スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



平成29年度 スキルアップ研修会(新潟会場)
ーワークショップ ー(抜粋)
「〜伝わるためにはコツがある〜意識的にしくみ、相手の腑に落とす」
加茂 太郎/株式会社 加茂牧場 代表取締役

 千葉県・加茂牧場の加茂さんを講師に迎え、ワークショップを行いました。加茂さんの小学校への出前授業の模様を収めたDVDを鑑賞後、子どもたちを「腑に落とす」ための授業の「仕組み」作りについて解説していただきました。それを受けて参加者同士ペアになり、自分自身の新たな「しくみ」を考えました。
学校はなぜ牧場に来てくれないのか
 学校では、全ての活動が教科に位置付けられているので、1人の担任の思いだけで、自由に活動することは難しいです。
 私は、子どもたちが牛を通して成長していくさまをずっと見てきたので、酪農体験は素晴らしいことだとわかっていますが、それでも学校の先生はなかなか牧場に来てくれません。
 なぜかというと酪農体験は通常の教科には当てはまらず、教科書にも載っていないからです。
 酪農体験は「総合的な学習の時間(以下、「総合学習」)での実施が主流ですが、近年、英語が教科化され、総合学習の時間がどんどん減ってきています。都内では夏休みが短縮されるほど、学校はスケジュールが詰まっています。
 そういった状況の中で校外活動のハードルは非常に高く、1人の先生が良いと思っても隣のクラスの先生・学年主任・校長先生を説得し、移動方法や経費の負担など、さまざまな問題をクリアしなければ実施には至りません。

 一方で酪農家が学校に出向く出前授業は、学校内の時間さえ調整できれば、移動経費の負担もないので校長先生や学年主任などの理解も得やすいです。
 一度出前授業を行うと、先生方との信頼関係が生まれて、先生自身にリピーターになってもらえます。
 実際に牛や搾乳の様子を見てみたいなど、子どももすごく興味を持ってくれて、出前授業をきっかけに次の年に牧場に来てもらえることもあります。さらに校長先生が積極的に推進してくれるようになると、学校の年中行事になったりもします。
 一般的に小学3年生の「社会」では自分の住んでいる市町の勉強、4年生の「社会」では県の勉強をします。
 教科書の内容は全国共通なので、市町の社会の先生が自分たち独自の市町についての副読本を作ります。酪農が盛んな地域であれば、その中に牛のことが載る可能性もあるので、そういった切り口で学校とのつながりを見つけるという手もあります。
 私は今までは個人で学校に伺っていましたが、組織を通すと格段にやりやすくなります。今では、県の畜産協会を巻き込み、市の教育委員会にもお伺いを立てて、畜産協会の会長の名前で地域の全小学校に毎年案内をし、要望を受けています。

 酪農学習が他の産業と決定的に違うのは、「いのち」が係わっていることです。
ここ数十年来、学校現場で求められているのは「生きる力」で、それは先生たちも常に意識しているワードです。また「キャリア教育」として、仕事としての酪農がよく使われています。

 授業で大事なのは、驚き(Surprising)と納得(Convincing)です。
牧場へ行けば大きな牛がいて、それだけで驚きになりますが、酪農家だけが出向く出前授業には牛はいません。
 牛がいない驚きをどう作っていくか。それをどうやって子どもたちの心の中に落とし込むかを考えます。納得させられるような展開を「しくんで」いくことが必要です。
「しくむ」って何?
 話の道筋を構成すること。牧場での体験の場合でも、話の道筋を考えます。牧場の中をどういう順番で廻って、どんな話をすれば子どもたちが納得し、腑に落ちるのかを常に考えています。

「美味しいしくみ」のレシピ
1.牛がいないため、「小さな驚き」を積み重ねてみましょう。
2.パワーポイント(スライド)でもお話の中でもいいので、「小さな疑問」をたくさん埋めましょう。
3.子どもたちの発達に応じてそれを問いかけ、投げてみましょう。
4.こちらから「投げた疑問」には、必ず答えましょう。
5.疑問の答えは「教える」より「気がつく」方がベターです。
6.授業が始まってから終着点までにたどり着く間の道筋をしくむことが大切なので、話のブツ切りは厳禁です。
7.「大きな疑問」も、いくつか投げてみましょう。
8.「大きな疑問」に対する答えのタイミングが重要です。
「加茂さんがしくんでいた場面について」
 DVDの解説をしていきたいと思います。

