スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



平成30年度 スキルアップ研修会(札幌会場)
ー酪農教育ファームにおける安全・衛生対策の確認ー(抜粋)
村田 亮氏
酪農学園大学 獣医学群講師


酪農教育ファームにおける安全・衛生の基準
 みなさんはすでに酪農教育ファーム活動を行っており、安全・衛生対策もしっかりしているとは思いますが、再確認ということでお話しさせていただきます。

1.危険区域の事前確認
 事前に見学ルートを歩いてみてチェックし、「危険エリア」と「見学可能エリア」を明確に表示・区分するようにしてください。
 最近は、外国の方が事前の連絡なく見学に来ることもあると聞きますので、直感で入ってはいけないと分かるような標識を立てることが大事です。小さい子どもも同様です。相手が読めない標識では意味がないので、分かりやすくすることを意識してください。また、紐などで衛生管理区域を囲って物理的に入れないようにするのも良いと思います。

2.アレルギー体質の子どもへの配慮
 牛舎には、子どもたちがこれまで接したことがないアレルゲン(寝藁、牛舎の粉塵、牛のフケなど)がたくさんある場所です。それらが引き金となり、アレルギー症状を引き起こす場合があります。汚れが付きにくく落としやすい服装で見学に来ているか、不用意にアレルゲンに触れていないかなど、気を付けていただければと思います。
万が一、「ひきつけ」を起こした場合は、安静にして衣服をゆるめ、5分経っても治まらない場合は救急車を呼んでください。発熱を伴う場合は、医師の診察を受けるように勧めてください。

3.熱中症の予防
 まず体調を整えてくること(睡眠不足などないように)、通気性の良い服装と帽子を着用して来ることを事前に通達しましょう。
私の経験上、女の子より男の子の方が危険な場合が多いです。女の子は少し具合が悪くなるとアクションを起こしてくれますが、男の子はぎりぎりまで我慢している子が多いように思いますので気を付けて下さい。そして、こまめに水分補給をさせるようにしてください。

4.怪我についての留意点
 医者などの専門家ではない私たちは、安易に傷口に消毒液を塗ったり、飲み薬を飲ませたりしてはいけません。傷口はぬるま湯やきれいな水(井戸水はNG)で洗い流し、ばい菌が入らないように処置してください。
衛生について
感染症の基本対策
■入れない(出入り口における消毒や靴底を洗うなど)
■拡げない(導線の確保、牛舎間の踏み込み消毒槽の設置など)
■持ち出さない(牛舎を渡り歩かないなど)

牛に感染して問題になる伝染病
■口蹄疫
■BVD、RSなどウイルス性呼吸器病
■ロタ、コロナなどウイルス性下痢症
■サルモネラ症
■黄色ブドウ球菌
 一番怖いのは口蹄疫やそれに準ずるような感染力の強い家畜伝染病の蔓延だと思います。
 世界における口蹄疫の発生状況を見ると、日本以外の多くの国で発生しています。特に日本の周りの国では多発しており、いつ日本に入ってきてもおかしくない状況です。
 最近は海外からの観光客が増えており、突然見学をしに牧場に訪れることもあるそうです。基本的には事前連絡がない方は断って良いと思います。私の大学では飼養衛生管理基準に則り、口蹄疫などの悪性伝染病の発生国から来た方(日本人の帰国者も含めて)は、1週間は農場内へ立ち入り禁止です。さらに家畜に直接触れた人は2週間以上は立ち入り禁止というルールにしています。
感染症について
1.感染源(微生物そのもの、微生物を持つ動物など)
2.伝播経路(感染源と感受性宿主をつなぐもの)
3.感受性宿主(微生物が体内に入ると病気を起こしてしまう動物、人間など)
 感染症が起こるには3つの要因があり、このどれか1つでも欠けると感染症は起こりません。みなさんの農場の中で3つの内のどれかを1つを必ず無くす事を目標に、日々の衛生対策を行っていただきたいと思います。
 
 口蹄疫においてこの3つの要因が何に当てはまるかというと、まず感染源は口蹄疫ウイルスそのものや既に口蹄疫に感染している動物です。口蹄疫はすべての偶蹄類に感染する可能性があります。他の病気と違うのは、極めて少量で感染するという点です。
 口蹄疫は偶蹄類の蹄や口の粘膜面に水疱を形成する病気です。家畜が死ぬ病気ではありませんが、痛かったりするので非常に生産性が落ちます。症状自体は重篤ではないが、あっという間に感染する上に生産性が著しく落ちるということで重要視されています。
 この2つを結び付ける伝播経路が問題です。極めて少量で感染する上に、風に乗って飛ばされる厄介な病原菌で、車のタイヤについたり、塵となって運ばれてしまったりします。
 感染症の3つの要因うち、みなさんの努力で解決できる要因は、伝播経路の遮断だと思います。

