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国際交渉
WTO農業交渉、年内の合意へ動き出す
日豪EPA交渉は4月から本格化
 昨年7月から中断していたWTO(世界貿易機関)の今次多角的貿易交渉「ドーハラウンド」が、今年1月下旬から再開し、主要国を中心に交渉が活発化している。主要国は今年中に、農業分野を含めた全分野の最終合意を目指しているが、輸出国、輸入国、途上国の各グループ間で依然として主張に隔たりがあり、予断できない状況だ。
 その一方で、WTO交渉は多国間の利害が複雑に絡んでなかなか進展しないため、2国間・地域で貿易の自由化を図るFTA(自由貿易協定)を柱にしたEPA(経済連携協定)交渉が国際的に進んでいる。日本も今年4月から、これまで交渉したことのない農産物輸出大国の豪州との間でEPA交渉を始めている。日本の酪農に大きく影響を与えるWTO農業交渉と日豪EPA交渉の現状と見通しを紹介したい。

WTO農業交渉、07年中の合意に向け活発化
 WTO農業交渉は昨年7月、WTO加盟国(150カ国)共通の貿易ルールの大枠である「モダリティ」が確立できずに交渉が中断した。
 しかし、今年1月にスイスで開かれたWTO非公式閣僚会合で事実上の交渉再開が決定。その後は、米国、EU、ブラジル、インドの主要国4カ国(G4)に、日本、豪州を含めた主要6カ国(G6)が2国間会談を頻繁に行い、4月12日にインドで開かれたG6閣僚会合では、07年(平成19年)中の最終合意に向けて交渉を加速化する閣僚声明をとりまとめたほか、交渉の進展のために、日本と豪州が共催で5月下旬にG6閣僚会合を開催する予定を決めた。
 中断していたWTO交渉が、今年に入って活発化してきた大きな理由としては、米国の議会がブッシュ大統領に与えているTPA(貿易促進権限)が今年6月末で期限切れを迎えるためとみられている。仮に、米国大統領のTPAの期限が切れ、効力を発しなくなった場合、交渉で決まった内容が米国議会の反対で修正されたり、承認されないケースが生じてしまい、せっかく多国間で決まった交渉内容が米国内の政治的な理由で合意できず、交渉がさらに先送りとなる可能性があるためだ。
 このため、米国以外の主要国やWTO事務局は、米国のTPA期限を睨みながら交渉を活発化させているが、今次交渉の大きな焦点である農業分野では、米国などの輸出国、日本など輸入国、ブラジルなど途上国の間で、農産物の関税率の削減幅などで主張に大きな隔たりが生じている。

米国の国内支持削減が進展のカギ
 今次交渉の大きな焦点である農業分野では、国内の農業補助金など国内支持、関税率の削減幅などの市場アクセス、輸出補助金などの輸出競争の3分野が交渉の主要テーマとなっている。  特に、主要国の間では、関税率の削減幅や対象品目、関税削減の対象外とする重要品目(センシティブ品目)の数や取り扱いなど市場アクセス分野を中心に主張が大きく異なっている。  日本など食料輸入国で構成するグループ(G10)は、国際競争力のないコメや脱脂粉乳、バターなどを重要品目としてしっかり位置づけ、輸出国側が求める大幅な関税削減の対象外にしようと主張している。  これに対して、米国など輸出国側は、上限関税を設定して現行の関税率を大幅に削減したり、重要品目の数を最小限にするなど、輸入国側に市場開放圧力を強めている。しかし、米国は国内の農業補助金の大幅な削減に躊躇しており、この点が今後の交渉進展のカギとなっている。  こうした中で、農業交渉のまとめ役であるファルコナー議長(ニュージーランド大使)は4月30日に加盟国に対して、農業分野の交渉の論点などをまとめた「議長案」を示した。議長案の中では、日本が最も関心のある重要品目の数を「1〜5%」とし、G10が主張する「10〜15%」と大きく離れ、非常に厳しい内容となっており、果たしてこの議長案が今後の交渉を進展させるものになるかどうか、今後の交渉の行方は予断できない状況となっている。

農産物輸出大国と初のEPA交渉へ
 一方、多国間によるWTO交渉とは別に、2国間の貿易、サービスなどの自由化を図るFTA、EPA交渉が世界的に進んでいる。日本の場合、シンガーポール、メキシコなどとFTA、EPAを締結してきたが、いずれの国の場合でもコメや乳製品などの重要品目はFTAやEPAの対象外とし、国内の酪農、農業に大きな影響がなかった。  しかし、昨年12月、日本と豪州政府の間で日豪EPAの可能性について検討してきた報告書がとりまとめられ、日豪間でEPA交渉を開始することが決定。今年4月23、24日に豪州で第1回会合が開かれた。  日本が豪州のように世界的な農産物輸出大国とEPA交渉を開始するのは初めてとなる。仮に、今回のEPA交渉ですべての農産物の関税が撤廃され、豪州産の安い農産物が「関税ゼロ」で日本に輸入された場合、日本の農産物は価格面でまったく対抗できず、農産物主産地の北海道を中心に、日本の農業は壊滅すると心配されている。農水省は乳製品など4品目の生産額は7900億円減少すると試算、関連する食品産業など地域の経済・社会にまで大きな影響を与えると予測している。  このため、昨年12月にまとめた報告書では、乳製品など重要品目は関税撤廃の「除外・再協議」とし、これが受け入られない場合は交渉を中断するという条件が盛り込まれ、交渉に入ることになった。  4月の第1回交渉では、今後の交渉は2〜3ヵ月に1回程度で開くことや、交渉分野は物の貿易、投資、エネルギー・鉱物資源など幅広く設定したが、具体的な交渉期限は決めなかった。次回交渉は7月に日本で開催する予定だが、乳製品などの農産物を安く生産、輸出できる豪州との間で、貿易の自由化に向けた交渉が難航することは確実だ。

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