●授業を始める前、終わった後に、牛の写真を映して興味を引く
 この牛はなぜ耳がちぎれているの? など疑問がうまれます。また、正面向きの写真にしておくと、後で乳牛の等身大タペストリー(横向き)で実際の大きさを見せた時に驚きが得られます。
●牧場の牛
 導入部分で必ずするのは、牧場には雌と雄がどの位いるか? という話です。雄が多いと思う子どもたちも多く、雌が100%という回答が出る学校はほとんどありません。
自分たちのお母さんに話に持っていくと、牧場に雌しかいないことに気が付きます。
●五感を使う
 エサの話では、子どもたちの五感に働きかけるため、実物を持参。香りが強い「ルーサン」を持って行くことが多いです。
 乳牛の胃については、最初に胃の画像を使って説明をし、その後で実物大の胃パネル(中央酪農会議作成)を出して、大きさを理解してもらいます。
 また最近では、ミルカー搾乳を撮影した映像も見せています。酪農体験の際は手搾りなので、ミルカー搾乳を見たことがない子が多いのです。
●循環型農業
 循環型農業の機軸を担っているのが酪農だということを子どもたちの中に「落とし込む」ため、牧場の航空写真で堆肥舎が牛舎よりも大きいことを見せ、なぜなのかという疑問を投げかけます。
 うちの牧場では現在は牛舎を拡張したので堆肥舎より牛舎の方が大きいのですが、演出上昔の写真を使っています。
 草が牛の飼料になり、飼料を食べた牛が牛乳を出し、牛が排泄した糞尿が堆肥となってまた草を育てるという循環の流れが子どもたちの中に落とし込まれ、納得が生まれます。
都会の子どもたちは、糞が堆肥になるイメージがないので、こういった話を教えていかなければならないと思います。
●牧場に関わるお仕事
 近年、学校ではキャリア教育という言葉が叫ばれていることを踏まえ、酪農家の仕事とともに、獣医や人工授精師、ミルカーの運転手など酪農に関わる職業について紹介をします。
最初に牧場には雌しかいないという疑問を投げかけておいたので、雄は別の場所にいて種を運んでもらっていることを、学年に合わせて説明します。
酪農ヘルパーのおかげで休暇が取れるし、旅行にも行きます。楽しく仕事をしているということを説明したいので、酪農ヘルパーの仕事もしっかり説明します。
●いのちの繋がり
 最後は廃用牛の話をします。この話は集中して聞いてもらいます。
雄として生まれた牛は馬喰(牛や馬の仲買商人)が連れていき肥育農家が買っていく。牛は私たちのビジネスパートナーで、みんなのいのちに繋がっているということを話します。
 何年もこの話の流れで出前授業をやってきましたが、この流れで子どもたちのこころに「いのちの大切さ」が落とし込まれるようです。
 私は、牛乳は栄養があるから飲みなさいといった話は一切しませんが、一時的なものかもしれませんが、学校では飲み残しは少なくなるそうです。

 道筋を作って話をすることの大切さについてお話ししてきました。子どもたちが牧場に来て、実物の牛や実際の仕事を見て、驚きがあった上で、話のしくみ作りができれば最強だと思いますが、出前授業のハードルが高いとは思わず、自分自身の「最強の」酪農体験に繋げていっていただけたらと思います。
出前授業についての質疑応答
質問者A:加茂さんの話すスピードはかなり速いように感じました。子どもたちは理解できるのでしょうか。また、DVDの子どもたちは、最初からとても興味を持って熱心に授業に参加していましたが、そうではない場合もありますか?
加茂:話のスピードは、授業の時間と話す内容・ボリュームとの兼ね合いがありますが…DVDの授業では確実に速いと思います。彼らは小学5年生でした。高学年はこの速さでも大丈夫だと思いますが、ポイントとなる話題の時はゆっくり話すようにしています。低学年の場合はDVDよりも内容を削って、もっとゆっくり話しています。
子どもたちの質ですが、今まで行った限り、ゲストティーチャーである私の話をきちんと聞こうという意識を持ってくれました。子どもたちが楽しい・興味のある話題を提供し続けることができれば、おおむね大丈夫だと思います。