 伝播経路の遮断には、まず他の農場との接触を遮断すること。同じ日に複数の農場の往来は禁止してください。そして、牛舎環境周辺への消石灰散布です。
 口蹄疫ウイルスの消毒には、4%炭酸ナトリウム液(別名4%炭酸ソーダ液)や消石灰が効果的ですが、いずれにしろ消毒剤の温度に注意してください。また、口蹄疫やノロウイルスにはアルコールは効きませんので注意してください。
手洗い施設
■来場者が動物エリアから退出する時に必ず手洗いが実行できるような場所に設置。
■入場者数に十分対応できるだけの数を設置。十分な水量を確保。
■手洗いは流水で行い、貯留水は使用しない。
■小児やハンディキャップを有する来訪者でも使用しやすいよう設計。
■石鹸(できれば液状石鹸)を常備。
■ペーパータオルを常備することが望ましい。
■特に冬期には、温水を供給できることが望ましい。
■給水栓は、自動あるいは足で操作できることが望ましい。
■給水栓の操作をするときは、手を拭ったペーパータオルを用いる。
■消毒薬は、必ず手洗い・除水の後に使用。

 手洗い乾燥後は、次亜塩素酸水で消毒をするのも良いと思います。
こんな時どうする?
■体験前後にきちんとアルコール消毒をすれば手洗いは省いても良いか?
⇒アルコール消毒は汚れを落としていなければ意味がありませんし、アルコールで効かない菌もあります。手洗いを省いてはいけません。

■冬場は寒いので、消毒薬をお湯に溶かした方が良いか?
⇒踏み込み消毒槽に関して冷水で溶かすと凍ってしまうこともあると思うので、人肌程度なら良いと思います。ただ、高温だと失活して蒸発しますので注意してください。
質疑応答
Q1.
 うちの牧場では体験後、手洗いをしてからアルコール消毒をしてもらっています。アルコール消毒が効かない菌がいるという話だったが、アルコール消毒はやめるべきでしょうか? また、次亜塩素酸水が効くということだが、キッチンハイターを薄めてスプレーに入れて手指にかければ良ですか? 少し抵抗があるのですが。
村田
 腸管出血性大腸菌(O-157等)などにはアルコールが効くので、使うことは全く問題ないが、効かない菌もあることは留意すべきです。キッチンハイターと聞くと抵抗がある気持ちは分かります。キッチンハイターはかなり薄めても効果があるので、牧場内にアルコールが効かない菌が発生している場合のみ、匂いがしない位に薄めて使用するのが良いのではないでしょうか。現在クリプトスポリジウム等が出ていないのであれば必ずしも使う必要はありません。準備だけはしておいて、気になる人には使っていただくようにするのが良いと思います。

Q2.
 近隣の農家でヨーネ菌やサルモネラ菌が発生していて、必要があってうちの牧場に来る場合、ブーツカバーを履いてもらって牧場内に入れてしまっているが良いでしょうか?
村田
 相手が農業従事者であるなら、消毒のお願いや靴の履き替え等の必要性を説明すれば理解してもらえると思います。特にサルモネラ菌は長靴で蔓延しますので、ブーツカバーをするか、こちらの長靴に履き替えてもらう必要があります。洋服は着替えてもらうか、使い捨てのつなぎを着てもらうのがよいでしょう。サルモネラは少しの油断であっという間に広がるので気を付けるようにしてください。


酪農学園大学 獣医学群講師 村田 亮氏

生産動物も伴侶動物も、人間が生きていくためには欠かせない大切な存在である。そんな身近な動物たちが感染し、病気の原因要因となる細菌について、予防や治療に役立つ基礎的な情報を収集。
畜産物やペット(=家族)が安心で安全に暮らし、快適に生活を送れることを目指して、細菌病の研究を進める。
以下略歴
2006年   酪農学園大学 獣医学部 獣医学科卒業
2010年   北海道大学 大学院 獣医学研究科修了
2010年〜  東京農業大学 農学部 畜産学科 家畜衛生学研究室助教
2014年〜  酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 獣医細菌学ユニット講師
(C) Japan Dairy Council All rights reserved.