安全に体験活動をしてもらうため、牧場のマナーについてもお話しすると良いと思います。少人数ならあまり問題ないと思いますが、クラス単位など大人数になると全員に目が行き届かないと思いますので、先生たちと事前に打ち合わせて対応を考えていく必要があります。

１．危険区域の事前確認
２．アレルギー体質の子どもへの配慮
３．熱中症対策
４．怪我についての留意点

　危険な場所、入ってはいけない場所には「立ち入り禁止」などはっきりと誰にでも分かるような看板を立てるなどの対応をしてください。
　最近はアレルギーを持つ子も多いので、事前に先生に確認するようにしてください。牧場に来て牧草やエサなどでアレルギー反応が出る場合もあると思いますので、マスクやティッシュペーパーを用意しておいても良いと思います。

　家畜の所有者が最低限守るべき衛生管理の方法を取りまとめたものが「飼養衛生管理基準」です。
　これは5年に1度改正されます。前回は26年10月に改正され、「家畜の死体や排せつ物の適切な取扱い」及び「生肉が含まれる可能性がある飼料原料の加熱処理規定」について新たに盛り込まれました。
　飼養衛生管理の徹底は、悪性の家畜伝染病の発生・まん延防止に有効ですが、その他にも一般の疾病や慢性疾病の予防、育成率や増体の向上などでも効果が得られると言われているので、再度確認をしてください。

感染症の基本対策
「入れない、拡げない、持ち出さない」

　「入れない」ことについては自己防衛しかありません。出入口に消石灰を撒いたり、靴底の消毒やブーツカバーの着用など徹底してください。牧場側が徹底していると、来場者の意識も変わると思います。
　踏み込み消毒槽で足を消毒する場合、汚れを落とさないで消毒槽に入っても効果が薄れて意味がないので、必ず汚れを落としてから入るように来場者にも伝えてください。
　万一病原体が侵入してまったら「拡げない」ように最小限に食い止めます。
　導線の工夫や、要所への消毒槽の設置、牛の健康管理の徹底、ワクチンやネズミ害虫駆除をしてください。
　最後の「持ち出さない」というのは、牛舎から出さないということ。牛舎から他の牛舎へ渡り歩かない、牛舎を出る時の靴底の消毒や着替え、手洗いを徹底することがポイントだと思います

手洗いにつて
　「手洗いをしましょう」とみなさん言われていると思いますが、ではどのように洗ったら良いのでしょうか。最初に見本として実際にやって見せたり、写真や図入りの掲示物があるとよいと思います。
　夏場は良いですが、冬場は冷たい水だと、さっと洗って終わりにしてしまう事もあるので、お湯が出るようにしたり、泡の石鹸にしたりするなど、きちんと洗ってもらえるように工夫するとよいと思います。
　流水と石けんで15秒間手洗いすると、細菌数は4分の1から12分の1に減少、さらに30秒間洗うと63分の1から630分の1に減少します。

牧場で注意すべき主な人獣共通感染症
■病原性大腸菌O-157
■クリプトスポリジウム症
■破傷風

　代表的なのはO-157だと思います。O-157のキャリアは牛であることが定説化しつつあり、健康な牛の15％前後の糞から検出さるといわれています。
　O-157の1番の予防法は手洗いの徹底です。アルコールでも殺菌できますが、汚れが残っていては意味がありませんので、まずは手洗いが大切です。
　またクリプトスポリジウム症は子牛が下痢になる病気ですが、人間にもうつるので要注意です。症状は同じく下痢になります。1度かかると抗体ができるので、成牛がかかることはありません。

　感染リスクを低減させるために最も有効な手段は手洗いの励行です。
　手洗いを確実なものにするためには以下の点が重要です。
■手洗い場を適切に配置
■動物エリアと非動物エリアをフェンスなどにより物理的に区画
■非動物エリアには補助犬以外の動物の持ち込みは禁止
■動物エリアの出口には来場者に見合った手洗い施設を設ける

生乳の取り扱い、手作り体験時の注意点
■搾った生乳をその場で参加者に飲ませてはいけない
■手作り体験の原料は市販の牛乳を用いる
■不特定多数へ販売・譲渡の場合は許可が必要（食品衛生法、乳等省令)

乳製品の手作り体験時の注意点
■原料は市販のものを使う
■できるだけ屋根の下や、日陰で
■良く手を洗う（次亜塩素酸・アルコール消毒も）
■体験の順序を考える
■作ったものは持ち帰らない
■容器は加熱殺菌できるもの

　出前授業やイベントなど、体験後に引率の先生が教室近くの水道で手を洗わせますと言っています。片付けもあるし、お願いしてもいい？
　いけません。体験者が手洗い、靴底消毒をしているか、ファシリテーター自身が必ず見届けてください。

　出前授業に牛を連れていくのだが、O-157の保菌検査はした方がいい？
　リスク回避のためのも可能な限り実施してください。
　O-157はわずかな菌量でも感染し、例えばトイレの蛇口やタオルなどを通じて人から人へ二次感染します。特にタオルは、たとえ自分のタオルで拭いても、感染したものを家に持ち帰ることになるので、ペーパータオルを用意するようにしてください。
　目に見えない菌だからこそ、考えられるところは注意するようにしましょう。

Q.1
　消毒のため、牧場の入り口に消石灰を撒き、牛舎に入る前にビルコンの足踏み消毒を行っています。両方を一緒に使うと中和されて消毒効果がなくなると聞いたが本当でしょうか。消石灰は人の靴底と車両用、ビルコンは人の靴底用。それぞれ効く菌が異なると聞いて両方やるようになりました。
島田
　たしかに消石灰はアルカリ性、ビルコンは酸性のため中和される可能性はあります。人が消石灰を踏んだ場合は、牛舎入り口のビルコンを踏む前に足ふきマットを設置してそこで消石灰を一旦落としてからビルコンを踏むようにしてはどうでしょうか。
Q.2
　畜舎の洗浄消毒はどのくらいの期間を空けて実施すればよいでしょうか。ウォーターカップや飼槽の洗浄は週1回位とこまめにやっていますが、牛舎全体の頻度、特に飼養衛生管理基準に記載があれば教えていただけますか。
島田
　飼養衛生管理基準には「定期的に清掃・消毒を行う」という記載はあるが、具体的な期間は明記されていません。従事者の判断になると思います。
Q.3
　大型の野生動物、鳥類やタヌキなどの被害が出たため、搾乳牛舎に入らないように対策を取ったところ、外にある育成牛の放牧場に行くようになってしまいました。どうしたらよいでしょうか。
島田　
　私のいる千葉県でもカラスの被害が出ました。カラスがサルモネラ菌を運んで、牛舎でサルモネラが発生してしまったため、その牧場ではワクチンを接種しました。野生動物の侵入があったら、牛舎の消毒などをしたほうがよいと思います。侵入への対策については、他の参加者の皆さんでよい知恵があればぜひ教えていただけますか。
参加者
　うちでカラスの被害が出た時は、市に連絡して猟友会に威嚇射撃してもらいました。その直後はいなくなるのですが、しばらくするとまた出てきてしまいます。花火で威嚇するという手もあると思います。

平成 8年3月　麻布大学卒業
　　同年4月　岩手県遠野共済組合家畜診療所(現岩手県東南部共済組合)
平成10年4月　千葉県農業共済組合連合会　南部家畜診療所
平成14年4月　　　　　〃　　　　　　　　中央家畜診療所富津出張所
平成24年4月　　　　　〃　　　　　　　　中央家畜診療所