平成29年度 スキルアップ研修会(北海道会場)
ー酪農教育ファームにおける安全・衛生対策の確認ー(抜粋)
村田 亮氏
酪農学園大学 獣医学群講師


酪農教育ファームにおける安全・衛生の基準

安全について
1.危険区域の事前確認

 普段牧場で生活している皆さんは、危ない所を自然に避けることができますが、初めて訪れた子どもや参加者は避けることができません。外部の人にとって危険か、そうでないかを事前に確認してください。
 見学ルートを実際に歩き「危険エリア」と「見学可能エリア」を区分します。小さい子どもでもわかるように明確なものを貼る、置く、仕切ることが大切です。

2.アレルギー体質の子どもへの配慮
 特に都会の子どもたちは、これまで接したことがないアレルゲン(寝藁、牛舎の粉塵、ウシのフケなど)が引き金になり、アレルギー症状を引き起こす場合があります。
 万が一「ひきつけ」を起こした場合は、安静にして衣服をゆるめ、5分経っても治まらない場合は救急車を呼んでください。発熱を伴う場合は、医師の診察を受けるように勧めてください。

3.熱中症の予防
●体調を整えること(睡眠不足など)
●通気性の良い服装、帽子
●こまめな水分補給(ペットボトルや水筒を持参してもらうなど)
 子どもとお年寄りは特に注意が必要です。
熱中症の応急処置は、第一に涼しい場所に移動させ、衣服をゆるめて休ませることです。風をおくり、脇の下を冷やすなどして身体を冷やし、スポーツドリンクなどで水分と塩分を摂取しましょう。

4.怪我についての留意点
 医者などの専門家ではない私たちは、安易に傷口に消毒液を塗ったり、飲み薬を飲ませたりしてはいけません。傷口はぬるま湯やきれいな水(井戸水はNG)で洗い流しましょう。
衛生について
感染症の基本対策
●入れない(出入り口の消毒や靴底を洗うなど)
●拡げない(導線の確保、踏み込み消毒槽の設置など)
●持ち出さない(牛舎を渡り歩かないなど)
 1日に複数の牧場を渡り歩いてはいけません。参加者からそのような申し出があった場合には、強く拒否することも必要です。

牛に感染して問題になる伝染病
●口蹄疫
●BVD、RSなどウイルス性呼吸器病
●ロタ、コロナなどウイルス性下痢症
●サルモネラ症
●黄色ブドウ球菌
●ヨーネ病
 口蹄疫や鳥インフルエンザなどは社会的に注目されています。流行地でなくても対策をし、偶発的に起こらないように注意してください。
日本は口蹄疫の非清浄国に囲まれています。いつ・どこから・どんなタイミングで口蹄疫が入ってきてもおかしくないので、常日頃から衛生管理を行ってください。万一にも事故が起こらないように、きちんとした対策、知識を持っておきましょう。
また、見学で農場の中に人を入れる際に他の動物との接触がないようにしたり、2週間以内に海外・アジア渡航経歴のある人は立入禁止にしたりするなどのルールも考えてください。
感染症について
1.感染源(微生物そのもの、微生物を持つ動物など)
2.伝播経路(感染源と感受性宿主をつなぐもの)
3.感受性宿主(微生物が体内に入ると病気を起こしてしまう動物、人間など)
 微生物が起こす病気は感染症と呼ばれます。感染症が起こるには3つの要因があり、このどれか1つでも欠けると感染症は起こりません。
 病原体そのものをなくすことは非常に難しいです。特に、野生動物も保有する病原体を撲滅することはほぼ不可能です。
 口蹄疫は偶蹄類すべてに発症する可能性があります。例えば牛の口蹄疫を撲滅できたとしても、他の偶蹄類が持っていた場合、そこから別の家畜に感染する可能性があります。
 アルコール消毒薬はスーパーや食堂などにもよく置いてありますが、口蹄疫ウイルスやノロウイルスには効きません。
 口蹄疫には4%炭酸ナトリウム液(別名4%炭酸ソーダ液)、消石灰が効果的ですが、消毒剤の温度に注意してください。
 踏み込み消毒槽の消毒剤は紫外線で劣化するので、バスマットなどのフローターを置いて直射日光が当たらないようにするなど対策をして下さい。
ヒトに感染して問題となる伝染病
●腸管出血性大腸菌症(O-157)
●カンピロバクター(にわとりなど)
●クリプトスポリジウム
●サルモネラ症
●白癬
●結核

