スゴいぞ!牛乳。飲んだら、ええよう。  >>>                             



VOICE

需給動向
緊急提言
日本から牛乳と牧場が消える日

日本人の食生活に欠かせない牛乳乳製品
 牛乳・乳製品は、私たち日本人の食生活に欠かせない食品です。牛乳・乳製品は消費者の皆さんが直接飲む、食べるなどの消費だけではなく、ケーキやパン、ピザ、お菓子、パスタ、冷凍食品など多くの食品の原材料に使用され、消費されています。現在、日本人の1人1日当り牛乳・乳製品の消費量は、253gとなっています。消費量が落ちたと言われながらも主食である米の消費量が167gですので、その約1.5倍の量を、毎日、何らかの形で消費していることになります。

世界的に牛乳・乳製品の需給はひっ迫、価格は高騰傾向
 牛乳・乳製品の消費量は、経済発展が著しい中国やインドといったアジア諸国やロシアなどで急増しています。一方、生乳生産量は、オセアニア、EU、アメリカといった主要国において需要増分を賄える水準まで増加していません。特に豪州においては、2006年後半からの気温上昇、少雨等による気象状況の変化により干ばつが広がり、被害は100年に一度といわれるほどの規模に拡大しました。このため、牛乳・乳製品需給は世界的な規模で、ひっ迫傾向を強めています。
 また、EUにおいて輸出補助金と呼ばれている、輸出乳製品の安売り奨励金が段階的に削減され、本年には廃止されることとなりました。 
 これらの結果、バターや脱脂粉乳、チーズといった乳製品の国際市況は高騰し、現在、製品によっては輸入乳製品価格の方が国産より高くなっています。
 また、EUが2007年5月に公表した世界の農産物市場の見通しにおいて、乳製品について、『世界の消費の半分を占めるアジアにおける消費拡大を背景に、今後10年間の市場は緩やかな拡大を続ける。価格についても今後10年間は上昇すると見込まれ、FAPRI(米国議会により設立された「食糧および農業政策の研究所」)の分析では40%上昇する』とされています。今後も世界的な規模で、牛乳・乳製品需給のひっ迫傾向、価格の上昇は続くと見通されています。

原油価格高騰により農産物需給も世界的にひっ迫傾向
 現在、世界的な規模でさまざまな農産物需給がひっ迫しています。原油高を影響に新たなエネルギーとしてバイオエタノール需要が増加しているからです。バイオエタノールは、トウモロコシなどを発酵させて作るアルコールの一種で、ガソリンに混ぜると自動車燃料として使えます。近年、原油高を背景に、アメリカを始め世界的に需要量が急増しています。この結果、とうもろこしの国際市況は高騰し、本年2月には1年前に比べ約2倍の水準にまで達しました。その後は、上昇と下落を繰り返しています。需給については、本年5月にUSDA(米国農務省)が公表した報告書においては、『エタノール生産の拡大によるトウモトコシ需要の増加により、トウモロコシの期末在庫率(年度末在庫の需要に占める割合、2005年度末では17.5%)は、今後10年間4〜6%台で推移し、トウモロコシの需給ひっ迫は短期的には解決されない』との見通しが公表されています。
 こうしたトウモロコシ需要の増加に対応するため、世界各地においては、小麦、大豆、果樹といった農産物の作付け面積を縮小し、代わりにトウモロコシの作付けを拡大するという対応を行なってきています。この結果、小麦、大豆といった農産物の国際市況も高騰し、小麦と大豆は1年間で、1.5倍以上の水準に達しています。

相次ぐ食品価格の値上げ
 こうした世界の食料需給の影響は、既に、国内食料品の小売価格にも影響を与えています。果汁飲料については、本年5月に値上げが実施されました。また、小麦価格の高騰を背景に、日清製粉などは、既に即席めんやパスタの希望小売価格改定が予告されています。さらにファミリーレストランなどの外食産業においても原材料価格の高騰を理由に値上げの動きが出てきています。
 トウモロコシ価格の上昇は、牛や豚、鶏といった家畜の飼料価格の高騰も招いており、この結果、日本ハムや伊藤ハムでは、ハム・ソーセージなどの加工食品の値上げが実施されました。
 牛乳乳製品については、世界的に牛乳価格が値上がりする傾向にあり(詳細はミルククラブ66号を参照)、日本国内においては、消費量に占める輸入品の割合が高いチーズについて、国際市況の高騰を背景に、本年2月以降各社値上げが実施されてきています。

悲鳴を上げる国内酪農
 酪農家の手取り乳価は、過去10年間で2.4円/kg以上低下しています。全国の酪農家は、規模拡大や飼養方法、家畜改良の推進による1頭当り乳量の増加などのコスト削減努力、利益率の低下などにより、乳価低下分を酪農経営内で吸収して来ました。
 しかし、とうもろこし価格の上昇などは、かつて国内酪農が経験したことのない程の厳しい環境に酪農経営を追い詰めています。飼料用とうもろこしを原料にした配合飼料価格は、本年7月、昨年に比べて11円/kg程度上昇しています。この他、牧草などの粗飼料なども豪州における干ばつの影響などにより、上昇傾向にあり、乾牧草の輸入価格も昨年に比べ5円/kg程度上昇しています。
 これらの流通飼料費は、生乳生産費の4割程度を占めているため、上昇分を酪農経営内で吸収することができず、今後は倒産に追い詰められる酪農経営が続出することも懸念されます。また、他産業と同様、原油価格の上昇も酪農経営の圧迫要因となっています。

国内での生乳生産の安定が必要
 これらの状況が今後どのように推移するのか。これを正確に見通すことはできません。何故なら、どれも初めて経験することだからです。しかし、このまま状況が変わらなければ、まず、多くの酪農家が廃業に追い込まれ、国内での生乳生産が大幅に減少するでしょう。さらに海外からの乳製品も輸入量が減少し、価格が高騰するでしょう。そうなれば最悪の場合、国内での牛乳・乳製品は、富裕層が飲む高級食品という位置づけとなり、一般家庭の日常的な食卓から新鮮な牛乳や手ごろな価格の乳製品が姿を消してしまう可能性もあります。
 言い古された言葉ですが、農業は自然を相手にした産業で工業とは異なります。さらに牛乳や乳製品は、生鮮食料品であり、長期保存や備蓄が出来ません。数ある農産物や食品のなかで、特に作りだめが効かない食品です。
 にもかかわらず、日本の牛乳・乳製品の自給率は毎年低下しており、今や70%を割り込んでいます。それは、海外の安価な乳製品への依存を、日本の食品産業が強めた結果でもあります。こうしたことが、日本の食卓にとってどのようなリスクを孕んでいるのか。私たちは身をもって知ることになるかも知れません。いずれにしても重要なことは日本の酪農家が、安心して生乳の生産を継続できる環境を作ることではないでしょうか。

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