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2005.WINTER Vol.25
VOICE


 牧場という生産現場を通して児童・生徒への体験学習の場を提供するだけでなく「思い」や「考え」を伝えたいという酪農家と、「命」や「食」などについて子どもたちに適切に教えることができる環境や場所を求めていた学校関係者。この2つの「要望」を結びつける形で、中酪が酪農教育ファーム活動を提唱しました。
 しかし、酪農教育ファーム推進委員会が設立されるまでは、日本には牧場を酪農体験学習の場として活用するという発想も、実際に牧場を教育現場として活用している具体例もなかったため、関係者の取り組みは全くの手探りのなかで行われました。
 一方、海外に目を向けますと「農業先進国」のフランスでは、酪農をはじめとした農業の生産現場を活用した教育的取り組みが組織的に行われていました。そこで酪農教育ファームの関係者は、「フランスにおける教育ファームの実態」を視察するため、現地を訪れました。
 なお、フランスにおける教育ファーム活動に関する最近の調査では、それらの体験学習を実施している受け入れ農場戸数は1400戸(農家戸数の約0.2%)となっています。これら先進事例の視察だけでなく、酪農現場と教育をどう結びつけるのか、あるいは目的やねらいをどこにおくのかなどの議論が活発に行われました。
 酪農教育ファーム活動の議論の帰結として平成10年7月に、今後の活動の中核となる酪農教育ファーム推進委員会が設立されました。また、酪農教育ファーム活動への社会的関心が年々高まっていくなかで、受け入れ牧場が酪農体験学習の場として適切であるかどうかを見極める必要があるのではないかという議論が起こりました。これらの議論や協議結果を踏まえ、訪問者を受け入れる牧場として最低備えなければならない設備や留意点などを取りまとめ、牧場に対する認証を行う「酪農教育ファーム認証制度」が平成13年1月に創設されました。この制度に基づき、認証委員会によるレポート審査や認証研修会を経て認証を受けた牧場は、平成16年4月現在、全国で174カ所となっています。
 内部に対しては、今後の活動のよりどころとなるものとして、一方、外部に対しては、酪農教育ファーム活動に対する社会的認知の醸成を図ることを目的として、平成15年度、酪農教育ファーム推進委員会は、新しい目的と定義を決定しました。以下に酪農教育ファーム活動の新しい目的と定義を紹介します。
 目的:「酪農体験を通して、食といのちの学びを支援する」
 定義:「酪農や農業、自然環境、自然との共存関係を学ぶことができる牧場や農場」
 現在、酪農教育ファーム推進委員会が設立されてから6年余りが経過していますが、酪農教育ファームの認証を受けた174の牧場が全国で酪農体験学習などを実施しています。
 また、平成15年度に実施した来訪者調査では、認証牧場への訪問者数は児童・生徒を中心に年間約22万人となっています。また、これまでに牧場を訪れた小・中学校は965校にのぼっており、このことからも酪農教育ファーム活動がある程度、社会的に認知されてきている実態が伺えます。
この活動の両輪である酪農関係者と学校関係者のねらいや目的について少し整理してみたいと思います。酪農家をはじめとした酪農関係者のねらいは主に若年層に対する酪農理解と牛乳・乳製品の消費定着活動です。
 一方、学校関係者においては、命、食、自然、産業、労働など多くのテーマが学べる場や機会として、牧場や農場を学習に活用することです。あるいは「思い」や「考え」を伝える酪農家の言葉も、双方にとって重要な要素となっています。さらには、これら2つの目的やねらいは、決して相反するものではなく、お互いに補完しあっているということです。
 酪農教育ファーム活動は、決して一方だけの「ねらいや目的」だけで成り立っているわけではないということが、活動の原点であり非常に重要な点でもあります。さらにつきつめていえば、酪農教育ファーム活動は、酪農家と学校関係者が一体となって行う活動であるということが、結果として、この活動に社会性が付与されていく背景となっていますし、活動の拡大が社会的認知を高めていくことにもなります。もちろん、酪農教育ファーム活動を支援してくださる他の団体や組織との連携を常に意識し、取り組んでいくことも大切です。
PHOTO  例えば、現在の来訪者数を5年後に10倍にすることを目標にして、本活動の社会的認知を拡大していくためには、これから先どんなことに取り組む必要があるのでしょうか。当活動は、酪農家自らが行う地域密着型農村都市交流活動が基本となっています。このため、活動体制の強化策としては、地域毎の特性を生かした活動が円滑に行われるための環境整備が一つの検討課題になるのではないかと思われます。
 具体的なイメージとしては、現在、中央と認証牧場との構成要素のほかに新たに地域活動拠点という要素を追加する、あるいは受け入れ態勢強化対策としては、認証牧場の加入促進という課題がありますが、これについては、酪農教育ファームによる加入促進活動の強化はもちろんのこと、交流活動を行っている酪農家の組織である地域交流牧場全国連絡会と連携した取り組みも考えられるのではないでしょうか。
 学校関係者への普及啓発活動については、受け入れ牧場、地域活動拠点、中央がそれぞれの機能のなかで実施するほか、三者が一体となって統一的に実施する活動も今後の検討課題になると思います。また、酪農教育ファーム活動を強力にバックアップするテキストなどの支援グッズの拡充というのもあります。もちろん活動に必要な予算の確保という大きな課題もあります。いずれにしても、酪農教育ファーム活動の今後の拡大展開を図る上で、酪農家をはじめとした酪農関係者あるいは学校関係者、さらには行政や関連団体などの皆様には、当活動に対する一層のご理解と力強いご支援が不可欠となりますので、今後ともよろしくお願いいたします。 最後に、酪農教育ファーム活動は、児童・生徒が牧場を訪問し行う酪農体験学習がその大部分を占めていますが、周辺に訪問できる牧場が少ないなどの理由で、実際に牧場での酪農体験を行う機会に恵まれない都市部の学校関係者や児童生徒を対象に、移動酪農体験学習を実施しています。これは実際の牧場での酪農体験学習とは全く同一のものではありませんが、その考え方・取り組み手法は酪農教育ファーム活動方針や理念と同一なものなので、参考として最近、実施された事例を次にご紹介いたします。

