平成29年度 酪農教育ファーム『夏の研究集会』−事例報告−
「清水牧場がサポート、小学校での『子牛の飼育』」
刈谷市立小垣江東小学校校長 柴田 芳之氏
 刈谷市立小垣江東小学校校長 柴田 芳之氏
 私は、昨年度より小垣江東小学校の校長を務めています。小垣江東小学校の代々の校長は「清水牧場さんの方に足をむけて寝るな」と聞かされます。
 本日は、清水牧場さんのお力を借りて今年で18年目になる、学校での子牛飼育についてお話しします。
小垣江東小学校の特色
 本校は児童数253人、学級数は特別支援学級1クラスを入れて11学級の刈谷市で一番小さな学校です。本校の3つの特徴について説明します。
1.ふれあいチーム
 小規模校なので、個別指導が行いやすい利点がありますが、社会性の育成に制約を生じるなどの課題もあります。そのため社会性、思いやりの心を育てるための手立てとして6学年を縦割りにした「ふれあいチーム」を組織し、活動をしています。
 活動を通して高学年は低学年の子にやさしく接することができるようになり、低学年にとって高学年の子の振る舞いがお手本となり、自分の学年が上がった時に下級生に優しくできるようになります。

2.ホタル飼育
 小垣江ホタル会というホタル保存会の方達のサポートを受けながら、ヘイケボタルの飼育に取り組んでいます。今年で11年目を迎えます。
 卵からかえった幼虫の世話は4年生が毎日行います。毎年ホタルの鑑賞会を行いますが、たくさんの保護者や地域の方々が来てくれ、光りながら舞うホタルに歓声が上がります。子どもたちはホタルの飼育を通して、命を育てることの大変さ、喜び、そして命を支える環境の大切さなどに気付くことができます。これは子牛飼育の素地にもなっています。

3.子牛飼育
 本校が子牛飼育を始めたのは平成12年度、「総合的な学習の時間」が全国で一斉に導入された年度です。地域の特性をテーマに教材探しを始め、学区内の清水牧場さんに目を付けました。
清水牧場さんは地域に広く牧場を開放し、地元の小学校を中心に子どもたちを受け入れていたので、すぐに協力していただけることになりました。当初は牛を飼う予定はなかったのですが、当時の校長の、「学校で牛を飼ったらどうだ」の一言で、お願いをすることになりました。清水さんには快く引き受けていただき、現在まで18年間続いている子牛の飼育がスタートしました。
 学習にあたり、単元の構成は年度により少しずつ変えながら、いのちと向き合う学習となるように努力しています。
1.単元構成の工夫
 身体を使うさまざまな感動体験を入れること、自分たちの取り組みを振り返らせる場を設定すること。
2.命に対する思いを交流させる場の設定
 目的に合わせてクラストークや学年トークを取り入れること、清水牧場の方の思いを子どもが受けとめる場や、子ども相互の交流の場を設定すること。
子牛を迎えるまで
 まずは牛との出会いです。
 導入として、「牛とふれあう」という学習課題で清水牧場への見学に行きます。牛のあまりの大きさに、子どもたちはとても驚きます。恐る恐る牛の近くに寄っていきます。また、牛が食べているえさを見せていただくと、子どもたちは手に取って感触を味わったり、においを嗅いだりします。ここまででは牛は怖いという印象を持った子もいるようです。
 2回目の清水牧場訪問では、酪農体験をさせていただきました。
 えさやりや乳搾り体験の他、子牛の心音も聞かせもらいました。はじめは嫌がっていた糞かき体験もやってみると楽しく、何よりきれいにすると牛が気持ちよくなってくれると思うようになります。ホタルの飼育を通して環境整備の大切さを学んでいるので、少し嫌だと思うことも進んでやる様子が見られました。
 4、5年生合同での集団トークを実施し、どんな牛に育って欲しいか願いを込めた名前を考えたり、スローガンを決めたりしました。
 受け入れ準備が整うといよいよ子牛の入学式です。入学式ですので、校長式辞があり、在校生歓迎の言葉、スローガン発表、清水さんから来賓祝辞もいただきました。
 入学式が終わると、いよいよ子どもたちによる子牛の世話が始まります。
子どもたちは班で協力して子牛の世話をします。朝登校すると牛を小屋から放牧場まで連れて行き、その後小屋の掃除をします。夕方は再び放牧場から小屋まで牛を連れて行き、放牧場の掃除をして活動が終わります。子どもたちはいうことをきかない子牛に四苦八苦します。小屋から牛を連れだすだけでも大仕ことで、時には牛が逃げ出しそうになったこともあります。
 うまく飼育や掃除ができず困っているタイミングを見計らって学年トークを行い、自分達が困っていることを話し合いました。
 子どもたちは困ったことを経験しているので解決したいという強い意欲が生まれます。また、経験をもとにお互いアドバイスをし合うため、説得力があります。普段のふれあいチームでの人間関係が良好に働き、他学年の子の意見も聞き入れることができ、問題解決に結びつけることができました。
いただきますは感謝の気持ちでいのちをいただくこと
 子牛の卒業が近づくにつれ、この子牛がこの後どうなるのかという疑問がでてきました。そこで子牛の今後について考える授業を行いました。インターネットで牛の一生を調べました。牛の寿命は20年です。しかし、飼育されている雌牛でも7年程で食肉になってしまう事実を知ります。子どもたちは、なぜそんなに早く殺されてしまうのか、かわいそうなどの声をあげました。実際に毎日牛の世話をしている子どもたちにとって、牛を食用にしている事実は納得しがたい気持ちが強かったのだと思います。
 子牛の卒業が近づくにつれ、この子牛がこの後どうなるのかという疑問が出てきました。そこで子牛の今後について考える授業を行いました。インターネットで牛の一生を調べました。牛の寿命は20年です。しかし、飼育されている雌牛でも7年程で食肉になってしまうことを知ります。子どもたちは、なぜそんなに早く殺されてしまうのか、かわいそうなどの声を上げました。毎日実際に牛の世話をしている子どもたちにとって、牛を食べるということを納得しがたい気持ちが強かったのだと思います。
そこで子どもたちの考えに揺さぶりをかけるため、実際に牛で生計を立てていくにはどれだけのお金が必要かという資料を提示しました。
とある酪農家では、エサ代月に500万、電気代月に40万、保健代年間300万、獣医費用1月20万。その他修繕費や人件費などがかかります。これにより酪農家の立場を考えられるようになりました。
なぜ飼い続けることができないのかと最初は疑問を持っていた子どもたちも、乳を出さない牛を飼い続けることはそれだけ費用がかさむことだから仕方ないと思うようになりました。
 子どもたちの意見が出尽くしたところで、清水さんからのメッセージを伝えました。
「牛はかわいいけれどペットではなく、経済動物。愛情をかけすぎないようにしている。いずれは私達が食べることになる。命をいただいているということに感謝の気持ちを持ってほしい。食べるときは残さず食べて、いただきます、ごちそうさまをちゃんと言って欲しい」
 これらの学習がもとで、現在、小垣江東小学校は給食の残食率が少ない学校になっています。
いのちに触れたことで、子どもが変わる
 「いのちってあたたかいね」と言った子がいました。勉強がとても苦手で、人にいじわるすることもある子どもの言葉です。牛に直接触れたからこそ実感として出てくる言葉かなと思っています。

