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平成28年度 認証研修会(札幌会場)
−酪農教育ファーム認証牧場における安全・衛生の基準−
平成28年度 酪農教育ファーム認証研修会(札幌会場)が行われました。
酪農学園大学 獣医学群獣医学類感染・病理学分野 村田 亮氏

札幌会場では、牧場における安全・衛生・防疫対策について、酪農学園大学の村田先生に講演いただきました。ご自身も、漫画「動物のお医者さん」に影響を受けて、この業界に入ったとのこと。畜産動物やペット(=家族)が安心で安全に暮らし、快適に生活を送れることを目指して、細菌病の研究を進められています。
村田先生のように、漫画など身近な情報から酪農や獣医の道を選ぶ子も増えているそうで、そんな風に興味を持った子達が実際に牧場や酪農に触れる機会として、酪農教育ファーム活動は重要で意味のある活動だと考えているそうです。

以下、内容抜粋
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◆想定している最悪の事が「起こる」と考えておく
村田:
一番大事なのは、体験者が牧場に来てからではなく「事前の準備」。
畜舎周辺の整理整頓。普段、牧場内部の人間が過ごしている時には何の問題もない物、例えば枯れ草用のフォークや、普段使用している器具、道具、機械等に体験中の子どもが興味を持って近づき、怪我をすることがあります。
私も実感していますが、想定している最悪のことが実際に起こります。それを防ぐために、子どもが立ち入る場所は整理整頓し、異常牛は隔離する。チェックしたことが関係者に分かりやすく、情報共有されていることも大事です。現場の誰か1人が気付いていても、他の人に共有されていないのでは意味がありません。異常牛にはスプレーで大きく書いておく、リボンを付けるなど、関係ない人にも分かるくらいの印をつけるのが良いでしょう。
また、大学の研究室などでも強く言われますが、不特定多数の人が出入りするような受け入れ体験をする場合、悪意のある人の出入りが「ある」と考えて、重機や薬品は鍵をかけて管理をしておきましょう。
◆自分が子どもになったつもりで考える。誰にでもわかりやすい表示、説明を
1.危険区域の事前確認
子どもの目線で、牛舎や敷地内を歩いてみて下さい。いつも見ているものは、自分だけでは気付きにくいものです。一人ではなく、何人かで歩いてみると意見が出て、気付く事もあるでしょう。また、進入禁止区域の情報を関係者で共有しましょう。事前対策がしてあっても、事故は起きます。注意エリアについては、子どもも含め、誰が見ても分かるようにする。更に事前説明として、口頭で伝えることが大事です。事前に口頭で説明したという事実があることで、その後万が一事故が起きたときの免責にもなります。子ども目線、一般の人目線に立って場内を見直してみてください。

2.アレルギー体質の子どもへの配慮
見学前に、アレルギー体質の方は申し出てもらうこと。特に牛舎環境には子ども達が接したことのないアレルゲンがたくさんあります。普段、花粉症等のアレルギーを持った子は、牛に触ってアレルギーを起こす可能性も高くなります。実際に寝わら、おがくずで花粉症の人は涙が出るし、牛舎はほこりっぽいので鼻水も出ます。後は牛のフケです。獣医でありながら私がそうなのですが、牛にふれた部分が被れる。そういう子もいると把握してあげることです。

3.熱中症対策
子どもに限らず大人でも、体調不良や、睡眠不足などの人は注意が必要です。水分補給は、水だけでは逆に悪化する場合もあるので、必ず塩分のはいった水分を補給すること。見学の前後に、水分を補給ができる状態を作りましょう。見学中の水分補給は衛生上よくありません。

