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1998.WINTER Vol.1
VOICE



調査会答申が示す、わが国酪農政策の改革方針


昭和30年に農業基本法が制定されて以来、37年が経過していますが、この間に日本農業を取り巻く環境は、食品市場の国際化や経済構造の変化などにより大きく変化してきました。また、ウルグアイラウンド農業交渉で農産物貿易の関税化や国内農業保護の新たな国際規律が合意されたことにより、農業政策をめぐる環境も大きく変化しています。こうした状況に対応するため、政府は現在、食料・農業・農村政策に関する「新たな基本法」の制定と今後3〜5年を視野に入れた農業政策の改革プログラムの策定を進めています。

食料の国内自給率の向上、担い手対策の強化等を明記

政府は、農業政策の再構築を図るにあたって、平成9年4月に内閣総理大臣の諮問機関である「食料・農業・農村基本問題調査会」を設置し、本年9月に答申を取りまとめました。
答申は、(1)「食料・農業・農村政策の基本的な考え方」、(2)「具体的政策の方法」の二部構成となっています。
一部の「食料・農業・農村政策の基本的な考え方」では、今後の食料・農業・農村を考える場合の視点や現在の諸問題、食料・農業・農村に対する国民の理解を分析した後、今後の農政全般の改革にあたって、(1)食料の安定供給を確保するとともに、わが国農業の供給力を強化すること、(2)農業・農村の有する多面的機能の十分な発揮を図ること、(3)これらの目標を達成する上で、地域農業の発展可能性を多様な施策や努力によって追求・実現化し、総体としてわが国農業の力を最大限に発揮すること、を提起しています。
二部の「具体的な施策の方向」では、(1)総合食料安全保障制度の確立として国内農業を基本とする食料自給率の位置付けを明らかにすること、(2)わが国農業の発展可能性の追求として意欲ある担い手を中心とした農業構造の実現や価格政策への市場原理の活用、農業経営の安定などを図ること、(3)農業・農村の有する多面的機能を重視・発揮していくこと、(4)各種農業団体の位置付け・役割を明確にするとともに合併・総合等に努めること、(5)食料・農業・農村政策の行政手法のあり方を明記するとともに政策のプログラム化と定期的な見直しを行うこと、などを提起しています。
この答申に対する評価は様々です。従来の「農業」という枠組みから食料や農村といった大きな枠組みの中で、時代に対応した農業政策を整備するという発想や、担い手対策の強化、農業の持つ多面的機能の発揮、さらには政策の定期的な見直しを政策目標として明確に打ち出していることへ高い評価がある反面、食料自給率問題や株式会社問題などへの対応の曖昧さを批判する声も少なからずあります。ただ、いずれにしてもこうした農政改革は、今開始されたばかりですので、新たな基本法の制定や具体的な政策プログラムの策定に向けて、酪農家や指定団体の意向がしっかりと反映されるように対応していくことが大切だと考えます。


酪農の価格政策にも市場原理を導入

今回の答申において、酪農の個別政策に関連するのは、とくに価格政策における市場原理の活用として、「乳製品・砂糖・大豆等他の価格対象品目についても、制度や運営の見直しを行うべきである」と改革の対象品目に「乳製品」が名指しで取り上げられていることです。これを受けて政府は、3〜5年間の改革プログラムの中に、乳製品や加工原料乳の価格形成のあり方の見直しを行うとしています。
政府が検討を進めている具体的な改革案は、まず、乳製品についてパイロット市場を創設し、乳製品の取引について、より市場実勢を反映した価格形成を図るようにし、ここで一定の成果を上げた後、加工原料乳の価格形成にも市場原理を導入しようとしたものです。
答申では、価格政策が改革の対象になった理由として、(1)市場の情勢を農業者に伝わりにくくし、農業者の経営感覚の醸成を妨げている、(2)零細経営を含むすべての農業者に効果が及ぶため農業構造の改善を制約している、(3)内外価格差の是正につながらず食品産業の空洞化と国産農産物の需要減少を招いていること、が指摘されています。しかし、わが国酪農は、規模拡大や専業化により他の作目に例を見ない構造改革を今日までに遂げてきました。また、乳牛という生き物によって生乳は生産されていることから、市場の変化に対して生産量を自由自在に増減できないのが酪農の特性ですので、答申の指摘がすべて酪農生産に当てはまるとは考えられません。
また、一部では、不足払い制度の見直しはやむを得ない、不足払い制度をすべて廃止して直接所得補償による代替えを行う、という意見もあります。しかし、補給金制度が存在し広域指定団体による協調体制を行った場合と、制度が存在せず完全競争を行った場合では、加工原料乳が現在の基準取引価格基準でも、飲用乳価の低下、生乳生産量の減少により生乳生産額が全国で1,700億円程度減少するという試算結果も報告されています。すなわち直接所得補償による代替を行うためには、現在の補給金財源の7倍程度の予算が必要となるのです。
また、価格低落時の経営への影響を緩和するため、収入保険や収入保証の検討も進められているようですが、これは価格の暴落などによる一時的な収入減少の一部を補償することはできますが、価格が年々低下するようなこととなれば、所得確保の解決策にはなりません。


指定団体や酪農家と協力して、不足払い制度の優れた機能の維持・確保を図る

このように見ていくと、不足払い制度は、今日まで少ない予算で最大限の効果を上げている優れた制度であるということがいえます。とくに注目すべきは不払い制度の持つ、(1)加工原料乳地帯における再生生産確保・所得維持機能、(2)指定団体による生乳取引安定化機能、(3)保証価格の維持を通じて飲用原料乳の価格を下支えする機能等、の役割です。
最近の日本酪農は、労働過重・糞尿過剰等によって、今までのようなスピードで規模拡大を進めていくのが困難な状況にあります。とくに都府県でこうした傾向が見られます。今後、規模拡大が進まず、生乳生産が停滞し減少するようなこととなれば、日本における牛乳・乳製品の自給率の低下が危惧されます。こうした状況の中で、国民の期待に応え、安定的な生乳生産と自給率の維持・向上を図っていくためには、少なくとも不足払い制度が果たしてきた優れた機能を今後とも維持・確保することを基本にする必要があります。
また、一部価格政策の見直しを実施せざるを得ない場合にも不足払い制度の基本を守り、いたずらな産地間競争を防止しつつ、国内で自給が必要な飲用乳価の安定化を図る対策や生乳の流通コストなどを引き下げるための指定団体広域化など、いろいろな対策を組み合わせた総合的な所得確保対策が必要となります。
確かに米国やEU等海外の国々でも、ウルグアイラウンド農業合意以降、価格支持制度の段階的廃止ないしは引き下げを決定してきていますが、同時に酪農経営の安定化を図るために、総合的な所得確保対策や生乳取引の安定を図るための生産者組織の強化を推し進めています。また、輸入製品の関税を、これ以上引き下げないように、生産者組織として強固な姿勢を打ち出しています。こうした諸外国の状況を踏まえつつ、中酪では、酪農家が将来に対して希望が持てるような政策への転換が図られるよう、指定団体や酪農家と協力して「守るべきものは守る」という確固たる姿勢で今後の取り組みを強化していきたいと考えていますので、酪農家の皆様方のご支援・ご協力をお願いします。

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