」の話をゴールにして、その過程でキャリアや食育、様々な要素が関ります。酪農家の他に、獣医さん、ヘルパーさん、受精師さん、出荷する時のドライバーさん、こんなに酪農に関係する仕事があるということを紹介します。
僕の授業はにぎやかで騒がしいですが、日本の小学生は集中する訓練を受けているので「集中!」っていうオーラを出すと、集中してくれます。集中して欲しい時は、集中して欲しいサインをこちらから出すのです。例えば手をたたく、声を小さくする、逆に「あのねー!」って声を大きくする、なんでも良いです。こっちも「実はね…」と、表情を変えると「ああ、聞かなきゃいけない場面なんだ」と子ども達にスッと入るのが分かります。これは、一度経験すると気持ち良いですよ。そういう瞬間を作り、赤帽子のおじさん(ドライバー)の話に入って行きます。お母さん牛が舐めているこの子牛はオスでした。飼えません。お母さん牛とは別れて出荷されて行きます。最後に「ありがとう、頑張ってね」と声を掛けてあげる。終わりに、この子がお肉になって、そのいのちがみんなに繋がるのだから、大事にお肉を食べてね、という話をします。それは皆さんがそれぞれ牧場でされている話だと思うので、様々な伝え方で良いと思います。
◆同じ動物、大切な命。でも家畜とペットは違う。どうやって子ども達に伝える?
−質疑応答−

参加者:
食といのちの話の部分が特に良かったと思います。
最近お年寄りや、施設の身体が不自由な人に対しての事件がありました。どうしてそういったことが起きてしまうのか。命の大切さを小学校5年生くらいの子ども達に、こういう授業を通して伝えることは出来ないのでしょうか?
加茂:
どんな命でも、無駄な命はないと話はしていますが、それを動物から人間に置き換えるのは難しいですね。酪農家がずっと学校に行って話をするわけにはいかないので、今後の授業の発展として、先生方と相談して、そちらに繋げていくとか。僕の話を導入にして、どのように発展させていくかは、学校や先生によって違います。社会に持って行く先生もいれば、道徳に引っ張っていく先生もいます。道徳的な話にするなら事前に相談して、そこに重きを置いた話をして学校側にフォローしてもらう方法もあるでしょうね。

参加者:
学校の先生に、「家畜とペットの違いの話をしてください」と言われたことがあり、その話は、分かりやすいのではないかと思います。お肉になるけど、僕たちのために食べ物になってくれた、という話もすれば、出荷の話も活きてくる。
同じ動物でもペットならば死ぬまで飼ってあげられるけど、私たちは牛を「家畜、経済動物」として飼っています。ただ殺してしまうのではなく、次の役に立っているという話もすると、少し分かってくれるのではないでしょうか。
加茂:
はい。私もとてもそれを重く感じていて、中学生には愛玩動物と経済動物という言葉を使って授業をしました。あまり幼いと、理解しづらいかなと思いますが、5、6年生ならそのような話も入れても良いと思います。
本来なら先生と事前の打合せが必要で、クラスの状況や問題によってどの話に重きを置くかを話し合っておくと、解決すると思います。
出前授業、やりたいけど、どうやって学校にアプローチする?報酬は??
参加者:
出前授業はとても興味がありますが、呼んでもらわなければ出来ません。その足掛かりとして、酪農家サイドからできる事は何かありますか?
加茂:
学校側としては、道徳の面からみても、とても興味のある先生が多いです。私のいる八千代市の取り組みとしては、きちんと市の教育委員会に話をして、市役所、市教委の許可を得て、全学校の3年生の先生方宛に「授業に酪農家を呼んでみませんか?」という手紙やFAXを送りました。
最初は19校のうち4〜5校から反応が来ました。段々と増え、今10校を超えてきている感じです。学校は独断で動けないので、このように市役所や市教委から公にアナウンスをすると、乗りやすいです。僕は行政を巻き込んでやるのが、逆に早道なのかなと思います。

参加者:
報酬はどうされていますか?
加茂:
私のポリシーですが、ボランティアはしません。出前授業で大儲けをしようとは考えていませんが、交通費とお昼代位、もしヘルパーを頼めばヘルパー代位はなんとかしないと、後にも繋がりません。僕自身もプロとして仕事の話をするので、報酬は頂きたいと思っています。でも学校もお金が無いのです。私立だと、どの位必要ですか?と聞いてくれますが、公立は無いです。今は学校のお金を流用する事が出来ませんし。でも、ボランティアはしません。
関東(生乳販連)では出前授業に、1回1万円の助成金が頂けることになっています。私は千葉なので、千葉県にも話をして出前授業に関する助成金を作って頂きました。学校から頂くのが本筋だとは思いますが、業界でバックアップ出来る体制もあるので、それを利用した方が良いと思います。その他にお弁当代だけは、市の畜産協会から出してもらうようにしました。
参加者:
私も以前から体験をやっており「これだけ料金が必要です」と言うと「それなら体験はいいので、説明だけしてください」と最初の頃は言われました。でも「こんな体験が出来るのでよろしければ検討してください」と言っておくと、2、3年後には「体験したい」と色々な学校が来るようになりました。補助等が出ていれば良いですが、きちんと筋を通して、こういったお金がかかると、きちんと相手に伝えても理解してもらえる場合もあります。

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◆真似したい!私はこういう風にやっています。 情報交換ディスカッション
ワークショップ

