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平成29年度 教育関係者対象・酪農教育ファーム研修会(兵庫県)
−講演−
酪農継続の夢と未来
酪農家 西山 農一氏

 皆さんが持っている酪農のイメージはどんなものですか?
 乳牛を育て、生乳を搾るのが酪農の仕事ですが、僕はそれにプラスする要素として、本日の研修会も含めいろいろな体験を通して酪農の様々な面を見つけて楽しく仕事をしています。
酪農の楽しさってなんだろう…
 元々両親が酪農を営んでおり、私は農業高校、北海道の酪農学園大学へ進学、酪農の勉強をした後、実家に戻って就農しました。
酪農の仕事を始めて半年が経ち、作業に慣れてくると、毎日乳を搾り、牛を売ってお金にする、その繰り返しが正直しんどいなと思いはじめてきました。
 そうしているうちに、就農と同時に始めたアイスクリーム屋が軌道に乗ってきたこともあり、何が本当の仕事なのか分からなくなり、酪農よりもアイスクリーム屋の仕事の方が良いのではないかという気持ちでした。
 現在、兵庫県の酪農家戸数は300戸を切っています。10年前には600戸以上あったそうです。この地域でも私が就農した16年前には11戸ありましたが、今では4戸にまで減ってしまいました。
 私の父が酪農を始めた40、50年ほど前は、酪農の好景気の時代だといわれています。本当に良い時代で、両親は大きな牛舎を建てて酪農を始めました。当時うちと同じように酪農を始めた経営も、現在では建物が老朽化し、後継者がいなければ辞めてしまう方が多いようです。さらに、輸入飼料価格の高騰や、生乳の価格が下がるなど、酪農にとって厳しい状況が続きました。酪農を続けていくには設備への投資も必要です。酪農を巡る情勢の厳しさと相まって、私の酪農へのモチベーションも上がらない中、「酪農教育ファーム活動」と出会いました。
酪農と6次産業が支え合って成長していく
 私が就農する前に、私の母が酪農教育ファームの牧場認証を取得しました。
私が就農し5年が経った頃、母からバトンを受け取って体験活動を始めました。学校教育の中でも生命学習や食育等が重要視され、旅行会社から牧場体験を取り入れたいという問い合わせもたくさんきました。
 活動を続けて10年経った頃には、牧場での年間体験受入人数が1、000人を超えました。体験料をいただいて、話をして、酪農体験してもらって、最後にうちのアイスクリームを食べて帰ってもらう。これがだんだんビジネスとして成り立ってきました。そして、体験に来る人に自分の知る酪農の話をするうちに、酪農の楽しさに気付いたのです。
 牧場では搾乳やエサやりなどの体験を、お店では乳製品を販売しています。最初は別々だと思っていた酪農と6次産業が繋がっていきました。そうすると両方が支え合って成長していく実感があり、さらに楽しくなりました。
 アイスクリーム屋を始める話が出たのは、私がちょうど大学2年の終わり頃でした。母から電話があり、「アイスクリーム屋を始めるから、大学でアイスクリームの勉強をして帰ってきなさい」と言われました。私は就農する気はありましたが、アイスクリーム屋をやることは頭になく、当時の地元には外から人を集客する施設もありませんでしたので、「そんな所でお店を始めるなんて何を考えているのだ」と反対をしました。
 ところが実家へ帰ると実印が用意されていて、私は何も分からないままハンコ押してしまって、気付けば4、200万もの借金を背負っていました。「なにが何でもやらなければならない!」という思いで大学に戻り、食品関係の研究室を選んで必死に勉強しました。
 「どんなものを作ろうか。その辺のアイスクリームの屋にあるものを作っても面白くない」と、試行錯誤しました。なにか使える素材はないかと地元のことも調べました。反対していた時は何もないと思っていた田舎にも、魅力的なものがたくさんあるに気がつきました。今では季節限定も含めると年間80種のアイスクリームを作っています。
 アイスクリームの製造は私1人でやっています。なぜかというと“商品に説得力を持たせたい”からです。私が搾った牛乳を、私が加工して、私が売っているという付加価値をつけています。
 酪農と6次産業と酪農教育ファーム活動の3つで補い合いながらやっていく。そうするとそれぞれがうまく回っていきます。
思い描く未来図
 大学2年で負った借金は順調に返済が進み、更に牧場への投資に回すことができる程でした。昨年、牛舎を新しく建てなおし、チーズの加工とそれを使ったピザのレストランもオープンすることができました。
 新しい牛舎を建てたのは、ただ古くなったというだけではなく、作業性を考えたからです。父をそろそろ引退をさせてあげたい気持ちがあるので、僕と兄で回せるように考えています。また、こんな良くない環境に牛がいるのかと思われないような牛舎を目指そうと試行錯誤しました。
 ゆくゆくは自分のところでオーガニックミルクを生産して売りたいと考えています。今までは普通の牛乳に手を加えて付加価値を付けて販売していましたが、次のステップとして牛乳自身に付加価値を付けていきたいと考えています。ミルクプラント、土産物屋、娘がやりたいと言いている菓子工房を作って…と夢は膨らみます。
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