スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



平成28年度 スキルアップ研修会(東京・仙台会場)
−酪農教育ファームにおける安全、衛生対策の確認−
東京・仙台会場にて講師の島田先生に安全・衛生対策の確認について講義して頂きました。
千葉県農業共済組合連合会 中央家畜診療所
係長 島田 亘氏


 島田先生から、「酪農教育ファームにおける安全、衛生対策の確認」として、以下の内容について、事例などを交えてお話頂きました。参加者からたくさんの質問も出ました。
以下、講義内容から抜粋。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◆酪農教育ファームにおける安全・衛生の基準の4項目
   1・安全
    ○危険区域の事前確認
    ○アレルギー体質の子どもへの配慮
    ○熱中症対策
    ○怪我についての留意点   
   2・衛生
    ○飼養衛生管理基準
    ○感染症の基本対策「入れない、拡げない、持ち出さない」
     人から牛へ感染して問題となる感染症→口蹄疫
     牛から人へ感染して問題となる感染症→O157、
                       クリプトスポリジウム症
     上記感染症の発生状況、発生事例、対策、手洗いの徹底、効果、
     方法。
◆アレルギーを持つ子ども達が増えている
島田:
アレルギー体質の体験者への配慮についてですが、アレルゲンは動物の毛、ダニ、花粉、粉じん、穀物、乾草等様々あります。今までに体験者がアレルギーを起こしたという経験がある方はいますか?
参加者A:
青年でしたが、乾燥作業中に呼吸困難になってしまいました。すぐに現場を離れて、安静にしていたら落ち着いたので、救急車を呼ぶまでには至りませんでした。本人からは事前に申し出がなく、長い間アレルギー症状が出ていなかったので、大丈夫かと思っていたようですが、油断はできないと思いました。
参加者B:
小学生でしたが、本人ともちろん先生も牛乳のアレルギーだということを知らず、親が薬を鞄の中に入れていて、症状が出た時に飲ませると思っていたそうですが、実は事前に飲ませておく薬だったという事がありました。
島田:
最近はアレルギー体質の子どもが多いそうです。実際に症状が出てからでは、慌ててしまいます。必ず、引率者や指導者に事前の確認をしてください。
◆子牛が感染しやすいクリプトスポリジウム症。他の動物から牛に感染する病気も
島田:
この細菌は原虫類のコクシジウムの仲間で、水道水、塩素、消毒薬でも除去できず、有効な駆虫薬や治療薬が見つかっていません。意外と出ている感染症ですが、分からないまま過ぎてしまっている状況です。家畜診療所の糞便検査をしても検査する側が慣れていないと、なかなか検出しにくい病原菌です。
一昨年、私の管内86戸の農場で400〜500の子牛の下痢便を検査したところ、42戸でクリプトスポリジウムが検出されました。生後日齢で言うと、生後1週間〜10日の子牛に多く出ています。重症にならなければ治療しなくても消える細菌なのですが、生後10日前後で下痢をする子牛が多い牧場は、是非検査をしてください。

牛を飼う以外に、山羊、羊など他の動物を飼っている牧場は多いと思う。羊から牛に感染する病気もやはりあり、中には届出伝染病もある。原因は分娩の後の胎盤、血液にウイルスがいる為、感染源となっている。牛の近くで羊やヤギのお産をさせたり、胎盤を引きずって牛の近くを通るなどをしなければ感染はしない。そういっう事例も出ているということを、頭に置いておいて欲しい。
3・生乳の取り扱い
   ・搾りたての生乳をその場で参加者に飲ませてはいけない。
   ・不特定多数への販売・譲渡する場合は、許可が必要。
    (食品衛生法、乳等省令)
4・手作り体験時の注意点
   ・手作り体験の原料は市販の牛乳を用いる。
   ・できるだけ屋根の下や日陰で行う。
   ・手洗いとアルコール消毒は必ず行う。
   ・体験の順序を考える。
    (牛舎でのふれあい、体験前に手作り体験をさせる方が良い)
   ・作ったものは持ち帰らない。
   ・容器は加熱殺菌できるものを使用する。
◆切り傷には「砂糖パック」が効果あり
−質疑応答−

