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1998.WINTER Vol.1
VOICE



急がれる指定団体広域化


(1)指定団体広域化の政策方向が示される

本年4月に、政府の考え方及び将来方向、支援対策を明らかにした農林水産省畜産局長通達「指定生乳生産者団体の広域化の推進について」が出されました。
畜産局長通達における広域化の目標は、次の3点に集約されます。
  1. 最も遅い区域にあっても、平成12年度末までに、都府県に8つの広域指定団体を設立する。
  2. これと併せて、都府県毎の生産者組織も再編整備する。
  3. 生産者負担の削減と指定団体機能の強化・合理化を図る。

(2)指定団体広域化の背景

生乳が都道府県域を越えて広域的な範囲で流通し、指定団体間の販売競争が激化していく中で、都道府県単位の指定団体では集乳経費の軽減や合理的な乳価形成の機能が十分発揮できなくなってきました。また、生乳生産の勢いに地域格差が生じている中で、指定団体が現実に果している機能についても団体間格差が拡大しています。こうした情勢を踏まえ、政府が指定団体広域化の方向を打ち出しました。
広域指定団体の設立は、広域的な需給調整の実施や集送乳の合理化を通じて、酪農家の利益を最大限に確保することを目的としています。また、都府県単位より広い地域の酪農家が一つにまとまり、いたずらな産地間競争をなくし、協調体制の下で、需給調整リスクの負担をとも補償するなど、乳業者との対等の競争関係を作ることもめざしています。


(3)指定団体広域化を通じた地域間の協調体制が乳価維持の決め手!

さて、今後の酪農をめぐる環境変化の中で、われわれ生産者はどのような取り組みを行うことが必要なのでしょうか。
九州大学農学部川口雅正教授等が、(1)指定団体がお互いに無秩序な競争を止めて、とも補償などの協調体制を取った場合と、(2)指定団体が自分たちの地域の飲用率を高めるために激しい競争(完全競争)を行った場合について、各地域の生乳生産量や乳価にどのような影響を及ぼすか、を試算されています。

生乳生産量
加工原料乳価(基準取引価格) 63.02円/kg 53.02円/kg
全国 協調体制854.48万t837.62万t
 うち飲用向け547.37万t(64.1%)530.51万t(63.3%)
完全競争813.41万t725.56万t
 うち飲用向け563.11万t(69.2%)580.80万t(80.0%)
チーズ向け生産量、自家消費量を除く


プール乳価
加工原料乳価(基準取引価格) 63.02円/kg 53.02円/kg
全国 協調体制79.43円/kg78.31円/kg
完全競争76.70円/kg71.18円/kg
生乳の輸送費や指定団体の手数料を除いた価格

この試算によると、生乳生産量は、基準取引価格が下がれば下がるほど、飲用乳価への影響もあり、全国的に減少します。しかし、協調体制下では、乳価低下の抑制作用が働き、生産量は高い水準の試算となっています。基準取引価格が下がるにつれ、この傾向は顕著なものとなっていきますので、自由化や乳製品市場への市場原理の導入によって、加工原料乳の価格が今後徐々に下がった場合でも、指定団体の広域化を通じた全国的な協調体制によって、乳価の低下を防ぎ、生産量を維持することが可能となります。
また、試算では、協調体制の有無が乳価に大きな影響を与える結果となっています。指定団体が激しい競争状態にある場合、基準取引価格が下がるにつれ、プール乳価が大きく低下してしまいます。指定団体がとも補償等を通じて協調体制にあることで、乳価引き下げの抑止効果が働くことを示しています。


(4)世界中で始まった、新たな酪農家の組織づくり

海外の主要な酪農国でも、政府及び州単位で飲用乳価を安定させるため、様々な規制を行っています。日本でも、生産者組織を指定し、一元集荷多元販売の機能を付与する指定団体制度によって、生産者の立場を強化し、乳業者との対等な交渉力を持つことが重要な政策の前提となっています。
こうした考え方に基づいて、アメリカやカナダでは、日本と同様に生産者団体の広域的な総合を政策的にも強力に推し進めています。これは、国際的な農業改革の中で、生乳市場が、政府の管理によるものから、より自由な市場へ移行することによって厳しい市場競争が生じた場合、生産者間の強固な経済的団結が不可欠だと考えられているからです。
わが国における指定団体の広域化は、実は世界の酪農政策の改革方向と共通することなのです。酪農政策が世界で共通するのは、酪農が、乳牛を相手に保存性のない生乳を毎日出荷し続けなくてはならず、また、家族経営が圧倒的に多いという他の作目にない特徴を持っているからだと考えられています。すなわち、酪農生産の品目特性が、酪農家が自ら組織を作り結束して生乳販売に取り組むことを、合理的・経済的なものにしているのです。
酪農全体の利益が、個々の酪農家の利益につながるのです。広域化は、即効的なメリットというよりも、長期的に見て日本の酪農・乳業が健全に発展するための重要な鍵であるといえます。



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