 来年度、わが校に肢体不自由な子のための特別支援学校ができます。そのため、ホタル小屋や牛小屋までの道がバリアフリー化され、車いすでも通れるようになりました。子牛の飼育もホタルの飼育も特別支援学校の子たちと一緒にやっていきたいと考えています。
17年間の変化
子どもたちの変容
・いのちの大切さについて考えられるようになった
・いのちをいただいて、じぶんのいのちがある
・自分のいのちは自分だけのものではない。自殺なんてとんでもない
・すべての動物はほかの動物のいのちを貰って生きている
・いのちは繊細、いのちはたくましい
17年間継続している秘訣
・サポートしてくれる人たちの存在なによりも大きい
・清水牧場さんが協力してくれることを当然だと思わないこと
・職員たちが子どもたちの変容に手ごたえを感じている
・過去の飼育のノウハウなどがデータ化されている

地域に愛されているからこそ続けてこられた
清水牧場 清水 ほづみ氏
 「酪農家はとにかく地域に嫌われてはいけない」という父の考えがあり、前々から地域に根付いて牧場を開放していました。
総合的な学習の時間が始まった時に、教育現場の方からたまたま清水牧場に目を向けていただいて、地域と連携し子どもたちや消費者に酪農を知ってもらう機会と場を提供できるようになったことが大きく、17年間続いたのだと思います。
 小垣江東小学校は地域に愛されている学校です。地域のおじいちゃんやおばあちゃん、2世代3世代が小垣江東小学校に根付いて、子どもたちを育てるためにどうしたらよいかを考えています。子牛やホタルの飼育も、地域が協力的であるからこそ17年間続いたのだと思います。
 恵まれた地域で牧場をやってくることができたことが一番大きいと思います。これからも学校教育に全面的に協力していきたいと思っています。
質疑応答
Q.学校で子牛を飼い始める時にご近所から苦情などはありましたか?
A.柴田先生)幸いなことに学校の周りに民家が少なく、あっても子どもがいる家で理解があり、特に苦情はなかった。今はさらに理解が進み、近所の人も心待ちにしてくれています。

Q.体験のために総合的な学習の時間は何時間使っていますか?
A.(柴田先生)27年度は43時間使いました。

Q.雌牛を貸すのに抵抗は?
A.(清水さん)子どもたちが飼育した牛が、清水牧場へ戻ってきた後も見に来ることができるようにというのが基本にあるので、雌牛を貸すことを続けています。貸出した子牛が大きくなって子どもを産んで、その子どもを育てた学年もいます。いのちの連鎖を感じることは、親や兄弟を大切にする気持ちに繋がります。「清水牧場はなぜ雌牛を貸すのか?」というテーマで学習をした学年もいました。

Q.子牛を子どもたちに任せることへの不安はありませんでしたか?飼育の指導はしていますか?
A.(清水さん)飼育までに4回ほど牧場へ来てもらいます。飼育方法について簡単に話しますが、学校で事前学習をしていることと、校内に飼育を経験した先輩たちがいるのでアドバイスがもらえるので、詳しくは話しません。よっぽどのことがない限り私は学校へは行きません。
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