参加者B:
口蹄疫について。汚染地域を渡航した人への入場制限はどのようにしたら良いでしょうか。また、外国の方への対応はどのようにしたら良いか?
島田:
渡航した日数も関係しますが、以前宮崎で口蹄疫が発生した時、中央家畜診療所からも何人か派遣した際は、帰ってから2週間は現場に出ないというのを徹底しました。着ていたものは洗うのはもちろん、捨てられるものは捨てました。観光ではなく視察等で行っていたのであれば、尚更そこまでした方が良いです。
海外の方への対応は、なるべく入れないようにするか、必ず消毒槽を設置し、手洗い、消毒の徹底。黄色ブドウ球菌などは、乳搾り体験で人の手から牛に感染します。人から牛に移す感染症もあるということを、参加者にきちんと伝えることが重要です。

参加者C:
AEDは設置した方が良いのですか?
島田:
あった方が良いのかもしれませんが、金額的にも高いものです。必ず設置が必要なものではないと思います。
参加者D:
最近は行政で購入し、リースで置く事もできます。購入すると50万ほどしますから。でも、AEDの設置より大事なのは、人が倒れて息をしていなかったら、まず蘇生処置をするということ。救急車が来るまで蘇生措置を続ける事が大事だと、方法も含め以前勉強しました。

参加者E:
消毒薬についてですが、最近は消毒薬を使用すると良い菌も悪い菌も殺菌されてしまい、余計治るのが遅くなるという事を聞きます。最新の情報、見解を教えてください。
島田:
牛、人間にも言えますが、怪我をしても本来なら消毒薬は必要ありません。まず流水で洗うことです。消毒薬は確かに良い菌も悪い菌も殺菌してしまいます。どの程度の怪我かにもよりますが、昔は「乾かせ」と言われていました。今は反対で湿潤状態の方が、怪我の治りが早いと言われており、かすり傷であれば、洗うだけでも大丈夫です。ざっくり切ってしまった場合は、消毒よりも傷口を押えて病院に行った方が良いと思います。
牛の怪我の場合も、私はできるだけ消毒薬や抗生物質は使いません。とにかく水で洗い、最近は砂糖パックをします。砂糖パックは砂糖を傷口に付けて、ラップを巻くだけです。砂糖は濃度が高くなると細菌が発生しない性質があり、水分も含んでいるので湿潤療法になります。私は傷に対して消毒薬は、あまり使いません。
体験者にとっては非日常の牧場。そこを意識した導線作り、危険区域の説明を。
参加者F:
禁止区域の設定はどのようにしたら良いか?うちの牧場は、牛の後ろに入らない等までは、きちんと区分けが出来ていないのだが。
島田:
牛の後ろが危ないからダメというのではなく、どういう危険があるか体験者は「分かっていない」ということ。分からない、知らないで牛の後ろにまわり、例えば牛が糞や尿をして、かかってしまったという状況になるのが良くない。
牧場内で「危ない」場所をどう教えるか。酪農家にとっては日常だから、危ない場所、ものを危ないとは感じなくなっている。しかし体験者にとっては非日常。見るもの全てが新しい。こちらが側がきちんと仕切りをして、立入り禁止にすることも大切だが、牧場の自然な風景を見せて、危ない場所がどうして危ないかを教え、近づく子がいたら目を離さず声を掛けるなど、ただ禁止にするだけじゃないやり方もある、とある酪農家さんが他の研修会場で言っていた。牧場によってそれが可能かどうかはあるが、なるほどその考え方、方法も良いなと思った。

牛の後ろから前には行かせない導線作りや、あと酪農家さんが気付かずにやっているのが無意識に餌を踏んでいること。私は治療に行った時など必ず餌をどけてから通るようにしている。酪農家さんが餌を踏んでいると、体験で来た人も必ず踏む。これは慣れからくるものだと思うが、意識をして欲しい。気付いているようで、気付いていない事、忘れていることは沢山あると思う。そういった部分も振り返りながら、活動をしていって欲しい。

千葉県農業共済組合連合会 中央家畜診療所
係長 島田 亘(とおる)氏


 千葉県出身。大学在学中に大型動物に興味を持ち、大動物診療を目指す。最近では子牛の下痢の原因を研究中。
平成3年3月 麻布大学卒業
  同年4月 岩手県遠野共済組合家畜診療所(現岩手県東南部共済組合)
平成10年4月 千葉県農業共済組合連合会 南部家畜診療所
平成14年4月     〃        中央家畜診療所富津出張所
平成24年4月     〃        中央家畜診療所
現在に至る。
(C) Japan Dairy Council All rights reserved.