 クリプトスポリジウムは、一度かかると免疫がつきますが、初めて感染するとひどい下痢を起こしてしまいます。外部の方は感染しやすいので注意をしてください。
 また、動物からヒト、ヒトから動物と双方にうつる可能性のある人獣共通感染症があります。乳房炎は牛だけではほとんど発生することはありません。ヒトが牛に対して黄色ブドウ球菌を媒介していると言われています。
 今は、ヒトがきれいで動物が汚い、動物が悪者という時代ではありません。酪農教育ファーム認証牧場に来る子ども達の方が、牛を病気にしてしまう可能性もあるのです。
O-157は牛の腸管に常在しており、万が一ヒトの身体に入ってしまうと、出血性の大腸炎を起こします。健康な動物も病原体を持っていることを把握しましょう。
手洗い施設
●来場者が動物エリアから退出する時に必ず手洗いが実行できるような場所に設置。
●入場者数に十分対応できるだけの数を設置。十分な水量を確保。
●手洗いは流水で行い、貯留水は使用しない。
●小児やハンディキャップを有する来訪者でも使用しやすいよう設計。
●石鹸(できれば液状石鹸)を常備。
●ペーパータオルを常備することが望ましい。
●特に冬期には、温水を供給できることが望ましい。
●給水栓は、自動あるいは足で操作できることが望ましい。
●給水栓の操作をするときは、手を拭ったペーパータオルを用いる。
●消毒薬は、必ず手洗い・除水の後に使用。

 動物由来感染症には手洗いが効果的です。手洗い施設を完備させ、都度、手を洗ってもらうことが大切です。手に石鹸をつけただけでは菌を殺す事はできませんので、時間をかけて洗ってください。啓発を促すような図や絵を貼ると分かりやすいかと思います。
 また、ハイターなどに入っている次亜塩素酸Naは、O-157や腸管出血性大腸菌に効果があります。
来場者への啓発
●来場者に対し、動物からヒトに感染する病気があることを事前に説明。
●動物との過剰な触れあい(キスなど)を避け、手洗いを励行することで動物に由来する感染症の多くは予防できることを説明。
●効果的な手洗い方法を説明。
●動物エリアへの飲食物、おしゃぶり、ぬいぐるみ,おもちゃ等の持ち込みは禁止。
●保護者の方を含め、エリア内では喫煙、化粧直しをしないことまた、牧場から出た後も小児に指しゃぶりをさせないよう注意。
●糞便に触れないよう注意。
●幼児には必ず監督者が伴う。
●動物に触れる際は爪を、短く切るよう事前に周知。
●これらの注意事項を分かりやすく示したものを入場口に提示。
●動物エリアからの退場時に手洗いをすること、並びに手洗い場所へ誘導する標識を掲示。
質疑応答
Q1.サルモネラの対策を教えてください。
村田:サルモネラは、一度出てしまうと牛舎内に非常に早く蔓延します。
つなぎや長靴等に少しでも糞便がついた状態で違う牛舎に行くと、そこにいる牛も感染してしまう可能性があるので、着替えるなどして対処してください。
 サルモネラは、抗生物質を投与して治療をしても完全に腸管内からいなくならないので、発症した牛はしばらく牛舎に戻さない方がよいです。
人間に影響が出る場合もあるので、牛舎内で流行っている間は酪農教育ファーム活動を控えた方がよいと思います。
また野鳥によって菌が運ばれる場合もありますので、網などを張って対策をしてください。

Q2.牛舎にカラスが入ってきてしまいます。対策はありますか?
村田:牛舎の全てを閉鎖するのは難しいと思うので、まずはカラスの糞便が牛舎に入らないように対策をすること。除糞をした後に消石灰を撒くなど、こまめにやっていただくのがいいと思います。

Q3.ネズミの対処法はありますか?
村田:ネズミはサルモネラ菌を運ぶので気を付けてください。ドブネズミ、クマネズミ、家ネズミのような大きなネズミは危ないです。ネズミ取りのトラップの毒をこまめに取り換えたり、ネズミ専門の駆除業者を呼んだりするのがよいと思います。


酪農学園大学 獣医学群講師 村田 亮氏

生産動物も伴侶動物も、人間が生きていくためには欠かせない大切な存在である。そんな身近な動物たちが感染し、病気の原因要因となる細菌について、予防や治療に役立つ基礎的な情報を収集。
畜産物やペット(=家族)が安心で安全に暮らし、快適に生活を送れることを目指して、細菌病の研究を進める。
以下略歴
2006年   酪農学園大学 獣医学部 獣医学科卒業
2010年   北海道大学 大学院 獣医学研究科修了
2010年〜  東京農業大学 農学部 畜産学科 家畜衛生学研究室助教
2014年〜  酪農学園大学 獣医学群 獣医学類 獣医細菌学ユニット講師
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