加茂さんからの授業解説のあと、グループに分かれ、2つのテーマをディスカッションしてもらいました。

テーマ1:加茂さんのDVDでの出前授業と、解説を通して「よかったな」「使ってみたい、真似したい」、気づいた事
テーマ2:いのちを伝えるための伝え方、工夫、やり方、普段やっている事の情報交換

発表:テーマ1「加茂さんのDVDでの出前授業と、解説を聞いて「ここが良かった」「使ってみたい、真似したい」気づいた事について

Aグループ
・酪農家以外の職業について説明があるのが良かった。
・各教科に繋がる内容が盛り込まれている。
・身近な乳製品の話からエサの実物を見せ、嗅がせる。集中させるテクニック。
・擬音、クイズ形式、身振り、声のトーン。子どもの気の引き方がうまい。
・見て、聞いて、においを嗅いでという、子供に実体験をさせる。断片的でもやりたい。
・問いかけと回答、そして次の話へ。話の組み立て方が参考になった。
・嘘を付かない。酪農家の本当の話をしてもらう事が重要。
・出前授業で子ども達に教えることは、自分が働くテーマを考え直すきっかけになり、自分が働くモチベーションになることがわかった。

Bグループ
グーグルマップを使っていたことが良かった。子ども達に牧場がどこにあって、どんな建物で、自分たちの学校からどの方向にあって、とイメージしてもらう為にとても良い方法。牧場と学校の広さとを比べても良いかもしれない。
現在受け入れがほとんどなので、教室で、子どもの前で喋る機会が少ない。子どもの前で話すテクニック、どんな訓練や勉強をしたら良いのかと、悩んでしまう。

発表:テーマ2について「いのちを伝えるための伝え方、工夫、やり方、普段やっている事の情報交換」

Aグループ:
・実際に牛を連れて行けない場合は、いのちや牛という生き物を伝える工夫として、牛に関するデータを、身近な代用物を使って説明している。
 例えば、牛の胃袋は200リットルくらいの水が入るが、これはドラム缶一缶と同じと教えて、30キロの容量のポリ袋を用意し、1日にこのくらいの量のエサを食べ、同じくらい牛乳を出して、同じくらい糞をするよと、実際に目で見てわかる、イメージ出来るものを持って行って話す。
・搾りたてのミルクと同じ温度のお湯を用意して、触らせてみる。
・小学生は学校で朝顔など育てているので、何種類かの堆肥を牧場からお土産に持たせて、その堆肥を入れた鉢と、入れない鉢で育ち方にどう違いがあるかを観察してもらう。
 「くさいくさい」と子ども達は言うけど、堆肥がどうして畑に必要かを先生に話をしてもらい、発芽の状況を教えてもらっています。体験後にこういう宿題も出せる。
・出荷される牛や引き取られていく子牛の様子や市場の様子を撮って見せる。いのちをもらって、自分のいのちに繋がっているという事を考えて欲しい、と伝えている。

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まとめ
加茂:
出前授業に関らず、牧場での受け入れでも、授業は子どもとの関わりの中で成立させていくものです。一方通行にならずに、子どもとの相互通行で、子どもにも一定の間を与えて、お互いに作り上げていく事を意識しています。どうやって出前授業の訓練をしたら良いのかという質問もありましたが、私の地域に若い女性の酪農家で、1人で授業出来るようになった方もいます。最初は私と一緒に出前授業に来てもらい、授業の一部を任せることから始めて、段々広げてもらいました。彼女も私と同じパワーポイントを使い、自分の家に関る部分だけを差し替えてやっています。
私が初任の頃、校長先生に言われたのは「学ぶ」の始まりは「真似る」こと。もし、学校で授業をする機会があって、やり方が分からなければ、嘘にならないように自分の牧場に関る部分だけ置き換え、私のやったことを丸々やって頂いても構わないと思います。必要であれば、パワーポイントのデータも差し上げます。中酪さんで、私の授業の台本も作って頂きました。やりながら、自分のオリジナルが出来ていくのが、一番早い道だと思います。

私は酪農教育ファームに携わらせて頂きながら、皆さんと一緒に学ばせて頂いてますが、この活動のモチベーションは、外から来た私から見ても、酪農家を心からかっこいいと思っている事です。こんなにかっこいい仕事は他にないと、本当に思っています。この活動を皆さんと協力して続けて、小学生が卒業文集にプロ野球選手、サッカー選手になりたいと書くその横に、酪農家になりたいと、獣医さんでも良い、牛乳を運ぶドライバーさんでも良い、酪農に関係する仕事を将来の夢として書いてくれる子どもが1人でも増えてくれることを願って、頑張っています。
株式会社 加茂牧場(千葉県八千代市)
代表取締役 加茂 太郎氏


平成16年 小学校教諭を退職 妻の実家で営んでいた牧場に就農
平成20年 牧場を法人化するとともに義父より経営移譲
平成24年 補助事業を利用し堆肥舎新築
平成25年 牛舎を78頭規模まで増築 搾乳機及び糞尿処理設備の更新
平成26年 自給飼料増産のため、コンビラップ等、作業機器の導入
平成27年 妻が小学校教諭を退職して就農
現在の労働力(本人、義父母、妻)となる。

◇加茂牧場 紹介 ※平成27年5月現在
飼養頭数:乳牛110頭(経産牛70頭、育成牛40頭)
耕作面積:6.5ha(自己所有約1ha)(デントコーン)
その他:稲WCSの利用による耕畜連携
     所有機械を利用した、他牧場への発酵TMRの供給
     酪農教育ファーム活動(自牧場での受入研修、出前授業)
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