PHOTO  平成16年11月12日、東京都杉並区立松ノ木小学校で、全校生徒(238名)を対象に「わくわくモーモースクール」が開催されました。
 あいにくの小雨模様のなか、渋滞で到着が遅れた親牛1頭、子牛2頭がトラックで運ばれてくると、体育館で待機していた子どもたちの間から「牛が来た!」と歓声があがりました。その後、子どもたちは学年ごとにグループに分かれ、『牛乳・乳製品コーナー』と『酪農体験コーナー』を順番に見学。『牛乳・乳製品コーナー』の『牛乳が出来るまで』の授業では、プロジェクターを使い、牧場で搾乳されるところから工場に運ばれ、瓶詰めされる場面までを画像で見て、「すごい」「勉強になる」との声が聞かれたほか、『牛乳工場の仕事』の授業では、牛乳からチーズやバター、アイスクリームなどが作られることを説明されると「牛はすごいね」という感想も聞かれました。
 『酪農体験コーナー』では、牧場で使う道具や牛の飼料が展示され、手で触ったりして興味津々の様子でした。そして、待望の親牛との対面の場面では、酪農家の方から「牛さんは怖がりだから、大声を出したり、後ろを歩かないでね」と説明を受け、おそるおそる近づいて、親牛に触っていましたが、「あったかい」「気持ちいい」などの感想が聞かれました。さらに、高学年による乳しぼり体験もあり、みんなじょうずに乳をしぼり、感激した様子でした。また、子牛への哺乳体験では「かわいい!」の連発で、とくに低学年の子どもたちに人気でした。
 このほか、高学年を対象にした『バターづくり』や『ケーキづくり』も実施。とくに、生クリームからバターができることを実体験した子どもたちは試食も行い、「おいしい」「家でも作ってみたい」など、口々に感想を述べていました。
PHOTO  今回で4回目となる『わくわくモーモースクール』には、関東一円から12戸の牧場、4つの乳業メーカーが参加。それぞれのコーナーで子どもたちに説明したり、実演したりで、大忙しの1日となりましたが、子どもたちの反応もよく、ホッとしていました。
 親牛を提供した東京都練馬区の小泉牧場の小泉勝さんは、モーモースクール初回からの参加者で「おとなしい牛を選び、事前に毛刈りをするなど、準備が大変ですが、子どもたちの喜ぶ様子を見ると、うれしい。癒しの牧場をめざしたいですね」といいます。牧場が都内の住宅街にあるため、以前は近隣の住民から「くさい」と言われたこともあるそうですが、酪農体験の受け入れをやるようになってから、そういった苦情もなくなったとのこと。むしろ「がんばってください」と声をかけられることもあるといいます。
 また、『バターづくり』で、作り方を説明した乳業メーカーの担当者は「最近、酪農体験で牧場を訪れる子どもたちは増えていますが、生乳がその後、どのように処理して牛乳として出荷されるのか知らない子どもも多い。そこで、一昨年からこのイベントに参加して、子どもたちに牛乳や乳製品に親しんでもらおうと思っているんですよね」と話してくれました。
 このイベントの様子をうれしそうに見守っていた校長の鈴木清子先生も「命の大切さを学ぶのにぴったりの教育活動ですね。もともと食育に力をいれていましたので、子どもたちにはとてもいい経験になったと思います」と感想を語ってくれました。
 今回の『わくわくモーモースクール』の推進役でもある関東生乳販売農業協同組合連合会の林克郎・常務理事は「子どもたちの目の輝きが違いますね。この酪農体験学習のいいところは、酪農だけでなく、工場に運ばれて製品ができあがるまでの全体像がわかること。メーカーさんの協力を得られたことがよかったですね。今回で4回目ですが、いままでの反応を聞くと、牛乳の飲み残しがなくなったとか。今後は関東全体に広げたいですね」と満足そうに話してくれました。
 日頃、全国各地で交流活動を実施している指定団体や農協などの担当者の視察もあり「子どもたちの反応や学校との連携を知りたいと思って参加した」という担当者もいて、それぞれ熱心に視察していました。



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