質問者B:DVDの中で加茂さんが質問を投げかけた際に、手を挙げて発言を待つ子どもと、そのまま自由にしゃべってしまう子どもがいました。発言は特に制限しないのでしょうか?
加茂:その時の学級の様子によって変えます。やんちゃなクラスの時は最初から挙手制にして制御したりしています。
小学校の場合、基本的には手を挙げて発言させるのが大事ですが、全てそうしてしまうと場が堅くなってしまうので、自分の中で押さえたいポイントの話の時とそうではない部分を区別しています。

質問者C:授業の後に感想文等をもらうこともあると思いますが、そういうものを読んで、加茂さんが一番伝えたかったことが伝わっているなと感じますか?
加茂氏:大体の子どもは「いのちの大切さ」が、腑に落ちているように感じています。
ペアワーク
 体験が終わった後、子どもたちがどんな言葉を言ってくれたら、体験をやってよかったなと思いますか?
 体験後に子どもたちに言ってほしい言葉を決めて、その言葉を言ってもらうためにはどんな体験を準備し、どんな話をすればよいか、活動内容をペアになって考えました。
最後に言ってほしい言葉(例)

●牛乳ってすごい!
●乳牛ってすごい!
●酪農家ってかっこいい!

 この他、ペアで自由に「言わせたい一言」を決めてもらいました。

加茂:私は、目を輝かせて「へえ〜」と言ってもらえた時や、授業が終わりに近づいた時に「もうそんな時間!?」と言ってもらえると嬉しいです。
 また、直接的ではありませんが“いのちを大切に”ということを伝えているので、「いのちを大切にしながらごはんを食べたい」と素直に言ってもらえると、嬉しいです。
体験後、子どもたちに「〇〇」と言わせたい!
ペアA
一言:「楽しかった!」「面白かった!」「また来たい!」
対象:保育園の年長
内容:ポイントは、なるべく子どもたちの五感に任せ、反応を見て行動に移す事です。
子どもたちは、だいたい鼻をつまんで牛舎に入ってくるので、どんな匂いかと聞きます。
 そのうち、牛の大きさに目がいき、匂いが気にならなくなったら、牛に触ってもらい感想を聞きます。その後、乳搾りをし、手や鼻でいろいろ感じてもらいます。お乳を出すためにはエサが大切という話をしてから、エサやりをします。その時には、エサ・牛の舌の長さ・耳標・歯など興味を持ったことに対して丁寧に説明をします。
 最後にバルクの中の白い牛乳を見てもらい、バターやアイスが作れたらいいと思います。


ペアB
一言:「酪農っておもしろそう!」
対象:中学生くらいの職業体験に来た子どもたち
内容:将来の仕事として酪農を捉えてもらえるように。
「牛と共に大地を守っている」
 牛の力を借りて、草を刈っている。共に大地を守っている。
「牛は進化し続けている」
 牛はのんびりしているけれど、酪農業界は受精卵移植やスーパーカウなど日々進化している。
「自分のブランドが作れる」
 乳製品を作って世界に売り出すことができる。
「仕事のチャンスがたくさんある」
 酪農は大切な仕事だけど、やる人が少ない。今から酪農の勉強をしたら仕事にできると思ってもらいたい。


株式会社 加茂牧場 代表取締役 加茂 太郎氏

岐阜大学農学部獣医学科卒業。
平成16年 小学校教諭を退職、妻の実家で営んでいた牧場に就農
平成20年 牧場を法人化するとともに義父より経営移譲
平成24年 補助事業を利用し堆肥舎新築
平成25年 牛舎を78頭規模まで増築 搾乳機及び糞尿処理設備の更新
平成26年 自給飼料増産のため、コンビラップ等、作業機器の導入
平成27年 妻が小学校教諭を退職して就農
現在の労働力(本人、義父母、妻)となる。
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