4.怪我についての留意点
救急箱を準備しておく。以前は、怪我をすると消毒薬を使用しましたが、最近は治癒が遅れるので使わない方がよいと言われています。更に、以前は傷口を乾燥させて絆創膏を貼りましたが、今は湿潤な環境を保つ方法が一般的です。傷口はぬるま湯で洗い流した後、清潔なガーゼで覆う、または絆創膏を貼るという応急処置をしましょう。消毒は勝手にしないということを覚えていて下さい。
◆感染症が成立する3つの要因の、1つでも阻止すれば感染症は起きない!
感染症の基本対策は、入れない、拡げない、持ち出さない
感染症について学生に一番初めに教えるのが、感染症が成立する3つの要因です。それは「感染源(微生物、微生物をもった動物)」「感受性宿主(感染しうる動物)」「伝播経路」で、この3つが揃って初めて病気が起こります。感染症を難しく考える必要はありません。1つでも欠ければ防げます。
口蹄疫の感染源は、感染した牛や豚です。極少量の口蹄疫ウイルスで感染します。口蹄疫ウイルスはとても小さく、接触、飛沫で感染します。これが「伝播経路」です。傷から粘膜等の体内に入り感染することがほとんどです。皮膚にはバリア機能がありますが、このバリアが破れていて、傷口から微生物が体内に入ると病気になるのです。口蹄疫ウイルスの特徴は、皮膚ではなく目等の粘膜や口、鼻腔などに触れるだけで感染するということ。非常に感染力の高いウイルスです。ウイルスがとても小さいので、“wind-borne disease”(風に乗って飛ぶ)と言われています。普通の微生物は、湿気等があればあまり飛びません。
そして「感受性宿主」である牛、豚、鹿等の偶蹄類の動物に感染します。最近は偶蹄類以外にも感染するという研究結果が出ており、アライグマやイノシシなど偶蹄類だと思われていない野生動物が保有している可能性もあります。口蹄疫は人間にも感染するという情報もあります。感染源の牛や豚からどんなものにも付着し、風に乗り、運ばれ、「感受性宿主」にたどり着くのが口蹄疫です。
◆感染源は、地球上から排除出来ない
「感染源」を排除するために我々はどうしたら良いのか?病原体自体を地球上から無くすのは、非常に困難です。我々が地球上から無くした微生物は、天然痘と牛液ウイルスの2種類しかありません。感染動物の淘汰によって排除することもできますが、野生動物も含め、感染源となる全ての偶蹄類を殺処分することは不可能に近いことです。
今後、皆さんが酪農教育ファーム活動を行うにあたり最も注意すべきは、「伝播経路の遮断」です。キーワードは「他の農場との接触を遮断」です。同じ日に複数の農場の見学を行うのは畜産業界ではタブーです。見学者には、絶対に複数の農場を渡り歩かないよう言ってください。これは口蹄疫の問題だけではなく、農場ごとに持っている病原体が少しずつ違うからです。牛舎周辺への消石灰散布と、踏込み消毒槽の使用で、長靴の底も常に消毒されている状態になります。消石灰は、外部から人が入る場所には常に蒔き続けましょう。流行国からの帰国者を絶対に立ち入らせないことも大切です。2週間以内に東南アジアに渡航経験のある人が体験に来ることもアウトです。堂々と断って構いません。
◆ほとんどの菌は良い菌。彼らが存在することで、バリアになってくれる
お腹の中や皮膚の表面にいる細菌を常在細菌といいますが、基本的には共生関係があります。常在細菌は私達がどんなに手を洗っても存在し、彼らがいることで、悪い菌が入って来た時のバリアになります。一方、一過性細菌は、寄生の状態を起こすものです。常にいる菌ではなく、何かの拍子で体の中に入ってしまい、悪さをします。日和見感染と言って、普段は常在細菌でも、人の体調が悪く、免疫が下がっているときは、悪影響を与える細菌もいます。そのため、体験者の事前の体調管理が重要になってくるのです。
◆自然に手洗いが出来るような、手洗い施設の設置、経路作りを
感染を防ぐために、手洗い施設の設置や手洗いの励行を推進して下さい。体験者1人1人を監視することは難しいので、自然に体験者が手を洗える、消毒できるようなルート、経路作りをしてください。
1.手洗い場は、来場者が動物エリアから退出する際、実行できる場所に。
2.入場者数に十分対応可能な数を設置すると共に、十分な水量を確保。
3.手洗いは流水で行い、貯留水は使用しない。
4.小児やハンディキャップを有する来訪者でも使用しやすいよう設計する。
5.石鹸(できれば液状石鹸)を常備する。
6.ペーパータオルを常備する。
7.特に冬期には温水を供給できることが望ましい。
8.給水栓は自動あるいは足で操作できることが望ましい。給水栓の操作をする場合は手を拭ったペーパータオルを用いる。
9.消毒薬は必ず手洗い、除水の後に使用。
 汚れたまま、濡れている状態の手に消毒をしても意味がありません。手を洗っても、生乾きのままであれば、細菌数はむしろ増えています。手洗い、乾燥、消毒を徹底して下さい。汚れは落ちますが、見えない菌はなかなか減らないので、気を付けて下さい。
質疑応答
参加者:
搾乳体験の前に、石鹸で手を洗ってもらい、そのあと消毒してもらうのですが、電解水を使用しています。電解水は消毒に効果がありますか? また、手を洗ったあと、そのままの状態で電解水を付けてもよいでしょうか。手洗いの後は手を拭いてから電解水を付けて、電解水のあとも拭いた方が良いのか教えて下さい。
村田:
電解水は論文等も出ており、消毒効果があります。ただ、とても強い消毒剤ではないので、手を洗って、濡れた状態で使用してもその瞬間に希釈されてしまいます。手洗いの後は、ペーパータオルでしっかりと水分を拭きとり、消毒後も拭いて下さい。やはり濡れたままでは、効果が落ちます。

参加者:
乳搾り体験の前にはどういった消毒薬が一番効果的ですか?
村田:
乳搾り前は低刺激のもの、電解水や、アルコールで良いと思います。乳搾り後は、もう少し強いもので、塩素入りのもの、アルコール消毒後に、オスバンが入ったものを使用すると食中毒の予防になります。乳搾り前には低刺激のもので十分かと思います。
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